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調査結果の使い方

 今回の調査は以前したような不貞調査だ。

 依頼人は福山可那子さんという32歳の女性。色の濃いマニキュアと真珠のついた髪留めが印象的だ。

 旦那さんが近場とはいえ隣の県に良く出張に行くらしく、不安でしょうがないと依頼してきたらしい。

 比較的表情も落ち着いていて、千紘が受けるとは思わなかったけど、探偵業も落ち着いていた中での依頼だったらしく受けたとのことだった。

 周囲に聞き込みをしていくと、この間と違って可那子を大事にしている様子が窺えた。


「休日はいつも可那子さんと一緒に買い物したり出かけたり……」

「会社の評判も上々だな」

「可那子さんの電話には必ず出てますし」

「更に旦那は一昨日も出張。疲れた体を引き摺ってその日のうちに家に帰っている」


 帰ったのは日付が変わる直前。泊まっていけば疲れは取れたかもしれないのに、わざわざ帰宅している。


「証言通りの出張日を張って、何も出なかったらシロと決断を出すか」


 もし探偵の目を掻い潜り隠れて会っていたとしたら、ある意味旦那さんを尊敬しそうだ。

 それに……と、会社の飲み会に来た旦那さんをそう遠くない場所で眺める。

 女性は近くにいるがあくまでも同僚の位置付けだろうし、話しているのは男性同士。話す内容は多少下世話だとしても不倫に繋がる言葉は特には出ない。


「どうした」

「いや、男の人ってあんな話ばっかりなのかなって」

「飲んで騒いでりゃそうなんだろ。言っておくと、お前らくらいの年代の男は酒を飲まずにあんな風に騒げる」

「えぇ……」

「それより早く食え」


 お酒を飲まずにウーロン茶を飲む樹と、旦那さんの様子を気にしながらそのまま遅い夕食を取る。樹のオススメだというホッケはホクホクで美味しい。


「まあ、バカみたいに騒いで失敗するのも経験だ。そうやって学んで、段々と大人になっていく」

「樹さんも……千紘さんもそうなんですかね?」

「は?」


 ホッケが気管に入ったのか噎せた樹にウーロン茶を差し出す。コップを持った樹がウーロン茶を飲み干し深い息をついた。


「ごめんなさい。2人は友達や彼女と騒いだりして失敗したことあるのかなって思って。樹さんはともかく、千紘さんの恋愛には興味あるかもって思ったらつい」

「なんだ俺はともかくって。というか、お前恥ずかしげもなく良く聞けるな」

「だって身近にいる大人が瀬浪家の人達ですもん」


 美樹は見るからに大人だ。持ち物や言動からも、様々な経験をしていっていると見て取れる。


「俺も千紘も……まあ、そうだな。色んな経験をしてる。それこそお前が思うよりもな」


 それは探偵業や喫茶店をしているから?そんな風に聞きたかったけど、何だか聞いてはいけないような気がして、目線を落としホッケを口に含む。

 その様子を樹が複雑そうに見ていたのには、残念ながら気がつけなかった。



 ***



 ***



 その後の調査でも結果は変わらず。

 喫茶店では美樹が働き、樹と千紘に変わり最終報告をしていく。

 ホッとした表情でお礼を言う可那子と一緒に喜んでいると、実はね……と嬉しそうに話し出した。


「今度の月曜から長めの出張に行っちゃうんだけど、来月落ち着いたら出張の無い部署に配属されそうなの」

「じゃあ旦那さんとの時間もっと増えますね」

「えぇ」


 ふふっと笑う可那子は紅茶を飲み終え立ち上がる。丁度その時、ドアベルの音がして入ってきたのは樹だった。どうやらお店にコンタクトを忘れたらしく美樹に渡されその場で付けている。付け終えた樹はテーブル席に菜緒と可那子がいたのに気がついたのか、どうもと話しかけてきた。


「先日はありがとうございます」

「いえ。安心できたようで良かったです」

「はい。主人が嘘をついていないと分かって嬉しいです」


 ニッコリと微笑む可那子に樹は何やら言いたげな顔をしていたものの、そうですかと頷くに留まった。


「そろそろ夕食の買い物に向かいますので……失礼します」


 まだ午前中だけど、今から夕食の買い物をして旦那さんが帰ってくるのを待つ。なんて良い奥さんなんだろうか。

 手を振り別れた所で樹が菜緒を振り返る。


「お前は鈍感だな」

「え?何がですか?」

「じゃあな」


 何が鈍感なんですか。そんな質問をしたい人間は挨拶もそこそこに出ていってしまった。

 何が何だか分からないけれど、美樹も分からなかったようで、解決出来る人間はここにはいない。

 戻ってきたら話せば良いか。そう思っていたけれど、残念ながらその日に樹に会うことは叶わなかった。

 郵便物を1度取りに帰る為、美樹と一緒にアパートに寄る。

 ポストを開けてダイレクトメールやチラシを確認していき、動物病院からの予防接種のお知らせが入っていたのに気がついた。


「そっか、ミナミの予防接種だ」

「動物病院ってどこの?」

「美樹さんの家から真っ直ぐ行った所ですよ。美樹さんの家からの方が近くて助かります」

「あら良かった。学校も近いしまだまだそのまま住んで良いわよ」

「ふふ、ありがとうございます」


 ルームシェアは順調だ。もう少しだけお言葉に甘えさせて貰おう。そう考えながら美樹のマンションまでの道を歩いていった。



 ***



 ***


 樹は可那子の様子が何だか気になり、気がつかれないように尾行していく。

 暫く歩いた先にあったのは先日依頼を受けた、田辺の父親が経営しているケーキ屋だった。

 その店先に佇んでいた男に可那子は話しかけている。

 背格好は何となく似ているものの旦那ではない。しかしどこかで見た覚えがある顔だ。


(嘘をついていないか。女は怖いな)


 旦那は嘘をついていない。それを喜ばしいと思ったのは、その日なら男と会っていてもバレないと踏んだのか。探偵の調査結果を使われるのは癪だがもう遅い。ならせめて、犯罪には使わないで欲しいと心で念じておく。どこかで聞き覚えのある音を聞きながら、2人の様子を観察していった。











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