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第4話 白銀の従者



「……というわけで、ネリア様はもし魔王が復活した場合、討伐に向かうよう王命を受けていたんだ。

 俺はその状況から責任を感じて、こうして従者として同行してるわけ。」


「なるほど、そうであったのか。」


 道すがら、なぜか同行することになったバルグに事情を話していた。

 一応、ネリア様が王女だということは伏せている。


「しかし、えらいことになったのであるな。」


 そう言ってバルグは進行方向の空にある、暗雲をあおいだ。


 現在、魔王城が復活して3日が経っていた。

 周囲では魔物の軍勢があふれ出し、さらに魔王の力の影響で王国軍は魔王城に近づくことすらできない。

 幸い、完全復活までに多少の猶予があったので、防衛線を築くことには成功。

 とはいえ、決して少なくない人数が既に犠牲になっていると聞く。

 また、伝説によれば、かつて存在したという四天王も復活しているはずだが、未だ姿を見せない。


 伝書鳩によって届けられた情報は以上だが、正直、これでは全く足りない。

 そこで、より詳細で正確な情報を求めるため、まずは前線に行ってみよう、ということになったのだ。


「魔王城まであと4日程度……何事もなければよいのだが。」


 俺は馬のくつわを取りながら、ネリア様の言葉に頷いた。

 ――と、その時。

 街道の脇の森から、転がり出るように人影が飛び出してきた。

 明らかに意識をこちらに向けている。


「刺客か!? ネリア様、お下がりを!

 “魔人変”……」


「待て、ビスト! 敵ではない!」


 変化の魔法を唱えきる寸前、ネリア様が制止した。


「お久しゅうございます、姫様。」


 襲撃者かと思われた者は、片膝を立ててネリア様の前に跪いた。


「貴女は……ジルか!? なぜここに?」


 ジルと呼ばれた珍客……よく見れば、褐色の肌に銀髪の美しい女だ。

 ネリア様は下馬し、ジルの元へ駆け寄る。


「決まっておりましょう、魔王が復活したこの時世。

 姫様をお助けするためにございます。」



●●●



「何事も起きなければ、言う必要はなかったのですが……

 この、ジル・バーグレイ。『いざ』という時、姫様を手助けするよう定められた一族の者なのでございます。

 そのために、幼き日より斥候スカウト技能や暗殺術も修め、今日こんにちまで修行してまいりました。」


 ジルは語り出した。


「姫様は魔王が復活した際、討伐におもむく運命さだめ

 しかし、魔王がいつ復活するかは誰にもわからない……

 もし、何事もなく済むのなら、重荷になるようなことは知らない方が良いでしょう?」


 ジルの言葉にネリア様は軽く驚いていた。


「ジルはわたくしの遠縁でな。幼き日に共に遊んだりもしたものだが……

 そのような使命があるとは、私も知らなかったぞ。」


 そのようにネリア様は付け加えた。

 俺はというと、バルグには聞こえないよう小声で、


「つまり、こちらも王族の方で?」


「いや、大昔に王家からは抜けている家系だ。」


 なら、無礼討ちの危険度は比較的低いか? などと考える。

 ――と、どことなくジルから剣呑な気配を感じる。


「どうしたのだ? ジル。」


「……姫様、この者たちは一体?」


 俺とバルグの方に、胡乱うろんげな視線を向ける。

 確かに、今のは王女ネリア様に対して気安すぎた。ジルの立場からすると不審に思うのも当然だろう。

 ネリア様は、その不信感を払拭するように笑顔を浮かべて、


「こちらはビスト。多分、格闘系の冒険者だ。

 こちらはバルグ。僧侶クレリック系の冒険者。

 成り行きから、魔王討伐に同行してくれることになったのだ。」


「バルグ・ケーニックである。戦闘は不得手ながら、治癒魔法を修めておる。」


「ビスト・チェーン。一応、多少は名の売れた冒険者だ。」


 ほぼ悪名だがな、と内心付け加える。

 だが、ネリア様から説明されてもジルの表情は晴れない。


「姫様。失礼ながら、魔王討伐という大事に、このような身分確かならざる者を連れて行くのは賛成いたしかねます。」


 正直、もっともな意見だと思う。

 だがしかし、俺はやりたいこと、やるべきことをようやく見出すことができたのだ。50回目の解雇はごめんだ。

 そして、ジルの意見に対しネリア様は口を開く。


「なら、試してみるがいいだろう。」


 そういうことになった。



●●●



 俺たちは4人で、新たな街の冒険者ギルドに来ていた。


「今更ですが、先を急がなくてもよろしいので?」


 俺の疑問に対し、ネリア様は、


「前線に着いたからと言って、即座に魔王城に乗り込むわけでもない。

 道中で集めた情報も役に立つであろうから、多少は足を止めるのも良いだろう。

 誰かの安全のための仕事である以上、無駄足ということもあるまい。」


 ――とのこと。


「ジル。貴女はビストがどのような人物なら納得する?」


「そうですね……

 ビストさん。あなたがどれほど戦えるのか、見せていただきたい。」


「拙僧はテストしなくても良いのであるか?」


「治癒魔法の使い手は、貴重かつ有用ですので。クレリックなら教会がある程度の身分保障をできますし。」


 そう言ってジルは一枚の張り紙を手に取った。


「大量発生した4等級の魔物の駆除……これはどうでしょうか?」


「何々、案山子かかし型の魔物、スケアクロウが発生。街道にあふれる前に駆除してほしい……」


「姫様は一対一なら最強です。

 それをサポートするというなら、強敵相手よりもむしろ、多数のザコの露払いができる必要があります。」


 ジルの言い分に異存はない。ただ、問題は、


「む? スケアクロウとは、聞いたことのない魔物であるな。」


「俺も知らないな。地方ローカルの魔物か?

 ちょっと聞いてみるか。」


 そこそこの年数冒険者をやっているが、前にいた街では聞いたことのないタイプの魔物だ。

 手の空いてそうなギルド職員にたずねると、


「ああ、それは新種です。3日ほど前から案山子が魔物化して動きだしたって話で。

 魔物としてはそんなに強い方ではないんですが……村人の手には負えないので、こうしてギルドに依頼クエストがでたんです。」


 そう返事が返ってきた。


「3日前からの新種……?」


「魔王の影響かもしれないな。

 良い機会だ、調査も兼ねてこれを受けてみよう。」


 ネリア様の一声で、依頼の受領が決まった。



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