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ーユメモノガタリー  作者: 久川 りつき
8/50

ー危険な愛情ー



私はあまりの異様な光景に、


声にならないー声ーすら出なかった。



「あのバカ、


狂気に蝕まれて我を忘れて暴れまわったけど、


何とかアイツの部屋に押し込んでやったよ。」



そう、


呆れたような物言いで


アッサリと凄い事を言ってのけるイオリくんを


私は半ば引きつった顔をしながら聞いていた。



ーーあ、暴れたって・・・ーー



「そうだよ、


アカズサは狼の化身だし


元になって暴れられるといつも部屋がメチャクチャになるんだ。


でも、


アカズサが前に暴れたのなんて多分500年位前だし


今回はお前のせいか、ちょっとひどかったね。」




---・・・イオリくん、



私の頭の中の容量が悲鳴をあげ始めました。


ニンゲンではないと聞いてはいたけれど、


まさか


アカズサさんが狼だったなんて・・・


確か・・・



耳もシッポも無かったように、思う。




ーーー・・・じゃあ、イオリくんも




ーー何かの化身なんですか?ーーー




私が恐る恐る聞くと



イオリくんは私を見るなりニヤリと笑って。




「お前になんか教えてあげないよ。」



と言いわれてしまった。


そうこうしている間に手当てを終えたケケは


イオリくんが何を言う事も無いままなのに


深々とお辞儀をすると、


またするりと後退し壁の中に消えていった。




ーーケケちゃんーー




「?お前、


あのネズミと話したのか?」




--------あ-----


----しまった


そう言えばイオリくんに


余計な者とは話すなと言われていたんだった。


・・・名前を知っていた時点で、


多少なり会話を交わしたと思われても仕方ない。


私は怒られるかもとイオリくんの様子を伺ったが


当のイオリくんは特に気にしてはいないようだった。



「ま、


どうせ会話なんか成立しなかったろうし


どうでもいいや。


それよりあそこにある


赤いドアの近くにはしばらく行くなよ


アカズサの部屋だから。


近づけばアカズサが目覚めてしまうかもしれないし


お前が死のうが構いやしないけど


アカズサの体はまだ休めないとならない。」



イオリくんはそう言うと、


傷口を確認している。



-----あ------




ーーイオリくんーーー





「なに」




ーーーアカズサさんの為だったとは思うけど、


・・・ありがとうーーー



「・・・・」




「アカズサの為だ、お前に礼を言われる覚えはない。」




イオリくんはそう言うと


自分の部屋であろう青いドアの部屋に


スタスタと入って入ってしまった。




------・・・壮絶な1日だった。-----


とりあえず、


体が鉛のように重くなり


私もとても眠かったので


自分に当てがわられた部屋のベッドに倒れ込むと、


そのまま




ズブズブと夢の深くに沈んで行った。





ーーーーオイデーーー









ーーーオイデーーーー







ーードコニカクレテモーーーー








ーーーカナラズーーー










ーーーームカエニイクヨーーーーー










ーー!!!!!!ーーーー




ーハァーッーハァーッー




私は、


以前に感じた嫌な気配で目が覚めた。


体が震えている



布団の上から私は両手で両肩を抱えてうずくまった。


気のせいであって欲しいけど、



以前よりその気配が強くなっている気がした。












----トンッ-----トンッ-----






すると、


誰かが私のいる部屋をノックしているのに気がついた。


するすると


ケケがかけてくれたのであろうシーツを払い


私はドアに向かった。





ーー・・・はい・・ーー





「・・・・」





ーーー?ーーー





てっきりイオリくんだと思っていたが、


どうやら違うみたいだ。









・・・まさか・・・あの夢の・・・






「シオン、起きているかい?


俺だよ、アカズサだ。」






ーー!!!!!!!ーーー







私は思わずドアの止め金をかけて後ずさる。


昨日イオリくんから聞いていた限りだと


そんな直ぐに収まるものなのだろうかと思った。



私が沈黙していると、



アカズサさんはドアノブには手をかけずに話続けた。





「・・・怖い思いをさせて済まなかった。



シオン


どうか俺を怖がらず出て来てほしい。」







--------・・・シオン--------







その名前は、


昨日アカズサさんが付けてくれた名前だった。


最初、


名前が思い出せないままでは呼び名に困るから


アカズサさんが付けてくれたのだと思っていた私は、


嬉しさが確かにあった



でもその直後


イオリくんが放った言葉は


そうではなく


私をこの場に止まらせる為にあえて


(名付け)たと分かってしまった。



私は



言葉を返すのをためらった。




「シオン


お願いだ出て来てほしい。



出て来て



その顔を見せてはくれないか


大丈夫



もう俺はシオンの知っている姿に戻っているから。」



そう言うと、


今度はドアノブをガチャガチャと回す音が室内に響く。



私は怖くなり


部屋の一番奥に体を擦り付けて身構えた。



・・・アカズサさんなのに



何だか






チガウ気がする。






ガチャガチャと回されるドアノブが、



フと静かになったかと思うと











ガシャーーーーーンッ!!







突然の轟音に


私は声にならない叫びを上げてしゃがみこんだ。



恐る恐る目を開けると


ドアは木っ端微塵になっており


それどころか、壁もろとも吹き飛んでしまっている。





その壁の前には、






目が赤く光ったアカズサさんが佇んでいた。






ーーーヒッーーーー






「アアァ



そこにいたね





シオン」




アカズサさんは私を見つけるなり顔を綻ばせ


大きく崩れた壁を越えてコチラに向かってくる。





ーーーアカズサさん




ま、待って下さいーーー






「大丈夫だよ


怖がらないで



俺はシオンに危害を加えるような事は絶対にしないから」






------ヤバイヤバイヤバイヤバイ-----






絶対にまずい






脳は警鐘を鳴らしているが、


今アカズサさんが立っている入り口以外に



ここには窓すらない。



このままだと、


アカズサさんの手が私に届いてしまう。


私は息を深く吸い込んで、



思い切り声にならない声で叫んだ。





ーーーーイオリくーーーーーん!!!!!ーーーー






「!?」





アカズサさんは




叫ぶ私を驚きの顔で見つめている。




「・・・何で・・・











イオリの名前を呼ぶんだ・・・」




アカズサさんはそう言うと


赤く光る目を憎々しげに細めて私に手を伸ばす。






-------こ、殺される------!!!!







そう思うが早いか、



アカズサさんが私の頬に手を触れるのが早いか


その瞬間



私は突然感じた突風に驚く間もなく開けていられず目を閉じた。





----何かが、頬をサワサワと撫でている。------





ーーーー???ーーーーー





ソッと目を開くと、


目の前には



私の視界いっぱいに黒いネコの顔が見え




私はしばらく思考が停止した。






ーー・・・・・・



ネコ、ちゃん?ーーーー






「・・・ネコなんかと一緒にするな、


僕だよ。」






何と







イオリくんはネコの化身だったのだ。




私はまた呆然となりかけたが


アカズサさんの事を思い出して咄嗟に身構えた。




ーーい、イオリくん、アカズサさんは?ーーーー




「ここだよ。」




大きく黒いイオリくんの(ネコの)手がどかされると



そこには普通の犬よりは大きな



アカズサさんらしき狼が眠っていた。






ー・・・あ、アカズサさん?なの?ーーー




「全く


僕にここまで力を使わせるなんて・・。



とりあえずアカズサには


しばらくこの姿見でいてもらう。


この姿では力も使えないしね


少し荒療治だったけど、アカズサも反省が必要だ。」



イオリくんはそう言い、


大きなネコの姿が弾けたかと思うと


中からイオリくんの姿が見え


ネコだった外側はイオリくんの影のなかに吸い込まれていった。






ーーーす、凄いーーー






「あーあ


お前なんかに絶対見せたくなかったのに



アカズサには後でタップリとお返しして貰わないと。」




イオリくんはそう言うと、


アカズサさんの毛並みを優しく撫でる。





------イオリくんにとって、


アカズサさんはきっと、とても大切な人なんだ。


そのアカズサさんが、


私みたいなただのニンゲン


さらには色々欠けてしまっているであろう


私に執着していることに苛立っているのは、


当たり前なのかもと、思った。







「・・・・・んーーー、」





「起きたかい、



バカアカズサ。」





「・・・?イオリ?



・・・・あれ。」




アカズサさんの瞳は


最初に会った時と同じ


黒い瞳と赤い瞳のオッドアイに戻っていた。


目の前にいたイオリくんに不思議そうな顔をしたあと、


自分の姿が犬と変わらぬ姿に少し困惑しているようだった。





「・・・やっぱり、覚えてないんだな。」








「・・・、イオリ、俺は、何をした・・・・?」







今の状況の答えが見つからなかったアカズサさんは


イオリくんに説明を求めて



イオリくんは至極面倒くさそうな表情をした後



盛大なため息と共に


昨日アカズサさんがしたこと、


現在に至るまでを説明した。




イオリ君がそこまで話したのとほぼ同時に、


アカズサさんは私にむかって


見たことの無いような顔をしていた。







「ああああ、






俺は何て事を・・・」








「・・・イオリの話を聞いて思い出した、



そうだ俺は君に


(シオン)と名を付けてしまい



そして


君を手に入れようとしたんだ






到底許される事じゃない・・・」





「まー、


別に僕はアカズサがコイツを食べようが


閉じ込めようが


別にいいんだけどね、僕達はそう言う存在でもあるわけだし。」




イオリくんのそのあまりにあっさりな言葉に


やはり二人は異質な者なのだと身震いしたが



アカズサさんは直ぐに否定する。






「ふざけるなイオリ、


俺はニンゲンが好きなんだ。



この子





・・・シオンだって


ちゃんと(縁)を見つけ出して


元いた場所に返してやろうと思っていたんだ。」





そう言いながら、アカズサさんはその綺麗な瞳をうつむかせた。




「でも愚かにも狂気に喰われた俺は



君を・・・・





この場所に縫い付けてしまった」






「要するに


お前はもうここから出られないんだよ。」





・・・・・・・








ーーーーー・・・・・・え?ーーーーーーー





「出来ない事も無いけど


それにはお前の(縁)を奪ったヤツから


(縁)を取り戻すだけじゃなく



お前の(声)も取り戻す必要がある。






これが至難でね。」







「・・・(声)とは



本来生きていても死んでいても


紡ぐ事のできる唯一無二の力なんだ。



それを奪えるヤツとなると



それなりの力を持った者と、シオンは接触した事になる。」









ーーーーー・・・・・・ーーーー







「でも、



アカズサがお前を線路で見つけて連れ帰って来た時には




ソイツはいなかったんだよな。」






「ああ。」








「で、


お前は記憶を無くしていて


ソイツの正体も不明。


言っとくけど



この建物は数えきれないほどの(者)達が通りすぎたり


住み着いたりしている。


それこそ本来、



ソイツを見つけ出す自体、雲を掴むような話なのさ。」






私は、何とか話を聞いていた。





足元が、ガラガラと崩れるような。



目眩に耐えながらそれでも、





それでも、








何か希望があるのではないかと





次の言葉に期待しながら何とか立っていた。






「そこに、


俺が名を与えてしまった事で


仮にソイツを探しだして奪われた(縁)は取り返せても


声を取り返す事が難しくなった。」





「そう、


それが問題だね。


そもそも僕達(側)にとって、


ニンゲンの声を手にいれる事はそれなりのリスクが伴う。


そのリスクを犯してでも手にいれたいヤツはいるけど



僕には理解しがたいね。」





「(声)には君の、



シオンの(本当の名)が込められている。」







「コチラ側の名があると、



本当の名前を取り返す取引ができないんだよ。」













私は愕然とした。



私は




それじゃあ




私はもう







元いた場所に帰れないと言うことなのだろうか。







呆然と床を眺めている私に



アカズサさんはやや決意を込めた声色で囁いた。





「シオン大丈夫。



どんなに時間がかかっても



俺が




必ず、





必ずソイツを見つけ出して




(声)と(縁)をシオンに戻してやる。」





「!!!おい、




僕達はできない約束は許されないんだぞ!?」






「できる。




俺は必ずシオンの(声)と(縁)を見つけ出す。




・・・それが



俺ができる償いだ。」




アカズサさんは私に向かって姿勢を正し



言葉を紡いだ。





ーシオンの記憶も声も




必ず俺が取り戻してやる













"約束"だー

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