ー誤解ー
アカズサさんの暴走から一夜開け
私は朝日の差し込む窓のある
イオリくんのお部屋で目が覚めた。
・・と言うのも
----前日----
「・・・ったく、
"約束"を交わす行為が僕達にとって
どんなにハイリスクな物かはアカズサ
お前が一番良く分かっていると思っていたよ。」
イオリくんの冷たい目線を、
アカズサさんはものともせずに見つめ返した。
「理解しているさ。
でもそのリスクを犯した所で俺が犯した罪には到底及ばない。
俺はシオンに償わなくてはならないんだ。」
アカズサはそう言うと、
あの女・・・シオンの手を優しく握ると
その手を苦渋の顔で見つめている。
・・イオリは、
昔から交流のあるアカズサの
実直な性格を嫌と言うほど理解していた。
だから狂気に囚われ
己が欲望の赴くままにシオンを
鳥籠の中に閉じ込めようとした自分自身を恨み
リスクを承知で償いをしようとするであろう事は
イオリには容易に想像できた。
だからこそシオンに
アカズサの部屋には近づかないように警告した上で
アカズサを部屋に閉じ込め
ドアにイオリ自身の魔力で封をする選択肢を取った
イオリだったが
結局、その封はアカズサ本人の魔力に弾かれ
あっさりと破られてしまったのだった。
「バカアカズサ・・・・
・・・・はぁぁぁぁ、分かったよ。」
しばらくの間犬(狼?)になったアカズサさんに
右手を握られ続けて
お犬様の肉球に何とも言えず癒されていた私は
イオリくんの盛大なため息によって急激に現実に押し戻された。
「?イオリ?」
ーーイオリくん?ーーー
「バカ正直な取り引きしかできないアカズサじゃ
情報網なんかたかが知れているだろう
僕が調べてやる。
面倒くさいし
迷惑極まれりだけど
とっととソイツには
僕の目の前から消えてもらいたいのも事実だし
仕方ないから今回だけは僕も動いてやるよ。」
ーー!!!ほ、本当ですか!?ーーーー
「イオリ!!
ありがとうお前ならそう言ってくれると思っていたよ。」
「お前、勘違いはするなよ、
僕は目障りなお前を早くどこえなりと消したいだけなんだ。
早くまた
いつものように読書に没頭する毎日を送りたいだけだ。」
イオリくんはそう言うと
私の目線に合わせて人差し指を指してくる。
ーーーはい、よろしくお願いします。ーーー
「・・・本当なら
この後にすぐにでも捜索を開始したい所なんだが
・・・すまないシオン
俺は今イオリに力を抑制されていて
思うように動けない。
捜索は明日からでも構わないだろうか?」
ーーーはいもちろんです。
ゆっくり休んで下さいーーー
アカズサさんは瞳をシパシパさせて
とても眠そうだった。
「ま、
その辺のヤツラなら僕が本来の姿で直接封をした時点で
起きてなんていられないはずだし
アカズサは特例なんだよ。
今日の捜索は
そこの女と僕でやっておくから
明日からはバシバシ働いてよね。」
イオリくんは
至極当然とでも言うように
自身の魔力の壮大さを自慢したかと思うと
アカズサさんを自室の部屋に押し込んだ。
-------ううう、また、苦手なイオリくんとペアか・・・・
・・・いや、泣き言は言っていられない
イオリくんの情報網を信じて
今日の内に少しでも情報を得ないと。
「さて
今は正午くらいか
まずすべき事はお前からの情報だ。」
イオリくんと私はキッチンルームに入り
イオリくんが新しく入れたコーヒーカップ2つを
テーブルに並べ
自身のコーヒーに
これまたタップリのミルクを注ぎながらそんな事を話し始めた。
ーーーー?私の事?
でも私
以前にも話した通り何も覚えていないんです。ーーー
「ソイツと対峙したのを覚えていなくても、
何でもいいから思い出せる事は僕に全て話せ。
何か無いのか
違和感とか、
既視感とか、
何でもいい。」
私は、
イオリくんにそう言われ少し戸惑ったが
瞳を閉じて
改めて記憶のカケラを探す。
でも、
やはり以前アカズサさんの前で発狂した時の
記憶すら曖昧になっている。
集中しても
記憶の映像に何か膜を張られたように
全ては霞んでしまっているのだった。
ーーーーナニかーーーー
ーーーーー何かーーーーーーー
ーーーーーーーーあーーーーーー
「ん?
何
何か思い当たる事でも思い出したの?」
ーーーいやでも
これは勘違いかもしれないし・・・・ーーーー
「それはお前じゃなくて僕が判断する。
話せ」
イオリくんから貰った
甘くないが温かいコーヒーを一口啜ると
私は深呼吸をして
目覚めてからのこの2日間に夢の中で聞こえて来る
(あの声)について話し始めた。
ーーー声がね、するの
オイデ
オイデと
私を探している誰かのコエをーーーーー