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スマイル売り切れ物語

突然ですが僕は人の笑顔が好きです。

笑うという行為はシンプルに人を幸せにします。だから好きです。

僕の名前は二子玉(にこたま) 仁孔(にこう)、男子の高校二年生です。出来ればニコニコ君と言われたいけど、友達は僕のことを名字か名前で呼びます。世知辛い。

自分の容姿のことは、よく分かりませんが、女子からは「爽やかすぎてキモい」とよく言われます。これも世知辛い。

でも、辛いときも人の笑顔をみれば一気に救われるので、人生って上手く出来てますね♪

それで高校生なんで友達とハンバーガー屋でダベったりするわけですけど、注文の時に食べる物を頼んだ後に、必ず僕は「スマイル下さい」と注文するのです。たまに店員さんによっては嫌な顔をする時もありますが、結局は笑ってくれるので、このサービスは僕得です♪

しかし、最近それがままならない事態が起きました。

いつもの様に放課後ハンバーガー屋に行き、注文しようと思ったのですが、そこには目を疑うほどの美人の女店員さんの姿がありました。

黒いロングの髪に、雪のように真っ白な肌、細くてクールな目、触りたくなるプルンとした口元、そしてボンキュッボンの抜群のスタイル・・・僕も男子高校生なので、こんな美人さんを目の前にしたらドキドキしちゃいます。

「すいません・・・注文をお願いします。」

消え入りそうな声で話してくる美人さん。胸元の名札には松本と書かれています・・・てか胸デカい。

「あの・・・。」

「あっ、すいません!!えっと、ハンバーガーとイチゴシェイクと・・・」

相手が美人の女の人でも、僕は頼んでみせますよ!!むしろ松本さんの笑顔が見たい!!

「スマイル下さい!!」

店内に響き渡るほどの大声でスマイルを注文する僕。周りの人が白い目で僕を見て、友達は仲間と思われたくないのか離れていきました。だが松本さんの笑顔が見られるなら・・・。

「・・・売り切れです。」

「はい?」

僕は耳を疑いましたが、更に松本さんはこう言い直しました。

「私のスマイルは・・・売り切れです。」

う、売り切れ?そんなアホな。

「そ、それでは・・・番号札を持ってお待ち下さい。」

空気に耐えきれなくなったのか、僕に六番の番号札を渡し、彼女は厨房の奥に行ってしまった。僕は軽い放心状態になり、番号札を持って呆けていました。その内に松本さんがハンバーガーとイチゴシェイクの乗ったトレイを持ってきてくれたのですが、やはりその時も笑ってはいませんでした。

こうなると気になってハンバーガーもイチゴシェイクも味気無いです


次の日、休みだったのでハンバーガー屋に直行。開店時間と共に店に入る僕。冷静に考えると松本さんが居ない可能性はあったのだけど、ちゃんと居ました。

「いらっしゃいませー・・・あっ。」

僕の顔を見て、あからさまに気づいた顔をする松本さん。どうやら顔は覚えられてるらしい。好印象ではなさそうですが。

会って早々に僕はカウンターに駆け込み、ハンバーガーとコーラを注文し、再びこう頼んだ。

「スマイル下さい!!」

「すいません、売り切れです。」

ほぅ、今日も売り切れですか。だが今日は後ろに並んでいる客も居ないので、お喋りぐらいは出来そうです。

「どうして、スマイル売り切れなんですか?」

「えっと・・・答えないと駄目ですか?」

確かにその通り、僕は客とはいえ、彼女はプライベートなことを言う義理は無い筈です。

しかし、僕の知りたがりは抑えきれなかった。

「出来れば教えて欲しいです!!」

強めに言ってみました。こんなに積極的になるなんて珍しいです。

「そ、そうですか・・・なら、教えます。」

どうやら教えてくれるみたいです。可能性は無い思ってたけど、言ってみるもんです。

「私は実はこのハンバーガー屋の社長の娘で、今は父の命令で研修で出されてるんです。それで小さい頃、よく社交界のパーティに連れて行かれ、父は私に愛想笑いを強要しました。そうしてる内に学校でも私は愛想笑いをするようになりまして、楽しくも嬉しくも無いのに笑ってる内に、いつの間にか私は笑えなくなりました。お医者様は精神的なモノだとおっしゃいたしたが、私はきっと自分の中の笑顔を使い切ってしまったのだと思いました・・・これが私のスマイルが売り切れの理由です。」

・・・い、意外と重い。途中から聞いたことを後悔するぐらいに。でも聞いてしまったのだから、後には引けません。

「僕は人の笑顔が好きなんです。だからきっとアナタを笑顔にしてみせます。」

凄いですよね。突然、僕はこんなこと言ったんです。きっとテンション凄く上がってたんですね。

松本さんは顔を赤くしています。笑ってはいませんけど。

「あ、あの・・・もしかしてプロポーズですか?」

勘違いされちゃいました。まぁ、こんな綺麗な人を嫁に出来たら人生最高でしょうけど、僕、高校生ですから、結婚とか気が早いです。

単純に僕は笑わない人を笑顔にしたいのです。

「プロポーズではありません。アナタの笑顔が見たいだけです。」

「そ、そうですか・・・でも無駄だと思いますよ。」

そう言われるとやる気が出ますね。次の日から僕の『松本さん笑顔作戦』が始まりました。

まずは、女装して店に行きました。いきなり奇手ではありますが、これは結構効果的では無いでしょうか?セーラー服を着て、金髪のカツラを被り、ムダ毛を剃り、若者らしく後先なんか考えずに行きました・・・まぁ少し問題はありましたが。

「ハンバーガー1つ頂けるでしょうか?」

出来るだけ御嬢様っぽく僕はそう言いました。すると・・・。

「かしこまりました。番号札を持ってお待ちください。」

普通の対応でした。それもその筈、ウチの姉ちゃんが僕に気合いを入れてメイクした結果、僕は自画自賛する程に美人の女の子になってしまったのです。いやぁ、こんな女の子居たら僕だって付き合いたいですよ。

ちなみに番号札を持ってきた時、念の為に「スマイル下さい」と言ったけど、やっぱり売り切れでしたね。

次は学校の友達と漫才をしましたが、これは詳しく話すつもりはありません。何故なら僕の黒歴史No.1にランクインする程に滑ったからです。松本さんはもちろん、周りの店員も客も冷たい視線を僕らに送りました。

店を出た後、お互いの悪口を良いながら友達と僕は殴り合いの喧嘩を始めました。とても醜い喧嘩でしたが、喧嘩したことにより、前より仲良くなれた気がします・・・って、いやいや本題からズレてますがな。

今度はぬかりが無いように、時間を掛けて仕込んでみました。

着物を着て、扇子を持ち、カウンターの前の床に座布団を置き、そこに正座しまして。

「え~、毎度バカバカしい笑いを一席。」

「や、止めてください・・・お客様。」

彼女は困った顔をしていたけど、落語が一旦始まれば、後はオチが付くまで一直線。へっへ、寝る間も惜しんで覚えてきた『芝浜』で、松本さんを笑わせてみせる。

「・・・よそう、また夢になるといけねぇや。」

よしオチまで綺麗に決まった!!さぁ、松本さんの表情は如何に?

「えっ、あっ・・・お上手でしたよ。」

畜生!!困った顔をしてるよ!!そのくせ愛想笑いの一つも無い!!徹底してるぜ松本さん!!

それから一週間悩みましたが、もう僕には次の打つ手が無く、駄目元で初心に帰ってみることにした。

「ス、スマイル下さい。」

「う、売り切れです。」

ですよねぇ、人生そんなに甘くない。

「あの、もう私の研修終わるんです。」

「はっ!?」

これは予想外過ぎて、開いた口が塞がらないよ。

「ど、どうしてですか!!」

冷静なれば研修期間が終わったからだろうと考えられるのだろうけど、松本さんから伝えられた真実はそれとも違った。

「今度、私結婚するんです。だからもうココには来れなくなります。」

「そ、それは望んだ結婚なんですか?」

ぐいぐいと込み入ったことを聞いてしまっていますが、この際気にしません。僕にとって死活問題ですから。

「望むとか、望まないとか・・・私はこのハンバーガー屋の社長の娘ですから、会社の為の政略結婚することもやむ無しです。」

まぁ、素晴らしい理由ですこと、素晴らし過ぎて反吐が出ますね。

「全然笑えませんね。そんなの誰が笑顔になるんですか?とにかく松本さんは笑えなそうですね!!そんなこと許すわけにはいきません!!」

「い、いやその、そんなことを言われても。」

「松本さんの気持ちも分かります!!これでは僕と結婚の板挟みですもんね!!それは辛いです!!だから決着を付けさせて貰います!!」

「けっ、決着?」

彼女が首をかしげたくなる気持ちも分かります、何故なら僕すら決着の意味が分かってないですから、ノープランの極みです。

「と、とにかく仕事が終わったら近所の公園に来て下さい!!一生のお願いですからね!!指切りげんまんですよ!!」

無理矢理に約束を取り付けて、僕は公園のブランコに座って待機。今は夕方ですから、仕事が終わるまで、あと二、三時間といったところでしょうか?

それまでになんとか、どうやって松本さんを笑わせるか?を考えよう。


~三時間後~

夜空に星が煌めいてます。綺麗ですね。

「あの仕事終わりました。それで決着とは?」

うんうん、松本さん、私服は白のワンピースですか、素晴らしいですね。

はぁ・・・結局笑わせる方法なんて考え付きませんでしたとさ・・・チャンチャン。

と、これで終わるわけがない。

苦し紛れに僕はとんでもないことを言い出した。

「に、にらめっこしましょう。これから次の日の出まで!!それでダメなら諦めます!!」

苛酷!!あまりにも苛酷な勝負!!しかも彼女にメリット無いし!!バカだな僕は!!絶対後々になって思い出して恥ずかしくなるヤツ!!

「分かりました。やりましょう。喉乾いたり、お腹空くといけないんで、コンビニで何か買ってきますね。」

えっ、良いの?やるの?にらめっこ?

こうして互いにベンチに座り、日の出まで耐久(休憩有り)のにらめっこが始まりました。

これは苛酷です。綺麗な彼女の顔を凝視するというのは、思春期の僕にとっては恥ずかしいやら嬉しいやらです。しかし、笑わないな。何かした方が良いかな?・・・いや、にらめっこで何か下手なことをすると、自爆して笑ってしまう可能性があります。やめときましょう。

二時間程して休憩タイム。松本さんが買ってきてくれたオニギリを頬張り、お腹いっぱいにして鋭気を養います。

「ねぇ、どうしてアナタは私を笑わせたいんですか?私の笑顔にそんな価値あるでしょうか?」

不意に松本さんからそんなこと言われて、普段の僕なら戸惑うところでしょうが、何故だか今の僕はすんなりと彼女の問いに答えることが出来ました。

「価値が有ろうが無かろうが、そんなことは関係ないんです。僕がアナタの笑顔が見たいだけ。そういうことなんで、にらめっこを再開しましょう!!」

どういうことなのだ?と自分でもそう言いたくなるけど、ここは若者の勢いで押しきることにしました。

にらめっこを再開しても相変わらず表情筋が動かない松本さん。ですが顔の造形が綺麗なので飽きないんですよねコレが。何時間でも頑張ります。




・・・公園の時計が4時50分になりました。もちろん朝のです。

空が少し明るくなってきて、もうすぐ夜明け。

ですが変わらぬ松本さんの顔。たまに自爆覚悟で変顔をしてみたのですが、彼女の顔に変化はありません。口を大きく開けたかと思ったら欠伸だった時の僕の絶望感は誰にも分からないことでしょう。

結局いくら頑張っても駄目でした。何が「人の笑顔が好きだ」だ、たった一人の女性も笑顔に出来ずに、愛の無い結婚地獄に彼女が落ちていくのを見ていることしか出来ません。・・・というか、別に彼女を笑顔にしたところで、結婚をとりやめてくれるとは限らないわけで、これではただの自己満足ですね。あぁ何もかも虚しい、泣けてきたした。てか泣き始めました。

「ひっく、ひっく・・・。」

うわぁ、情けない男泣きだぁ。ダサいなぁ、僕は。

僕が泣き出したのを見て、彼女はビクッと驚いた様子ですが、当然笑うわけが無い。最後にこんなことになってすいませんねぇ。もう潔くギブアップしますから。

と、ここで予期せぬことが起きました。突然、松本さんが右手の人差し指で自分の鼻を押してブタ鼻を作りました。えぇ、これはまごうことなきブタ鼻です。

そんで一言、恥ずかしそうにこう言うわけです。

「ブゥー・・・ブ、ブゥー。」

暫く間を置いて、僕の涙は完全に止まり、悲しみの感情が消え去り、代わりに沸き上がって来たのは・・・。

「プッ・・・あっはははは!!ウヒャヒャヒャ!!ギャアハハハハハ!!」

笑いでした。こんなにバカ笑いするなんて、いつ以来でしょう?とにかく笑いが止まりません。

「ギャハハハハ・・・ゴホッ!!ゴホッ!!」

あまりに笑いすぎて咳き込む僕。

「だ、大丈夫ですか!?水を飲んで下さい!!」

慌てて、さっきまで自分が飲んでいた水の入ったペットボトルを手渡してくれた松本さん。ありがたい、これって間接キスですね?

「ゴクッゴクッ・・・プファ!!・・・ありがとうございます。」

「い、いえ私も慣れないことをしました。」

「どうして僕を笑わせたんですか?」

「いやアナタは泣いてるより・・・笑ってる方が素敵ですから。」

そうかピュアな気持ちかぁ。流石は松本さん。敵わねぇなぁ。

水を飲んで冷静になった僕は、お日様が出たことを知りました。もうタイムアップというか、笑ったので僕の敗けですね。

「敗けました。もうアナタは自由です。政略結婚頑張って下さい。影ながら応援しています。」

色々と力尽きた僕は、真っ白に成りかけましたが、松本さんは僕を見つめています。心なしか怒っている雰囲気を醸し出してます。

「もう諦めるんですか?私のスマイルが売り切れのままで良いんですか?」

「えっ?・・・そりゃ、スマイル売って欲しいですけど、松本さん結婚するんですよね?」

「結婚はしません。」

「ふぇ?」

まさかの結婚しない宣言に、僕の頭はパニック状態ですが、そんなことお構い無しに、彼女はこう畳み掛けて来ました。

「考えてみれば、なんで私があんなクソハンバーガー屋の為に政略結婚しないといけないのか?考えたら馬鹿馬鹿しいと思いました。だから結婚しません。研修は続けます。」

「わぁ、急に口が悪くなりましたね。」

でも怒った松本さんも綺麗だなぁ、こうなると、やっぱり笑顔見たいなぁ。

「分かりました。それなら僕もいつかアナタを笑わせてみせます。絶対です。」

「はい♪」

・・・その時、突然の至福の時間が訪れ、僕は嬉しすぎて昇天しそうになりました。

「ど、どうしました?」

松本さんは不思議そうに僕の顔を覗き込み、僕はハッと我に返りました。

「い、今のはノーカンですから!!見なかったことにします!!」

「はい?」

一瞬、垣間見えた彼女の笑顔。その笑顔に誓います。必ず僕が彼女を笑顔にしてみせます。

「スマイル下さい!!」

「はい、売り切れです。」




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