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第6話 四天の先鋒



 俺たちは、対魔王戦線の前線に到着していた。


「見たところ、まだ秩序だった戦線を維持できている……王国軍は持ちこたえてくれているようですね。」


「魔王の復活という一大事に、全兵力の7割を集中させているそうだ。

 国王ちちうえも周辺国と連絡を取り、援軍も期待できるとのことだ。」


 ネリア様とジルが言葉を交わす。

 ジルはどうにも、俺に対しては警戒しているフシがある。

 特に、魔人変化をあまり使わせたくないようだ。


 しかし、魔王の勢力圏に近づいているせいか、今日までに何度か戦闘になった。当然、魔人変化を使うことになる。

 そうするとネリア様は喜ぶが、ジルはネリア様の美的感覚が悪化すると心配し、俺をにらんでくるのだ。

 結果、どうにもジルはいつも険しい顔をしている気がする。


 だが、今こうしてネリア様と話しているときは穏やかな笑顔だ。いや、むしろ少々興奮気味か?

 まあ、どちらにせよ悪いことではあるまい。


 ――と、そこに王国軍の兵士達がやってきた。


「お前たち、冒険者か? 義勇兵ならありがたいが……」


「馬鹿、よく見ろ! 他の3人は冒険者だが、あの騎士様の紋章は……!」


「あっ!? これは失礼いたしました!

 本陣へご案内します、カーネリアン王女殿下!!」


 敬礼する兵士達に、ネリア様は鷹揚に頷く。


「王女殿下……であるか?」


 その言葉で、バルグにはネリア様の正体を明かしていなかったことを思い出した。


「うむ、そう言えば、バルグには伏せていたな。

 わたくしの名はカーネリアン・クォーツィス。

 初代国王の血を引き、魔王討伐の使命を負った第一王女である。」


「貴人の風格があるとは思っていたが、何と、そうであったか!

 今までご無礼つかまつった!」


 ネリア様の名乗りを聞き、バルグは片膝を突き、礼をとる。


「俺の時は動揺しまくって土下座連発したが、バルグは意外と落ち着いてるな?」


「拙僧、これでもクレリックゆえ、俗世の身分には組み込まれぬ。

 だが王女殿下ともなれば、相応の礼儀は必要になるのである。」


「私が身分を偽ったのは穏便に旅をするため。

 また、これから魔王に挑もうという戦場で礼儀を気にする余裕はあるまい。

 この場では礼は不要だ、バルグ。」


「では、失礼いたす。」


 ネリア様が王女だと知っても平然としていられる、その豪胆さが少しうらやましい。


「それでは王女殿下、こちらへどうぞ。

 将軍がお待ちです。」



●●●



 旗を立て、四方を幔幕まんまくで囲った本陣が設営されている。

 ネリア様の後に続き、兵の案内でその中に通された。


「カーネリアン殿下! お着きになられましたか!」


「将軍。無事で何よりだ。」


 将軍は、声が高く痩せぎすの神経質そうな男だった。

 何となくイメージとして、『鍛えた体に髭をたくわえた初老男性』でも出てくるかと思っていたので、意外な風貌だ。


「そちらの方々は……?」


「この者達は共に魔王と戦うため、志願してくれた者だ。

 私と共に行動する事に関しては咎めないでほしい。」


 将軍は俺達を不審げに、値踏みするように見まわし、だが、ジルのところに視線が行ったところで納得したように頷いた。


「ああ、確かに、アナタはバーグレイ家の……不審な者だけではないようですね。

 前の2名は信用しきれませんが……」


 将軍は改めて俺とバルグを見て、かなり嫌そうな顔をしたが、やがて諦めたようだ。


「では殿下、状況を説明します。」


 将軍が手を上げると、周りで控えていた兵が地図と駒を机に並べた。


「以前ご報告した通り、王国軍全兵力の内、国境や王都に配備された最低限の兵を除く7割がここに投入されております。

 魔物の性質上、夜襲が非常に多いため、ほぼ常時戦闘状態です。」


「それでは兵の疲労が大きいのではないか?」


「ええ、ごもっともです。

 一応、3交代制で休ませてはおりますが、日に日に少しづつ、動きが悪くなっております。

 魔物側にもそれなりの出血は強いているので、決壊まではまだ余裕がありますが、あまり呑気にはしていられないかと……」


 将軍自身も疲労のためか、それとも元々なのか、顔色が悪い。


「最前線の様子は見られるか?」


「……殿下にもしものことが、と思うと、個人的には反対なのですが……」


「今更避けて通れる危険でもあるまい。

 決戦兵器であるわたくしを温存したい気持ちはわかるがな。」


「言いにくいことをはっきりおっしゃいますな……

 ……わかりました、こちらへどうぞ。」



●●●



 護衛の兵士に囲まれ、将軍と共に矢倉にのぼる。

 空堀が掘られ、土塁の上に柵が立てられ、陣地が構築されている。

 兵士たちはその陣地の前に立ち、魔物の軍勢を追い散らす。陣の内側からは牽制のための矢が撃ちかけられる。

 戦場は今、まさに激戦の最中さなかであった。


「基本的には陣の内側から防衛、状況によっては今のように打って出て、魔物を撃ち払います。」


「見事な用兵だ。

 魔王復活のために暗躍している者を察知した時点から、準備をしていた甲斐はあったな。」


「工兵隊はある意味、この戦いの主役です。

 ひっきりなしに防衛設備の修理をしてくれています。」


 よく見れば、確かに柵を直している部隊が見える。

 

「現状、このように優位に戦いを進めていますが、もし、敵に大きな動きがあれば……」


 将軍がそう言いかけた時、戦場で大きな叫びが響き渡った。

 当然、戦場においては人の叫びなど常時発せられている。

 しかし、それが一際大きく響くということは……


「何かあったのか?」


「姫様、あそこです!」


 ジルが指さすその先では、兵士たちが吹き飛ばされ、陣形の一角が大きくえぐれていた。

 将軍が真っ青な顔で脂汗を流しながらも、口を開く。


「どういうことだ!?

 一瞬で、あのようなことが……!?」


「まるで攻城兵器か戦術魔法を喰らったみたいだな。

 だが、魔物側にそんな様子はなかった。

 と、いうことは……」


 陣形が崩れた場所をよく見れば、その中心に何者かの影。

 そして、戦場に大音量の声が轟く。


「グワラッグワラッ!! 我こそは魔王軍四天王が一人、ガンダーンである!!

 人間どもめ、小癪な陣を敷きおって!

 わしが全て蹴散らしてくれるわ!!!」



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