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ーユメモノガタリー  作者: 久川 りつき
4/50

ー落ちたリンゴと目覚めー



私はただただ恐怖に顔を(ゆが)



(こぼ)れそうな涙を目の(はし)に感じながら、


にらみ合う二人をただ静かに見守る事しか叶わなかった。





「・・・痛いな



何するんだよアカズサ



お前だって


さっきまでコイツをどうするか悩んでいたじゃないか


だから



決められないお前の代わりに




俺が捨てて来てやろうとしたんじゃないか!」




先程、


怒気を(はら)んだ声で


イオリと呼ばれた男の子は


やや焦りぎみにアカズサと呼んだ男に向かって怒鳴り散らした。





「・・・うるさい


誰が(ソト)に連れて行っても良いと言った。




第一この子は------に声を奪われ



(縁)も切れてしまっている



このまま(ソト)に連れて行けばどうなると思う。」





「そんなの



僕たちの知った事じゃないじゃないか!


アカズサ、一体どうしちゃったのさ!



いつものお前ならこんなヤツ・・」





「やめろ


話は終わりだ


イオリ、お前は少し頭を冷やせ。



・・・おい、大丈夫か?」


突然(おい)と呼ばれ、


会話を聞きつつ


半ば現実逃避をしていた私はかなりビクリとしてしまったが


アカズサと呼ばれる男を恐る恐る見上げた。




「・・・怖がらせてすまない、


アイツ




あの男は(イオリ)と言う



普段はあんな乱暴な事はしないヤツなんだが


どうも今日は機嫌が悪いらしい



腕を見せてみろ、腫れていないといいが。」







アカズサさんがそう言うと、


先程と同じように()れ物を触るように私の腕を取る


腕にクッキリと残る(あざ)を見て


アカズサさんは少し顔を歪めたが


ソッと立ち上がり


部屋の奥にある戸棚を開けて


ゴソゴソと中を漁り始めた




その様子をしばらく呆然と眺めていたが、



私は改めて今の現状を整理しようと記憶を辿った。



だが


ここで目が覚める前の記憶がブチブチと途切れている




その記憶も



どれもかすみがかっていて順番もバラバラのよう。




思い出そうとすればするほど






先程まで成りを潜めていた吐き気が込み上げて来てしまう




そうこうしていると



アカズサさんが近くに来ていたらしく




「おい、


無理に思い出そうとしなくていい



今はとにかく





落ち着いて


安静にしているんだ。」


アカズサさんはそう言うと


私の腕を取り


手首についた(あざ)に薬を塗り


包帯を丁寧(ていねい)に巻いてくれている









ーーーー・・・そうは言われてもーーーー










----ワタシハ、ジブンガダレカモワカラナイ----



それに



何故か声も出ない





自然と話そうと口をパクパクとするからには




以前は声が出ていたはず



なら、


何故声が出ないのだろう?



アカズサさんが言っていた。





**第一この子は-------に声を奪われ-----**





・・・・声を、私は誰かに奪われた・・・・?





一体誰に?ナニに?





そもそも、



声を奪うなんて、


現実的に見て可能な物だろうか?



毒薬とかの類い?



あるいは、何者かに毒を盛られた?





もし喉を焼かれてしまったのなら


回復の見込みは無さそう・・・



想像しただけで気分の沈む私を見て


アカズサさんは優しく頭を撫でてくれた。





「声は・・分からないが、


お前の(縁)は必ず俺達が取り戻す。


だから


それまで(コチラ)にいてもらう事にはなるが



お前は大人しく待っていればいい。」





また知らない言葉だ。





---縁----







何の事だか分からない。


もういっそ


わめき散らしてこの家を飛び出してしまいたくなったが


アカズサさんは優しいが



そう言った隙が全くないように感じ


私はため息をついて小さく頷くしかなかった。





「ん、良い子だ。」




そう言ってまたアカズサさんは


頭をポンポンとしてくる。



そこで私は今更だが疑問が浮かんだ。





ーーーこの人は会った時からこうだけど、


・・・私は子供じゃないーー






確かそう・・・






お酒も飲める年頃だったはずだ。




愛煙家でもあったし


割りと年増だったような気もする。



体に残った



感覚


味覚


触覚



それらは私がどの程度の年齢であったかを示している



なのにこの人は、



まるで私が小さな女の子であるかのように振る舞っている。



会話も、


普通の女性に対する話し方でもない


子供に話しかけるソレだ



私は改めて、


自分の腕をマジマジと(かか)げて驚愕(きょうがく)した。








-----・・・腕が小さい-----?







慌てて服を掴み体を触る



あったかどうかは定かでは無いが



年頃のソレに見合う胸も腰のクビレも無く



幼児で言う所の体型ではストンとしている







----私は----




一体









ドウナッテシマッタノ?----









不安と恐怖が頂点に達し






その場に崩れるように泣き崩れてしまった私を




アカズサさんはソッと撫でながら(さと)すように(ささや)いた





「すまない


先に話しておけば良かったな。



お前は今、


(縁)が切れてしまっている。



(縁)とは、


人間が生きてきて死ぬまでに触れた物


見たもの


繋がった人間達との記憶そのものだ。


今のお前にはソレが無い。


だからお前の本来の姿を(お前が)保てなくなっている。



(縁)とは本来、



人間なら誰しもが





左足にキツく結ばれているはずなんだガ-------」








---------------









----------ヒダリアシ----?







---------ムスバレテイル--------?











-----------シロイ------










--------ソレヲ-----キッタノハ------







アアアァァアァアアアアアアア"!!!!!!!!






私は




何かを思いだしかけ





パニックに(おちい)った



アカズサさんは咄嗟に私を抱き抱え目を覆うと



私が暴れるのも構わずに耳元でささやく









「オマエハナニモシラナイ





ーーーミテイナイ







ーーーキイテイナイ」






ずっと繰り返し




繰り返し





囁いていた








その内






また猛烈な睡魔に襲われた私は








意識を手放した。


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