第20話 仮面の正体
私の眼前で、ビストは爆発にのまれた。
「ビスト……ビストッッ!!!」
視界が黒煙で覆われ何も見えないが、障壁が強力なものだというのは事実だったようで、私自身には傷一つない。
だが――
「……終わりだ。」
やがて黒煙が晴れると、そこには。
立ちすくんだクレットと、横たわり、魔人態が解除されたビストの姿があった。
「ビストッ、立て!!
私はもういい! 立って、逃げてくれ!!!」
「……無駄だ。
呼吸、心臓は停止。魔力の流れも感じられない……すなわち、」
「言うなっ!!!」
「ビスト・チェーンは死亡している。」
私のせいだ。
私がこの旅にビストを巻き込んでしまったから。
最初から、魔王の話などするべきじゃなかったんだ。
「……後は、貴様を殺せば……魔王様を、害する者は……ぐぅぅ……!」
クレットが片手で頭を押さえながら、こちらに歩み寄る。
何故か苦悶し、足取りも怪しいが、それでもゆっくりと近づいてきた。
私の眼前に立つと手をかざし、光を放っていた障壁が消え去る。
「これで……我は……いや、私は……」
ぶつぶつと呟きながらも、クレットの両手に魔力が集まる。
せめて、最期に一矢報いよう。
魔力を放つ直前、カウンターでぶん殴る。
万が一上手くいけば魔力が暴発し、相打ちに持ち込めるかもしれない。
「そう、すべては魔王様のために……」
魔力が最大に高まる、その寸前。
クレットの背後から、一本のナイフが飛び出した。
「っ!?」
気がついたクレットは、すんでのところでそれをかわした。
ありえない出来事に、クレットはとっさに振り向く。
そしてそのまま、ナイフは私の下に飛来し――
そこから先、頭の中は真っ白になっていたが、身体が勝手に動いた。
指先で挟んでナイフを受け止め、くるりと反転して握りしめる。
同時にありったけ魔力を叩き込み、“魔剣”を形成。
そしてそのまま、腕をまっすぐ前に突き出す。
“魔剣”が、振り向いたままの無防備なクレットの胸を貫いた。
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俺の目の前で、クレットはネリア様の手によって胸を貫かれた。
致命傷ではあるが、クレットは即死しなかったようだ。
「何故だ……!? 間違いなく、死亡を確認したのに……!
“魔人態”だって、解けていたはずなのに……!?」
クレットが倒れ伏したのと入れ替わるように、俺はあらためて魔人態を解き、立ち上がった。
「ビスト……!?
よかった…… 生きて……いたのか……!」
「ご心配をおかけしました。
この通り、ピンピン……とはいかなくても、生きていますとも。」
ネリア様が涙ぐみ、気が抜けたのか、血に染まった“魔剣”を握りしめたまま床に座り込む。
「何故……生きている……?」
瀕死のクレットが血を吐きながら、言葉を送り返す。
「当然、死んでいなかったからだ。
俺はここに来る前に、アージェの核の欠片をできるだけ集め、取り込んだ。」
「……そうか、奴の幻覚能力……その一部を取り込んで、死んだと見せかけたのか……」
「魔人態では呼吸を必要とせず、心臓も存在しない。
外見だけは幻覚能力で偽装して、魔人態が解けたように見せかけた。
ダメージは受けて、この通り全身ボロボロだがな。」
「だから不意を突いて、私の手に渡るようにナイフをなげたのだな。」
「どんな奴だって、死体が動けば驚くでしょうから。
まあ、予想よりも大分見事に決まったようですが……」
やはり、もうクレットには一片の力も残っていない。
後ほんのわずかな時間で、命の灯は消えるだろう。
その、クレットの顔をじっと見ていたネリア様が不意に口を開いた。
「……思い出した。
貴方は叔父上ではありませんか?」
「ネリア様の叔父って……国王陛下の……?」
「ああ、幼いころに何度か会ったことがある。」
ネリア様の言葉に、一瞬、クレットの瞳に光が宿る。
「そうだ、我……いや、私も思い出した。
私は国王の弟だ……」
「思い出したって……記憶を失っていたのか!?」
「わからない……何も……
ただ、深い悲しみがあった気がする……
悲しみの中で、誰かが私に話しかけ……気がつけば……」
「魔王軍の、四天王に……」
「だが、その間に何をしていたかも思い出せない……
ただ、魔王の力のすさまじさ……そして恐ろしさだけは……覚えている……」
そう言って、クレットは弱弱しく手を差し出した。
ネリア様は、その手を両手で受けた。
「カーネリアン……魔王を討つというのなら、覚えておけ……
力は、どこまでいっても単なる力だ……聖邪も、善悪もない……」
「叔父上……」
「“魔剣”も、“魔人”も……そして“魔王”すら、本質は同じだ……
特別な力なんて存在しない……ただ、使い方が違う……それだけのことだ……」
そう、言い残し、かつての四天王クレット……王弟殿下の体から力は失われた。
「ネリア様……」
それでもしばらくの間は、ネリア様はその手を離さなかった。
「一体、何者が叔父上をこのような目に……」
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「ネリア殿、ビスト殿! 無事であったか!」
俺達が無明城を出用とした時、丁度突入してきたジルとバルグと鉢合わせになった。
そうやら、ジルの“超感覚”で内部の様子を伺い、ネリア様の安全が確保されたので来たようだ。
「ご無事で、なによりです。
……距離は離れていましたが、会話は一通り聞こえていました。
まさかクレットの正体が王弟殿下だったとは……残念でなりません。」
「ジル、バルグ。心配をかけたな。」
ネリア様は、いつも通り堂々とした振る舞いをしているようだったが――どこか、表情に陰があった。




