最終話 魔人の変化
魔王が討たれて1年が経った。
最後の戦いの時、王国は王都陥落直前まで追いやられていたものの、魔王と四天王の全滅の報により魔王軍は離散。
結果として、王国は国家としての致命傷を免れることができた。
行方不明だった国王は重症を負っていたものの命に別状はなく、数カ月後には復帰。
魔王軍との直接の戦闘や、魔王復活による魔物の活性化により、多くの被害をもたらした戦いだったが、1年の間に復興は進み、先日王都では盛大に記念式典が催された。
その祭典では、魔王と相打ちになり戦死した英雄、“魔剣の姫”カーネリアン・クォーツィスと、“魔人”ビスト・チェーンの銅像の除幕式も行われた。
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バルグとジルは、辺境のとある村を訪れていた。
「手紙によると、この辺で間違いないはずであるな。」
「ええ、周囲の家も少ないですし、おそらくあの家でしょうね。」
一軒の小さな家の前に立ち、扉をノックする。
中から女の声が返ってきた。
「……どちら様?」
「『筋肉の僧侶』と『銀の従者』である。」
扉の奥で、何かつぶやく声が聞こえ、わずかな間を置いて扉が開かれる。
「久しぶりだな、2人とも。」
死んだことになっていた、ビストとネリアの姿がそこにはあった。
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「王都の祭りは盛況だったのである。
ビスト殿、ネリア殿だけでなく、拙僧やジル殿も歌や芝居の登場人物になってる有様でな。」
「へえ……今更『実は生きてました』なんて、いよいよ言えなくなっちまったな。」
小さなテーブルを4人で囲み、茶をすすりながらビストとネリアは王都の様子を聞いていた。
「しかし……姿が『変わって』しまったビストさんはやむを得ないとはいえ、姫様まで『死んだことにする』と言い出した時は驚きました。」
「“魔王化”したビストを一人にするわけにはいかないからな。
それに、私としてもビストとは離れがたかったし……」
テーブルを囲む4人の内、3人は普通の人間だが、1人はまともな人の形をしていなかった。
醜悪な悪鬼。それが今のビストの真の姿だ。
かつて“魔人変化”で怪物の姿に変身していた男は、今は人の姿になるために変化を使わなければならない体になっていたのだ。
「いくら救世の英雄とはいえ、この姿では王国の姫君を嫁に取るわけにはいかぬであろうしなあ。」
「魔王の核を取り込んだだけじゃなく、欠けた肉体の補修に魔王の死体を使ったのが失敗だったかもしれないな。」
「だが、あの時の貴方は強かった。莫大な魔力を取り込んだアージェを圧倒するほどにな。
流石は私の自慢の夫だ。」
照れくさそうに微笑んで、ネリアはそう口にした。
ネリアの腹は、1年前よりも大きくなっていた。
「姫様とビストさんの子供……どのように育つか、今から楽しみですね。」
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十数年後、王国に兄妹の冒険者が現れることとなる。
二人とも、強く、機転が効き、度胸があり、危機に陥っても毅然としていた。
また彼らは、珍しい固有技能を持っていた。
兄は、鎧のような姿に変身し、様々な特殊能力を使いわける術を。
妹は、手に取った剣を、あらゆるものを切り裂く名剣に変える術を備えていた。
かつて魔王を討った英雄に似た業を持つ兄妹だが、その出自ははっきりしていない。
ただ、二人の後見人として、かつて英雄と共に魔王と戦った、バルグ・ケーニックとジル・バーグレイが名前を連ねていた。
魔人変化 ~見た目は最悪、強さは無類の固有技能~ 完




