第23話 対面の決闘
「バルグさんは大丈夫でしょうか……」
駆け足で城の前庭を突き進みながら、不安げにジルが言葉をもらす。
「本人が任せろと言ったのだ、できぬはずがないだろう。」
そう応じるネリア様も、心底信じきることはできていないようで、表情には陰りがある。
「まあ、今更あの程度の相手に負けはしないさ。」
――俺はというと、100%勝利を確信していた。
「……そこまで言いきれる根拠はあるのですか?」
「そりゃあ、バルグの体を見ていれば……」
言いかけて、女性陣は俺ほどはバルグの普段の様子を知らないことに思い至る。
「そうか、2人はバルグの裸とか見てないもんな。」
「いや、私は初対面の時に見たが……」
「姫様!? どういう状況ですか!?」
ジルが軽く錯乱しているが、詳しく説明する暇はない。
「あいつは初めて会ったときから凄まじい肉体の持ち主だったが、あれは未だに成長途中だったんだ。」
俺の言葉に2人が目を丸くした。
実際俺も、自分の目で見ていなければ信じられないだろう。
あの人類の極限のような筋肉が今だに増量し続けているなど。
「今のバルグなら、小型の外洋航海船くらいなら持ち上げられるかもしれない。」
●●●
バルグと別れてしばらく進み、前庭を抜けて城本体の建物に入る門の前。
そこに立ちはだかるものがいた。
全身に紫電の光をまとい、人どころか獣の姿すらしていない、その魔物は――
「雷のエレメンタル……!」
どうやって生まれるかもわからない、理論上この世界には存在しないはずという、正体不明の存在。
純粋な雷の魔力が形と意思をもち、魔物と化したものと言われている。
生きた自然災害としか言いようのない規格外。当然、等級は1等級だ。
「あんなものを手なずけて、番犬にしてるとはな……!」
本来なら所かまわず暴れまわる魔物のはずだが、どういうわけか大人しく一ヵ所にとどまっている。
ただ、うねる雷の雰囲気から、こちらを認識し、攻撃的な意思のようなものを感じる。
「あんなシロモノが陣取っていては進みようがない……時間稼ぎにはもってこいだな。」
「どうすますか、ネリア様?
3人がかりで排除しましょうか?」
この面子なら、不可能でもないだろう。
ほぼ無敵に近い性質を持つ魔物とはいえ、核自体は存在する。破壊は可能だ。
「……いえ、ここはわたしの出番でしょう。」
そう言って、ジルが一歩前に出る。
「間違いなく魔王の目的は時間稼ぎ。
そしてこの先には四天王筆頭、ゲネルラーが待ち構えています。
お二人の体力を削ぐわけにも、向こうの時間稼ぎに乗るわけにもいきませんから。」
ジルはそう言うが、はっきり言ってジルは単独戦には向かない。
しかし、言っている内容自体は正しくもある。
「……勝てるのだな?」
ネリア様の言葉に、ジルは頷く。
「……わかった、私たちが進むために、あの魔物を引きつけてくれ。」
無言でジルは弓に矢をつがえ、エレメンタルに向けて射かけた。
一瞬で反応したエレメンタルは、雷速でジルに飛びかかっていく。
「ええ、こうするしかないんです。
……やむを得ませんね。」
そのつぶやきは雷鳴にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
●●●
2人、無言で城内を進み、中ほどの高さまで昇ったころ。
そろそろ来るだろうとは思っていたが、予想が外れていた方がありがたかった。
だが、予想通りの姿がそこにはいた。
「やはり、貴様ら2人が来たか。待ちわびたぞ。」
四天王筆頭、ゲネルラー。
かつて戦った時そのものの姿だ。
「あの時のように、2人同時に来るか?
だが、あの時のような不覚は二度ととらんぞ。貴様らの恐ろしさは良く分かったからな。」
それは、こちらもよく知っている。
四天王が3人まとめて襲って来た時。そして、そこから逃げ出した時。
不意打ちが成功したのは、あの状況での限定的なことだ。今は使えない。
魔王が『何か』を狙っていることもあり、この状況では、俺こそが――
「貴方の相手になるのは……私だ。」
俺が名乗り出るより早く、ネリア様が抜刀した。
「いけません、ネリア様。
その魔剣は魔王を斃すための剣。
ここは俺に任せて、ネリア様こそが一刻も早く魔王の元に……」
「いや、それは違うぞビスト。」
ネリア様の魔剣が輝きを増す。
ここは絶対に譲らないという意思を見せるかのように。
「叔父上が最期に言っていただろう?
力に特別な意味はない。私たち4人の中で、最強はビスト、貴方だ。」
「一人が残って一人を行かせるというのなら、勝手にするが良い。
一人でも二人でも、吾輩は構わん。
完全に足止めできなくとも、“魔剣”の王女を仕留められれば魔王様も文句は言うまい。」
ゲネルラーはそう言って、ネリア様に応じるように、大剣を抜き放った。
一流の剣士同士が一騎打ちを望むのなら、最早止める手立てはない。
「……わかりました、俺が魔王を討ちましょう。
ネリア様も、お気をつけて。」




