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第24話 最強の精鋭



 集中力をすべてネリア様に向けているため動けないゲネルラーの横を通り、直後、始まる剣戟の音を後ろに聞きながらさらに城の階段を駆け上がる。

 一際大きく華美な扉を前に、感慨にふける暇もなくそれを蹴破り。とうとう玉座の間へとたどり着いた。


「……やはり、コマが足りなかったか。」


 威厳に満ちた、重々しい声。

 玉座に腰かけるその姿は、異形の怪物などではなかった。

 堂々たる、一国の王に相応しい男。

 青白すぎる肌の色や、顔立ちや骨格の違い、そう言ったものがなければほとんど人間と変わらない。


「……魔王と、お見受けする。」


 鎧化した体を臨戦態勢に保ちつつ、俺は焦る気持ちをできるだけ抑えて、その男に問う。


「いかにも、オレが魔王だ。

 ここへたどり着くのは“魔剣”の王女だと思っていたが、そうか、“魔人”が来たか。」


 魔王はゆっくりと椅子から立ち上がると、玉座のかたわらに立てかけてあった槍を手に取った。


「気付いたからこそ、一人であっても急いでここまで来たのだろうが、後ほんのわずかな時間でオレの力は完全に復活し、全盛期のものとなる。

 だが、オレは貴様一人を相手に時間稼ぎに徹するほどケチな男でもない。

 ……魔王の力、その一端を見せてやろう。」



●●●



 バルグ・ケーニックとガンダーン二世の戦いは、今まさに幕を下ろそうとしていた。


「何故だ!? 何故わしの“撃砲走・改”を喰らって平気でいられる!?」


 バルグにガンダーン二世の速度を捕えることはできない。

 そのため何度も直撃をくらい、常人なら血肉が飛び散ってミンチになっていたことだろう。

 だが、僧衣は千切れ飛び、裸に近い姿になっていたが、バルグの肉体は大したダメージは受けていない。


「当然である。

 拙僧の固有技能は“治癒魔法”。多少の傷ならすぐに癒せるのであるから。」


 そう言っている最中も傷は癒えていき、言葉が終わるころには無傷の状態になっていた。

 まったくダメージを与えられない異常事態に、ガンダーン二世はうろたえる。


「馬鹿な!!

 貴様が以前“撃砲走”を喰らったときは一撃で戦闘不能になっていたはずなのに!?」


 バルグは顎に手を当て、不思議そうに首をかしげる。

 少し間を置いて、何かに気付いたように両手を打ち合わせた。


「……ふむ、貴殿は肉の体を持たぬゆえに知らぬと見えるな?」


「何を……!?」


 ガンダーン二世の言葉に、バルグは自身の肉体を見せつけるようにポーズを取り、


「人の体とは、傷が癒えるたびに強くなっていくものなのである!!!」


 異常なまでに筋肉の盛り上がった肉体を見せつけた。



●●●



 ジル・バーグレイは、本質的には戦士ではない。

 あくまで隠密や狙撃などで仲間をサポートする立場だ。

 “魔剣”を受け継いだ姫を助けるために、鍛えてきた技能だけが武器であり、身体能力も魔力もさほど高くはない。

 そのジルが、1等級の中でも特に災害に近いと言われるいかづちのエレメンタルを相手に一対一を挑むなど自殺行為であった。


 本来ならば、の話だが。


「zizizizizi……!!」


 高圧の電気が弾ける音を立て、エレメンタルがジルに迫り――

 衝突する寸前に、勝手にジルを避けるように軌道が逸れた。


「雷というものは、本来なら絶対に一ヵ所にとどまることのない存在。

 この城を守らせるためとはいえ、縛りつけられれば真価は激減します。」


 ジルの目がいかに優れていようとも、雷の速度は見切れない。当然躱せない。

 ならばどうするか?


「ziziziziiiiiiii!!!」


 再び突撃するエレメンタルだが、またしても勝手に別の場所へ逸れ、ジルには届かない。

 エレメンタルが吸い寄せられる先は、地面に突き立った矢。

 3本の矢を支えにして長さを稼いだ、即席の避雷針だ。


「まさか落雷を避ける方法として教わったことが、こんなところで役に立つとは思いませんでした。」


 地面に接した、より細く、長く、尖っているものに雷は落ちる。

 これは戦闘のための知識ではなく、安全に旅をするための知識。

 戦い以外で姫を支えるという、ジルの本領。


 もし、エレメンタルの行動範囲が制限されていなければ、ここが何もない平野なら。

 矢の長さ程度で雷の動きをコントロールすることはできなかった。

 しかしここは城の前庭。平面的にしか動けない状況なら、突き出した矢の後ろに立っているだけで直撃を避けられる。


 行き先を完全に誘導された雷に、できることなど無い。



●●●



 カーネリアン・クォーツィスは、戦う前からすでに勝敗は五分五分だろうと踏んでいた。

 ガントレットで増幅している分、“魔剣”の出力は自分の方が上。

 一方、純粋な剣技に関しては、ゲネルラーの方が上。

 まともに受ければ問答無用で真っ二つにするネリアの“魔剣”を、ゲネルラーは躱し、あるいは受け流して対応する。

 ゲネルラーの打ち込みに対してネリアは、“魔剣”の出力をはね上げることで強引に弾き、対応する。


「……落ち着いたものだな。剣筋に焦りがない。」


 間合いが離れ、互いの動きが止まり、隙を伺うわずかな時間にゲネルラーが口を開く。


「当然だ。貴方ほどの相手には全力を出し切らねば勝てまい。」


 言葉の通り、ネリアの剣に邪念はない。

 ゲネルラーとの戦い以外の思考を捨てきっているようだ。


「異形のあの男が心配ではないのか?

 魔王様は吾輩よりはるかに強い。その魔王様と一騎打ちをしているというのに。

 駆け付けて加勢したいとは思わないのか?」


 揺さぶりをかける言葉。

 だが、ネリアの視線は小動こゆるぎもしない。


「ビストは勝つ。だが、私は勝てるかわからない。

 だから、私は貴方に全力で向かう。」


 直後、ネリアは剣を下段に構え、完全に動きを止める。

 まるで人形になったかのような姿に、ゲネルラーも狙いを看破する。

 いや、ゲネルラーでなくとも分かるだろう。完全なカウンター狙いだ。


「吾輩相手に剣技で勝負とは……ならば、こちらも応じよう!」


 ゲネルラーは大上段に剣を振りかぶり、気迫をみなぎらせる。

 カウンターが来るよりも早く、剣を振り下ろしてみせる、という覚悟の構え。


 直後、ゲネルラーは猛烈な勢いで突進し、ほぼ同時にネリアも剣を跳ね上げる。

 神速の剣が交差し、結果は―――



●●●



「ぐあぁぁぁぁっ!!」


 玉座の間に響く声は、俺の口から漏れたものだった。

 俺は既に満身創痍、鎧化した全身も亀裂が入り、一方魔王は全くの無傷。


「強ぇえ……!」


「当然だ、オレは魔王なのだからな。」


 魔王の強さは、すなわち総合力の強さだった。

 何か一つ、次元違いのモノを持っているわけではない。


 ガンダーンほどの固さも、スピードもない。

 クレットほどの飛びぬけた魔法もない。

 ゲネルラーほどの剣技も持ち合わせていない。


 ただ、それら全てにわずかな差で二番手なれるほどの能力を持っている。

 防戦すらできない、隔絶した怪物ではない。

 ただ、とことん強い。どれほど力を振り絞っても、決着を長引かせる程度しかできないだろう。

 これは、俺達が4人揃っていても変わらない。

 だが――


「教えてくれ。魔王とは何だ?」


 俺のあいまいな問いに、だが、魔王は確信をもって答える。


「あらゆる魔物、魔族の中で最も強い戦士。

 力、技、魔法、全てを併せ持つ。それが魔王だ。」


「すべてを併せ持つって割に、肉体がスライム状になったり、腕が4本になったり、翼が生えてきたりはしないのか?」


 重ねて問う。

 俺の有り方――固有技能の、答え合わせをするように。


「そんな無駄は持ち合わせていない。

 ただ強い、それだけで十分だとは思わないのか?」


 小細工を必要としない、魔王からすればそうなのだろう。


「……多分、あんたの言い分が正解だ。

 ただ強いってのが一番手に負えない。」


 俺だって、単純に優れた魔力や身体能力を持っていればこんな固有技能に頼ることはなかっただろう。

 がだ、いや、だからこそ、


「この勝負……俺の勝ちだ。

 魔王。あんたは今日、死ぬ。」



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