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第十一話

 その日、僕は朝からそわそわしていた。理由は簡単、憧れの美波ちゃんとの待ち合わせ。


 一カ月前には想像もつかない出来事が待ち受けている。これも全てこの黄色いパーカーの涅槃像の様なポーズをとる幽霊……、


「って、なんで居るんすか!?」

「なんでって、守護霊?」

「いや、その死んじゃったネタ、本当に笑えないですからね!」


 そう言うと、身体を起こしふてくされた様な顔をする。


「もしかして……」

「ピンポーン! もちろん俺もついていくぜ!」


 彼は、ニッコリと笑い親指を突き立てた。

 げんなりしているのを悟ったのか、彼はニヤニヤしながら煽り出した。


「だって一人で行ったら吃ってヘタるのは目に見えているだろう?」

「くっ……それをいわれたら」

「だから、ラブをプロデュースしてやるって!」


 自信満々の彼に不安しかない。また何か余計な事をして来るんじゃないかと。だけどそのおかげで、今の関係がある。少し納得は出来ないけどその事実は受け止め無ければならないと思い渋々同行する事を受け入れて向かった。



 ──9時40分、少し早めにマルコ前着いた。

 彼女はまだ来ていない様子で、慣れない商業施設の人混みにそわそわと周りを見渡し、近くの看板を読んだりして落ち着かせる。


「緊張してんなぁ!」

「しない方がおかしいでしょ!」

「ふふん……青春、青春」


 ヒロさんのこの慣れた感じに経験値の差を見せつけられた様で少し腹が立つ。


 すると、駅の方からベースを持ったハットをかぶった女の子が歩いて来るのが見える。少し大きな緩めのアイボリーのニットにタイトなダメージパンツにブーツ。


 ファッションに疎い僕でもどことなくオシャレに感じる。その子は美波ちゃんだった。


「……まった?」

「い、いや。今来た所だよ」


 そう言うと、彼女の視線は僕をなぞる様に、上から下までを見る。何故かヒロさんは彼女の見た目に驚いている様に見える。


「期待はしてなかったけど……ダサいね」


 グサっ!

 その瞬間、心臓が潰れた様にダメージを負う。


「あはは、ダサいって言われてやんの!」

「うるさい……」


 ヒロさんにそう言ったつもりが、美波ちゃんが小さな声で「ごめん……」と呟く。


「あ、いや。そう言う訳じゃなくて」

「ごめん、拘りとかじゃなく、あんまり気にして無いだけだと思ってたから……」

「あんまり気にしてないだけです! あ、でも多少オシャレはしたいと思っているけど……」


「そっか、じゃあお金ある?」

「お……お金? いや、少しはあるけど……」

「そう、マルコに行こっか」

「……あ、はい」


 流されるがままマルコの中に入る。


「もしかしてヒロさん、私服見て美波ちゃんの事好きになりました?」

「さっきの事? 知り合いの雰囲気に似てたから驚いただけだよ」

「そうなんですか……」


 美波ちゃんについて行くと天井の高い、オシャレで高そうな店が立ち並ぶ店のエリアに入る。僕はポケットの財布を触る。


 店の大きさに対してあきらかに商品の数が少ない。その中で、見た事のある黄色いパーカーが掛かっているのを見て立ち止まった。


「西村はそれが気に入ったの? でもそれすごく高いよ?」

「高いの?」

「だってそれバレンシアガだよ?」


 よくわからない単語が並ぶ中、ヒロさんの方をチラリと見る。少しデザインが違う気もするが同じブランドであるのは分かる。


「一張羅だから!」


 恥ずかしそうにそう言ったヒロさんが、結構売れていたのかもしれないと思った。


「そんな感じのストリート風が好きなら、あっちの店をみてみたら?」


 そう言って案内された先には確かに色は違うものの似たパーカーがある。緊張しながらお店に入り値段を見ると3万近くする事に目を疑った。


「3万もするんだけど……」

「こっちのブランドで驚くなら、さっきのは値段見ない方がいいかもね」


 マジかよ。予想していた金額の斜め上。バイトで稼いでいると思っていたが格差社会はここまで進んでいたのかと落胆する。


「やっぱりこういう服の方がいいのかな……」


 ダサい格好の人と一緒に歩きたくないからなのか、イメチェンさせたいのかはわからない。だけど、彼女がここに連れてきたのには理由があると思った。


「気に入ったのを着ればいいよ」

「えっ? だって市村さん……」

「別に、西村がオシャレしたいって言うからファッションのフロアにきただけ」

「でも、ダサいって……」


 そう言うと、彼女はきょとんとした顔をする。


「意外と気にしてたんだ?」

「それは……ね。だからマルコに連れてきたんじゃなかったの?」

「ああ、なるほど……」


 なるほど?

 彼女はそう言うと、落ち着いた口調で話した。


「あたしはね、バンドするなら嘘はつきたくないと思っているの。やりたい事するんだし、納得してしたいんだよね」


 彼女はそう言って歩き出す。後をついて行くとエレベーターの前で止まる。


「あたしね、好きなアーティストがいるんだ」

「好きなアーティスト?」

「うん、その中でもベースの人が好きで……ギターしてる西村なら分かると思うんだけど」


 僕なら……ヒロさん?

 いや、ギターでいうとRISE UPの人になるのか?


「ほら、うちの学校ってあんまりいないじゃん? バンド系が好きなのも知り合いは狭山くらいだし」

「そうなんだ……」

「ずっとバンドしたかったんだけど、音楽を話せる人もいないしどうしようかなって」


 以前から彼女が少し浮いた様に感じていたのはそのせいだったのかもしれないと思った。


「でも、西村なら話せると思ったんだよね」

「僕?」

「だってギターしてるんでしょ? したいと思っても一人でバイトしてギター買ったり、そういうの実際出来るのはよほど好きじゃないとできないよ」


 そう言われればそうかも知れない。

 だけど僕は、ヒロさんが居たから始める事になったわけで、なんとなく後ろめたい気持ちが残る。


 エレベーターに乗り7階に着くと、ワンフロアまるまるCDを売っている店が広がっている。


「だから、好きなバンド知って貰いたかったんだよね……」

「ここに来たかった……のか」


 普段あまり笑わない彼女が、自然な笑顔を見せる。いつもみたいに俯瞰した様な笑顔じゃなく、おもちゃを買ってもらう少女の様なキラキラとした雰囲気に僕は目を奪われた。


 憧れとか、そういうのじゃなくもっと別の意味で彼女が好きだと感じた。


「西村、こっちこっち!」


 彼女が呼んだ先で彼女はラックにならんでいる『KANA』と書かれたCDを指差した。


「これなんだけどさ──」


 ワクワクしながら、向かいCDをみる。彼女は嬉しそうに僕の顔を見た。


「あたしらと2歳しか違わないんだよ、去年まで"ハンパテ"ってバンドしててね──」


 彼女のはなしを聴く僕がふとヒロさんの方を見ると、彼は少し離れた場所で無表情で立ち尽くしていた。

お読みいただきありがとうございます。


ここで前作との繋がりが……って最初からでてるんですけどね……。


♪♪♪


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