第十話
「なぁ西村。バンドって何やればいいんだ?」
美波ちゃんのベースを買った翌日。狭山は僕にそう言った。昨日ベースを教えられる様にヒロさんには色々と教えてもらってはいたが、ボーカルの狭山としては暇なのだろう。
「曲……を合わせる為には曲を決めないとね」
「そうだよなぁ……バンド始めたって言っても曲無いからなぁ……楽譜とかないとできねぇんだろ?」
「そうだね」
そう、まだ僕らには合わせる曲すら無い。それ以前に僕はまだ楽譜なんて読んだ事すらない。
「ちょっと、知り合いに聞いてみるよ」
「ああ、俺もバンドしてる奴とかに楽譜ないか聞いてみるわ!」
この日の朝、ヒロさんは居なかった。昨日遅くまで練習して、僕が寝落ちした事もあり朝には居なくなっていた。
「なんで居ないかなぁ……」
別に彼と約束している訳でもないし、朝来なくてはいけないという事も無い。今まで勝手に来ていただけなのだ。
少し心細く思いながら授業中楽譜の読み方をこっそりスマホで調べていた。その内容によると、ギターには音符を読む方法とTAB譜というものがあるらしい。
うん……音楽の授業で習ってはいたけど、楽器や曲が無いといまいちよくわからない。気づけばそのまま昼休みまで食い入る様に調べ続けていた。
「ねぇ……」
「数字は分かったけど……うーん」
「ねぇってば!」
「へっ? うわっ!」
呼ばれた声に振り向くと美波ちゃんが居るのがわかる。
「何驚いてるのよ。それで……もう昼休みだけどお昼は食べたの?」
「本当だ。いや、まだ食べてないよ……」
僕がそういうと、空いている前の席に座る。だけど横を向き、身体はこちらには向けなかった。
「ご飯食べながらでもいいんだけど……週末は空いてる?」
「週末? 明日……土曜なら別にバイトとかも無いけど」
一瞬期待してしまったのだけど、ベースの事なのはすぐに理解した。
「それじゃあ……」
「うん、どこにする?」
「マルコに10時で……」
……?
マルコ? 僕の記憶が正しければマルコはお洒落な人の行く商業施設だ。楽器屋もなければ練習できる様なスタジオなんてある様には思えない。
だが、カッコつけたい年頃でもある僕は「分かった」とだけ返し、お弁当を食べながらマルコの地図と施設を検索した。
どう見ても練習なんて出来そうに無いんだけど、待ち合わせというだけなのだろうと深くは考えないようにした。ふと彼女を見ると、奥にこちらを見ている男が居る。
「気づいた?」
美波ちゃんは顔を寄せて小さく言う。後ろに見えるのは鞄にエロゲを入れている印象しか無い太田だ。
「僕と市村さんが話しているのが気になるのかな?」
そうは言ったものの、周りを気にせずエロゲを眺めている様な奴であまりいい印象は無い。
「でも、どちらかというとあんたの事みてるよね? 友達なの?」
「いやいや、そんな事は無いけど……」
「まぁ、いいけど」
そう言って美波ちゃんは席を立った。
奴の持っているエロゲに興味がない訳では無い。だけど美波ちゃんの前となると話は別。
僕は彼の事をヤバい奴と思うと同時に、自分の趣味を全面に出せる事を羨ましくも思っていた。
帰り道、家に着きそうになると見覚えのある黄色のパーカーが見える。彼は気づいたのか手を振り近づいてきた。
「よっ!」
「ヒロさん、今日はどこに行ってたんですか?」
「なんだよ、いつもは嫌がるくせに」
彼なりに気を使っていたのだろうか?
「狭山がバンドするって何すればいいかなって。やっぱり何かコピーとかした方がいいですかね?」
そういうと、少し考えるような素振りを見せる。
「そうだな、コピーするのがセオリーかな」
「僕はまだ楽譜とか読んだ事無いんですけど……」
コピー出来ないじゃ無いですかと、いいたいのを抑え、ジト目でヒロさんを見てみる。
「そうだな、楽譜か……まぁ、TAB譜はすぐ読める様になるだろうし、楽譜の上のコード弾けば形にはなるとおもうぜ?」
「コードってあの?」
「そう、バンドスコアだったら書いてない事はないだろうしな!」
「そうなんですか……」
「ただ、折角だしオリジナルやってみたらどうだ?」
ニッコリと彼は笑う。
「いやいや、無理ですって!」
「そうか?」
「そうですよ……」
「でも、初めて弾いたのはオリジナルだぜ?」
確かに僕が初めて弾いたのはヒロさんのオリジナルの曲だった。
「だけどあれはヒロさんが……」
「そう、だから俺が作ればいいんだよ」
「それは」
「祐樹が作った事にすればいい」
「……なんとなく嫌です……」
「なんでだよ、印税も知名度も俺にはもう必要ないし、俺は祐樹のプロデューサーみたいなものだぜ?」
それでも、ズルいとか以上になんとなくモヤモヤしたものが引っかかり首を振る。
「そっか、それなら二人で作ろうよ」
「そんな事できるんですか?」
「曲って別に一人じゃないと作れない訳じゃないし、アレンジだってそれぞれが作るだろ?」
ヒロさんはCDの音源は、色々な人が様々な事を考えて作っているのだと言った。
「上手い奴は沢山いるけど、自分を出したアレンジが出来るかどうかが俺はプロとの境目だと思う。もちろんパフォーマンスやキャラクターででも構わないと思うけど」
自分のアレンジ、自分の音。それは偶然たまたまなってしまう物じゃない。ちゃんと世界観を作り上げた上でらしさを出さなくてはいけないのだと言った。
「うちはちゃんとアレンジ出来るのが俺と雅人位だったな……」
さりげなく呟いたのは、生前のメンバーなのかもしれない。バンドというものに現実味を帯びて来たいまだから分かる。メンバーは友達とはちょっと違う特別な存在なのだと感じていた。
お読みいただきありがとうございます。
バンドメンバーとの独特な距離感。今回はその雰囲気を出したくてストーリーを作りました。
♪♪♪
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