第5話 魔人の捕食
依頼書にあった、街道付近の畑にて。
「この依頼はテストなんだよな。なら、俺が一人で戦うか?」
そう言うと、ジルは意外そうな表情を見せた。
「できるのですか?
いえ、確かにテストのためにと、その依頼を選んだのはわたしですが……
全員での戦いの中で、あなたの戦いぶりを見せてもらおうかと思ってのことです。
依頼書によれば、魔物の数は100は下らないとあり、尋常な数ではないようですし。」
「普通の4等級なら、多分100くらいいける。
でも、情報が足りない新種だからな。万一の場合は助太刀を頼む。」
物陰から見れば、確かに大量の案山子が麦畑の中をうごめいている。
速度も強度も、高いタイプには見えない。
「それじゃあ……“魔人変化”。」
皮膚が溶け、肉が裂け、骨が崩れ、そして再構成。醜悪な魔人態へと変身する。
ネリア様は瞳を輝かせ、バルグは数歩後ずさり、ジルは青ざめた顔で口元を押さえた。
「その姿……変身系の固有技能ですか? しかし、何と言う姿……!」
「むう……なかなか強烈な魔法を使うのであるな……!」
そういえば、ジルだけでなくバルグに見せるのも初めてだったか?
「どうだ、ジル! これだけでもビストが同行する価値はあるだろう?」
「……そういえば姫様、こういうセンスをしていましたね……」
ジト目でジルが俺をにらむ。
だが、これは俺が悪いわけじゃないだろう。
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「これでちょうど、100体目!!」
硬質化した抜き手でスケアクロウを引き裂き、残心をとる。
「本当に一人でこの数をさばき切るなんて……!」
まだまだスケアクロウは残っているが、ジルも俺の腕前に驚いてくれたようだ。
……それは良いのだが、どうにも違和感がある。
最初、戦い始めた時は数えきれないほどのスケアクロウがいたので、正確なことはわからないが、
「倒した割には、あまり減っていない……?」
それだ。
明らかにまだ、100を超えるスケアクロウが動き回っている。
そもそも今更だが、普通、畑にこれだけの数の案山子があるか?
「ジル! 俺のテストはもういいだろ!?
明らかにこの魔物は異常だ! どこかで増殖してるなら、元を絶たないと!」
「わかった、加勢しよう!」
「承知である!」
「確かに、もう十分なようですね。わたしの力もお見せしましょう!」
飛び出してきた3人が各々武器を振るう。
ネリア様は“魔剣”、バルグはフレイル、そしてジルは……
「短弓か!」
「威力は期待しないでください! この魔物との相性は最悪ですから!」
それはそうだろう。圧倒的多数の敵に対して矢の数に制限がある弓矢は不向きだ。
しかも相手は案山子。刺さったところでロクなダメージにはならない。
これに関してはバルグのフレイルも効果はいまいちだ。
「その代わり、目には自信があります。
先ほどまではあなたの戦い方を見るのに集中していましたが、今度はスケアクロウの発生場所を探してみます!」
「頼んだ!
今まで片付けた奴の中に魔物の核はなかったから、どこかに核を持つ本体がいるはずだ!」
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「これで……130だ!」
「こっちは18! ジル、どうだ!? 見つかったか!?」
「…………はい! 右前方、頭が麦の穂になってる奴が、今出現したところです!
ですが、近くに別のスケアクロウはいませんでした!」
「どういうことであるか!?」
「麦畑の中から、『生えてきた』んです!」
てっきり、スケアクロウの内どれかが本体で、そいつが仲間を作っているのだと思っていた。ジルもそう考えていたのだろう。
だが、近くに別のスケアクロウが居るわけでもないのに新しい奴が生えてきたという。
――と、そこでふと気付く。
「……ジル、お前この生い茂った麦畑の中で、新しい奴が生えてくるのを見えたのか?」
「正確には、『見た』というより『感じた』ということです。
わたしの固有技能は“超感覚”。
目だけでなく、他の感覚も鋭いので……」
「もっと正確に教えてくれ!
どんな風に『生えて』きたんだ!?」
もしかしたら、出現方法にヒントがあるかもしれない。
「ええと……畑の土を芯にして、周囲の麦を皮膚代わりに、取り込みながら立ち上がってくる……これでわかりますか!?」
畑の土と、麦を原料に……
「……なるほど、見当がついた!
皆、下がってくれ! 汚れるからな!!」
「……汚れる?」
いつも通り、体内で振動を増幅させるが、これを案山子に放っても意味はない。
今回は足裏。震脚で地面に衝撃を打ち込む。
本来なら、広大な大地は俺一人分が放つ衝撃波なんて吸収しきってしまうが、戦いながら地中の振動を調べたところ、大きな岩盤があることに気付いた。
岩盤に叩き込まれた振動衝撃は反射し、結果として、広範囲の土を上向きに吹き飛ばす。
轟音が響き、土が宙を舞った。
「うわ……! 何て威力だ!?
畑を丸ごと吹き飛ばすなんて……!」
「……土の中に何かある?
あれは……魔物の核ですか!?」
大量に舞う土の中、いち早くジルがそれを見つけた。
後は、スケアクロウが集まる前に核の元に駆け寄り――
「粉砕するのだな!?」
「いいや、こうするんだ!」
ごぱぁ、と音が鳴り、魔人態の胸部外殻が6つに開き、粘液を糸ひかせながら穴があく。
俺がつかみ取った核を穴に押し当てると、核は体内に飲み込まれ、再び外殻は閉じた。
同時に、大量のスケアクロウは力を失い、土と麦と木の枝に戻った。
「この魔物の能力はきっと役に立つ。 破壊するには惜しい。」
「……ぬう、すさまじい光景であったな……」
「トドメまでえげつないとは……」
バルグは数歩後ずさり、ジルは青ざめた顔で口元を押さえたが、ネリア様はうっとりとした表情で、
「そんなことまでできるとは…… 私が見込んだだけのことはある……」
と、いつもの調子だ。
ともあれ、スケアクロウの駆除依頼は完了した。
ジルは咳払いをして、
「姫様への悪影響を思えば、やはりあなたには同行してほしくないのですが……
テストとして戦いを見せてもらった上で、そう言うほどわたしは不義理ではありません。」
「なら、このまましばらく4人で行動する……ということでいいんだな?」
「ええ、やむを得ません。」
こうしてジルが仲間に加わり、俺は50回目の追放を免れた。




