第16話 魔軍の城塞
その日、俺達は宿の一室で今後の指針を話し合っていた。
「なるべく早く、四天王の居城を攻めたいと思います。」
「急……でもないか。
私も、もちろん賛成だ。そもそも魔王軍との戦い自体長引かせたくないからな。」
ネリア様は即座に肯定し、バルグも頷く。
「わたしも同意しますが……では、どこを攻めますか?」
「ああ、もちろんそれも考えていた。
これを見てくれ。」
ジルの言葉に、俺は用意しておいたメモを見せた。
「現在分かっている四天王の情報だ。」
○ゲネルラーについて
・四天王筆頭。純粋な戦闘能力ならおそらく最強。
・大剣の“魔法剣”を使う。ネリア様の“魔剣”に似ている。
・俺、ネリア様の手の内を体感的に知っている。
○アージェについて
・人間になりすまし、魔王復活のために暗躍していた本人。
・こちらの攻撃がすり抜ける。変身能力を持ち、ガンダーンに変身して見せた。
・配下の魔物をコントロールしている。
○クレットについて
・種族、性別等、一切の正体が不明。
・氷の魔法を使えることは分かっている。それ以外は不明。
「これは……正直、どれも手ごわそうであるな……!」
バルグが眉間にしわを寄せ、唸る。
実際、四天王が手ごわくないわけがない。が、それでも好機は今だ。
「俺もそう思うが、そうも言っていられない。
そして、あえてこの中から選ぶなら……俺はアージェを狙うべきだと思う。」
「ふむ……理由は?」
ここ数日、ずっと考えていた。四天王の内、誰を最初に攻めるべきか?
「まずクレット。
論外だな。情報が足りなすぎる。」
「そこら辺は王国軍からの報告待ちだな。」
「ゲネルラー。
一番情報があり、向こうの実力も分かってるが……奴は俺の渾身の振動衝撃を受け流してみせた。」
「完全に意表をついた一撃だった。あれを防がれた以上、今の私達では、残念ながら決定打がないな。」
「つまり、消去法でアージェしかいない。」
後ろ向きな理由しかないことに暗澹たる気分になるが、やるしかないのだ。
「厳しい戦いになるでしょうが、やむを得ません……
ですがわたしが見る限り、アージェは無敵です。何か秘密があるのでしょうが……」
ジルの言葉にはわずかな恐れと希望があった。
『秘密が破れなければ勝てない』という思いと、『秘密を破れば勝てる』という思い。
「それに関しては、実は見当はついているんだ。」
「「「え?」」」
よほど意外だったのか、ジルだけでなくネリア様とバルグも声を上げた。
「そこまで驚くことか?
アージェもあくまで生きている魔物だ。本物の無敵なわけがないだろう。」
「それはそうですが……本当にどうにかできるのですか?」
いまいち信じきれないのか、ジルがなお詰め寄ってきた。
「まあな。奴が吠え面かくのを楽しみにしていてくれ。」
●●●
数日後、魔王城から西にある四天王城の付近にて。
「あれがアージェの城か……」
尖塔がいくつも立ち並び、外壁は白一色で塗られている。わざとらしく優美な外観の、権威を誇るための城。
その城門は、開け放たれていた。
魔王の加護がある以上、人間の軍団は入れないため、城門を閉めておく必要がないというわけか。
「名は『幻影城』というそうだ。残念ながら内部の様子は分からない。
偵察に入った兵はいるが、生きて戻ったものはいないからな。」
はき捨てるように、ネリア様は言葉を出した。
民に対する責任感が強いネリア様にとって、無為に兵を死なせてしまったことが辛いのだろう。
「幻影城か……まともな感覚してたら城につける名前じゃないですね。」
まるですぐにも消え去ってしまいそうな名前だ。城に異名をつけるなら、普通は強固さを感じる名前にするはず。
「魔物の考えることだから、そこら辺は分からないな。
それよりジル、城への潜入は貴女が頼りだ。いけそうか?」
ジルはさっきから口をつぐみ、じっと城をにらんでいた。
「そうですね……最終的にはバレるでしょうが、ある程度は。
外周部を越えて、城の中心部に入るくらいまでなら、見つからずに行けるかと。」
「上等だ。それじゃあ皆、手筈通りに。」
「ああ、行こうか。」
ネリア様は、新しく用意した長剣を握りしめた。
「うむ!」
バルグは力強く頷いた。
●●●
「魔物がうろついてると思っていたが……拍子抜けであるな?」
魔物と遭遇することもなく、意外なほどあっさりと城内に入ることができた。
「いや……流石におかしくないか?」
「魔物の気配自体は城の全域から感じられます。しかし、それと遭遇しなかったということは……」
ジルが言い終わる前に、城の廊下が鳴動し始める。
「なっ……!! 壁が迫ってくる!?」
長い廊下の両方の壁が動きだし、俺達を挟み潰そうと迫ってきたのだ。
「今更引けるか! 突っ走るぞ!!」
ネリア様の号令に、全員が走りだす。
このペースで走れば、完全に挟まれる前に向こうに見える部屋に入ることができる。
――そう思っていたのだが、
「開かない!?」
今まで鍵のかかった扉などなかったというのに、急にこれだ。
「どくのである! でりゃぁあああぁぁっ!!!」
バルグが力いっぱいフレイルを振りまわし、扉に叩きつけた。
流石にひとたまりもなく、扉が吹き飛び、間一髪俺達は室内に転げ込む。
「ロクに鍵がかかってないかったのも、魔物と会わなかったのも、このためか……!」
肩で息をしながらネリア様が呟くが、
「ネリア様、まだです!
罠はこれで終わりじゃない!!」
今まで油断させておいて、仕掛けてくる罠がこの程度で済むはずがない。
案の定、部屋の壁が展開し、大量の矢が撃ち出される。
「……ったあぁ!!」
「“魔人変化”!!」
「ふんぬっ!!」
1面分の矢はネリア様が切り落とし、残りは魔人態の外殻とバルグの筋肉で防ぐ。
唯一、矢を防ぐ手段のないジルは3人に囲まれた中央だ。
「すいません、助かりました!」
「このままじゃ、らちが明かない……
バルグ! 俺とお前で突破口を開くぞ!!」
「応っ!!」
手をこまねいていれば追撃が来る恐れがある。
なら、防御に優れる俺とバルグを正面に、ゴリ押しで通り抜けるしかない。
「ビスト! 魔王城への魔力の流れから考えて、アージェはこの城の中心部にいるはずだ!」
「ええ、間違いありません! 前に一度会った気配を感じます!」
ネリア様も剣を抜き、ジルも短弓に矢をつがえ、突撃を援護する構えだ。
「よし! 罠を食い潰してブチ抜いてやる!!」
●●●
時に罠を丸ごと破壊し、あるいは壁を貫き、あらゆる障害を越え、中心部の尖塔、その最上階までなだれ込んだ。
そこは、一際豪奢な調度品が備えられた、まさに主の部屋。
その中で、ベッドに腰掛ける1人の女の姿。
「アージェ!」
「よくここまでたどり着けたものですわね。
幻影城のからくりの数々、お気に召してくださいました?」
「ああ、仕掛けた奴の性格の悪さがにじみ出る、最高のもてなしだったぜ……!」
大半の罠は無効化したが、それでも無傷では済まなかった。
4人全員がどこかに手傷を負い、本調子とはいかない。
しかし、ここで引く選択肢はない。
「最初に会ったときも言ったが、私は貴女と問答するつもりは一切ない。」
「この世を生きる人々を苦しめる、貴殿らは生かしておけぬのである!」
「四天王の恐ろしさ、知らぬわけではありませんが……やむを得ません、やってみせましょう。」
3人とも武器を構え、やる気と殺意に満ちている。
当然、俺もだ。
「こんな悪趣味な城はこりごりだ。帰りはゆっくり破壊しながら帰らせてもらおう……!」
「ふふふ……良いでしょう。
ここまで来るのに苦労したでしょうからね。
四天王のアージェ。ご褒美に、正々堂々戦って差し上げますわ……!」
そう言って、アージェの姿が煙のように歪み――




