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第21話 嵐前の寸暇



 結果として敵の力を大きく削ぐことができたとはいえ、四天王相手の2連戦は精神的にも肉体的にも負担が大きかった。

 アージェによって重症を負ったバルグ。

 アージェ戦直後からクレットによって軟禁されていたネリア様。

 俺自身に至っては2人の四天王相手に直接戦闘するはめになった。

 唯一、ジルはまともなダメージを受けずに済んだが、アージェ戦直後からの4人分の雑事を一人で行っていたため疲労が溜まっている。


 このままではまともに戦えないということで、適当な街で数日宿をとり、休養に徹することになった。



●●●



 俺は、ネリア様が取った個室の前に来ていた。


 バルグの“治癒魔法”のおかげもあって、全員の怪我の治療はほぼ済んでいる。

 なので部屋にこもってる必要もなく、バルグとジルはそれぞれ気晴らしに外出中だ。

 つまり、ネリア様と2人で話すチャンス。

 ドアを軽く数回ノックした。


「どうぞ、入ってくれ。」


「失礼します、ネリア様。」


 椅子に腰かけ、鎧を磨くネリア様の様子に普段との変わりはない……ように振る舞っている。

 だが、その表情はわずかに精彩を欠くものだった。


「あの戦いの直後は流石に息も絶え絶えだったが……大分調子も戻ったようだな、ビスト。」


「ネリア様もお元気になられた……と、言いたいところですが……」


 俺の言葉に心当たりがあるようで、ネリア様は目を伏せる。


「やはり、分かってしまうものか……

 普段通りに振る舞っていたつもりだったのだが……」


「ネリア様の自身を律する能力は相当です。俺が気付いたのは、気配というか……カンに近いものですね。」


「カン、か……」


 ネリア様は手を完全に止め、磨き布をテーブルに置き、俺の方へ向き直った。


「やはり原因は、王弟殿下が惑わされて四天王となり、命を落としたことで……?」


「……いや、それは確かに悲しいことだったが、さほどでもない。

 王族としての覚悟というものもあるからな。」


「では、何に気をもんでいるのか、失礼ながらお聞かせいただいても?」


 勝手ながら、ネリア様には堂々と構えていてほしいのだ。

 そのためには、できることならば悩みを取り除いて差し上げたい。


「……実はな、貴方のことで悩んでいたのだ。」


「俺のことで!?」


 そう言われると、急にこちらが落ち着かなくなる。

 何か、ネリア様の気に障ることをしてしまっただろうか?


「バルグとジルはともかく、貴方だけはこの旅に同行させたことに関してわたくしに責任がある。

 その貴方が、叔父上……いや、あえてクレットと呼ぶか。クレットに殺されたと思ったとき、私は激しく後悔した。」


「ネリア様、そんな……

 俺がついて行きたいからネリア様に同行しているんであって、そんな責任だなんて……」


「だが、魔王復活に関して、貴方に責任を感じさせてしまうようなことを言った。

 “魔人変化”の美しさに目がくらみ、同行を強要してしまった……!!」


 俺の肩をつかむネリア様の手は、あの“魔剣”を振るう手と同じとは思えないほど弱々しかった。


「そしてそれ以上に、私は貴方に死んでほしくない……!

 正直言って、貴方の意思を無視してでも、この危険な戦いから遠ざけてしまいたいのだ……!」


「ネリア様……ありがとうございます。」


 不謹慎ながら、嬉しかった。

 ネリア様がそれだけ俺のことを気にかけてくれている。

 だが、同時にやはり、その心配を払いたい。


「……気休めにもなりませんが、一つ。

 俺が近頃感じている予感をお伝えしましょう。」


「予感?」


 口から出まかせを言っていると思われるだろうが、近ごろ妙にカンが冴えている気がする。

 取り込んだ魔物の核が多くなってきたせいか、動物的な本能が芽生えてきた気がするのだ。


「それは、すべての戦いが終わっても、俺達4人は命を保っているだろうという楽観。」


「なぜ、そんなことが言えるんだ?」


「多くの魔物の力を得たおかげか、最近、本能的に生命の危機に敏感になっておりまして……

 ゲネルラーの城の方角からも、魔王城の方角からも、根本的な危機の気配を感じないというか……まあ、所詮はカンですが。」


「カンか……だが、少し信じたくなる話だな。」


 そう言って、ネリア様は微笑みを見せてくれた。

 都合の良い妄想かもしれないが、その笑みは、先ほどまでの陰りが少し減じているように感じられた。

 ふと、ネリア様が俺の肩をつかむ力が強まっていることに気付いた。


「ありがとう、ビスト。

 叔父上が言っていた通り、貴方はわたくしよりも強い人間なのだろうな。


 そう言ってネリア様は、俺の顔に自身の顔を近づけ……


「これは、わたくしの不安を払ってくれた礼だ。」


 わずかに口と口が触れあい、すぐに離れた。


「……ネリア様。」


「さあ、淑女の部屋にあまり長居するものでもないだろう?

 ビストも疲れが溜まっているだろうし、部屋に戻るといい。」


 俺を部屋から追い出そうとするネリア様は、頬が朱に染まっていた。



●●●



 自分の部屋に戻り、俺は天に昇るような喜びと、どうしようもない後ろめたさに苛まれていた。

 確かに、「命を失うようなことはない」という予感は本当だ。

 だが、もう一つ。より強く予感していることがあった。


「命は保っても、多分、何か重要なものが失われる……なんて、言えねえよなあ……」



●●●



 翌朝、十分体力が戻ってきたので、そろそろ宿を出ようかと準備をしていた時だった。

 息を切らして、ボロボロな身なりの兵士が宿に駆け込んできたのだ。


「よかった……まだこちらにおられたのですね……!」


「貴方は、王国軍の……?」


「カーネリアン王女殿下、並びに同行者の皆さんに緊急の伝達があり、参りました!」


 バルグが水を渡したが、それに口をつける時間も惜しいのか、手に持ったまま伝令の兵士は言葉を続ける。


「王国軍、並びに周辺連合軍は魔王軍の大規模攻勢に大敗し、前線基地も突破され……

 指揮を取っていた国王陛下は行方不明です!!」



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