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第9話 必中の一矢



 王国軍の陣地を出立し、2日が過ぎた。

 俺達は今、街道沿いの町で昼食を済ませたところだった。


「では……その遺跡に、初代国王の遺産が残っていると?」


「王都に残っていた文献を調べたところ、可能性が高い場所の一つだそうだ。」


 地図を広げ、ネリア様は現在地と目的地を指さす。


「……山越えになりますね。」


「位置的に、迂回は無理であるな。」


 目的の遺跡は四方を急峻な山に囲まれており、比較的まともなルートは一本しかなかった。


「それでも、魔王城から最も近い場所だ。

 もし現存していて、なおかつ回収できなかった場合、魔王の手に渡る可能性もある。」


「なら、多少険しい道でも俺達で行くしかないでしょうね。」


 そう言って締めくくり、地図をたたんで仕舞おうとした時。

 町に轟音が響き渡った。

 一瞬遅れて爆発による突風が吹き、次いで、人々の叫び声と逃げ惑う足音。


「今の音は……大規模魔法か!?」


 俺達4人はめいめいに爆風を避け、建物の影に入って爆心地をうかがう。

 そこには、小さ目の家ほどの大きさがある、4足型のドラゴンが存在していた。


「Guu……GoOoOooo!!!」


「ドラゴン……!

 しかもかなりの大型!」


「あれはドラゴンメイジだ!

 人間とは違う言語で魔法を使う、1等級魔物!!」


「1等級、であるか……!」


 そう、1等級の魔物は2等級未満とは格が違う。

 伝説級の力を持ち、かつては小国を滅ぼしたというものまでいるレベル。それが1等級だ。


「なぜ、こんな町に……」


「あまり考えたくはないが、まず間違いなく、狙いは俺達だろうな……!」


「どうなさいます、姫様?

 今ならまだ、こちらに気付いていないでしょう。

 逃げることもできますが……」


「その場合、この町はどうなる?

 仮に逃げるとしても、町一つを身代りにするわけにはいかない。」


 ネリア様がどう答えるか、ジルも予想がついていたのだろう。

 一度深く頷き、言葉を出す。


「やむを得ませんね。

 では、わたしが囮になってドラゴンメイジを町の外へおびき出します。」


「なら、町から出た時点で俺が振動衝撃で不意打ちを仕掛けよう。」


「不意打ち役は、“魔剣”があるわたくしの方が良いのでは?」


「いえ、ネリア様は攻撃力は断トツですが、ドラゴンメイジの一撃喰らえば死にますので。

 不意打ちが決まった場合の追撃をお願いします。」


 あの巨体だと、振動衝撃でも一撃で爆散させられるか怪しい。反撃のリスクもある。


「決まりですね。では、わたしから行きます……!」



●●●



 俺は魔人態に変化し、ネリア様、バルグと共にドラゴンメイジの後を追う。

 一方ジルは、ドラゴンメイジの注意を引きつけながら、ときに姿を消し、ときに挑発しながら、付かず離れず誘導している。


「すさまじいな……ドラゴンメイジに一発も魔法を撃たせず、完璧なタイミングで意識を誘導している……!」


以前私わたくしが聞いたことだが、ジルの家系……バーグレイ家に伝わる固有技能は“超感覚”。

 優れた五感を持ち、周囲の把握や、敵の動きの察知が高精度で可能だとか。」


「なるほど……

 それでタイミングを見て、ドラゴンメイジが魔法を撃つ気配を見せたら姿を消したり、周囲に意識が向かうと姿を現して注意を引きつけてるわけですか。」


 おかげで町への被害はかなり少なく済んでいる。

 ドラゴンの巨体を持つ以上、通路上の建物や道路には被害が出るが、大規模な戦術魔法を撃たれるよりは、よほどましだ。


「よし、もう少しであるな……!」


 町の出口はもう間近だ。

 だが、ここにいたってドラゴンメイジもしびれを切らしたのか、ジルが姿を消しても魔法を撃つ構えを解かない。


「GOgooOoo……!!」


 ドラゴンは4本の脚を踏ん張り、尻尾を天に向ける。

 眼前に魔法陣が現れ、直線状に爆風が吹きすさぶ。


「ジルっ!!」


 爆風が吹いた後は、何もかもが薙ぎ払われていた。

 建物は根こそぎ吹き飛び、馬をつなぐために地面に固定された杭すら残っていない。


「……危なかったですね。」


「ジル、無事だったか!」


 ジルはいつの間にか、俺の隣に立っていた。


「ええ、魔法を撃ってくることは察知できたので。

 ですが、これでは不意打ちできませんね。」


 爆風で遮蔽物がすべて吹き飛んでしまったので、身を隠す場所がない。

 当然、ドラゴンは振り向き、俺たちに狙いを定める。


「位置が悪い!

 このままでは町を巻き込むぞ!」


 ネリア様の言葉に、俺たちは走りだす。



●●●



「ぐわあああぁぁあぁぁ!!?」


 直撃ではないながらも爆風を受け、バルグが吹き飛び、大木に衝突した。


「クソッ! 奴の魔力は無尽蔵か!?」


 あれから、すでに10を超える爆風を放っているが、ドラゴンメイジに魔力切れの兆候はない。

 さらに、隙を見て何度も接近を試みているが、近づくと魔法陣が現れ、はじき返されてしまうのだ。


「ネリア様、前に使ってた斬撃を飛ばす技は……?」


 近づけないなら飛道具を使うしかない。


「すまない、あれは相当集中しないと撃てないんだ!

 こんなふうに、動き回りながらでは……!」


「わたしの弓も駄目です!

 目鼻を狙っても、即座に反応されてしまいます!」


 胴体には既に数本の矢が刺さっているが、体が大きすぎてほとんどダメージにはなっていない。


「ビストは、何か遠距離攻撃の手段は持ってないのですか!?

 いつも、多彩な能力で戦ってるでしょう!?」


「サラマンダーの能力で、口から火なら吹けるが……」


「相性は最悪だな……!」


「八方ふさがり、であるか……?」


 復帰したバルグがフレイルを振りまわし、ドラゴンの注意を引く。

 致命打は受けていないが、確かにこのままではジリ貧だ。


「……一応、まだ試してない手はある。」


「本当か!?」


「奴はあくまで、自分の意志で防御の魔法陣を出している。

 顔を狙うとすぐに反応されるのはそのせいだ。」


「なら、どうします?

 矢で撃って効果があるような急所は、すべて顔に集中してますよ!?」


 目、鼻、口、耳と言った感覚器は、当然ながら顔にある。

 急所は腹にもいくつかあるが、4つ脚で動き回る腹の急所を狙うのは角度的に不可能だ。

 だが。


「まだ一ヵ所、動物共通の弱点が残っている……!」



●●●



 俺、ネリア様、バルグの3人は必死に逃げ回り、ドラゴンメイジの猛攻をしのいでいた。

 4人でも苦戦していた相手に、3人では長くはもたない。

 だが、今はジルの手は借りられない。

 そして、長くもたせる必要もない。


「GOgooOoo!」


 ドラゴンメイジが唸りを発し、同時に魔法陣が展開された。

 クセなのか、必要なのかはわからないが、このドラゴンは全力で魔法を放つとき、決まった姿勢になる。

 4本の脚で踏ん張り、尻尾を天に向ける。


 隠密術で姿を隠したジルの前に、そのドラゴンの後姿がさらされる。


「今だ!!」


 “超感覚”を持つジルにはわざわざ言う必要もないが、自然と声が出ていた。

 短弓コンポジットボウを素早く引き絞り、矢が放たれた。


 吸い込まれるように、矢はドラゴンの肛門に突き立った。


「GOoO!!?」


 突然の激痛にドラゴンの眼前に合った魔法陣が消える。

 その時すでに、俺たちは間合いを詰め切っており――


「てえぇいっ!!」


「ふんぬっ!!」


 魔剣が口を斬り落とし、フレイルが頭蓋を打ち砕いた。

 砕かれた頭部の奥に、鈍く光るものが見える。


「しめた! いただきだっ!!」


 恐ろしいことに、ドラゴンメイジはまだわずかに残った生命力で抵抗しようと前脚を振る。

 それをかわし、硬質化した腕を脳髄に突き入れ、ドラゴンメイジの核を引きずり出す。

 核を抜かれた肉体は完全に力を失い、俺の手の上には1等級の魔物、ドラゴンメイジの核が残った。


「おおっ!? ビスト殿、もしやそれを取り込めばドラゴンの力が……?」


 バルグだけでなく、ネリア様もジルも、戦力強化に期待して俺の持つ核に視線を集中させるが、


「……駄目だ。

 わずかにヒビが入ってる。」


「むう、もしや拙僧のせいで……」


「いや、あのレベルの魔物相手にほぼ無傷で勝てただけで上等だ。

 それに……」


 胸部外殻を開き、開いた穴に核を納める。


「まったくの無駄じゃあない。 見ててくれ。」


 俺は、ドラゴンメイジが暴れたために更地になった、何もない方角を向き、


「確か……“GOgooOoo”!」


 俺の唸り声と共に、突風が吹いた。


「今のは、ドラゴンメイジの……!」


「威力はかなり低くなってるが、使い道はあるはずだ。」


「「「おぉぉ……!」」」


 突発的な戦闘だったが、結果として良いものが手に入った。



●●●



「それにしても、まさか尻を狙えなんて言われるとは思いませんでした。」


「ジルが囮になったとき、俺達は後ろから追っていっただろ?

 で、最初に奴が魔法を使ったとき、尻が丸見えになってた。

 急だったからその時はぶち込めなかったけど、あそこを狙えば殺せ(やれ)ると思ったんだ。」


「まあ、暗殺術も習っている以上、格好にこだわるつもりはありませんが……

 やむを得ないとはいえ、あまり何度もやりたくはないですね。」


 ジルは眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな様子だ。


「だが、おかげで助かった。

 ありがとう、ジル。」


 ネリア様がそう言うと、ジルの表情が一瞬で変わる。


「姫様がそう言って下さるのでしたら、何度でもやって見せましょう。」


 ニッコニコの笑顔でさっきと真逆のことを言ってのける。

 手のひら返しが早い。


「ジル殿は本当にネリア殿のことが好きなのであるな。」


「無論です。家の言いつけと使命感だけで、こんな危険に跳び込めるわけないでしょう?」


 そう言い放つジルは、少し誇らしげだった。



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