第14話 毒鳥の湖畔
四天王の3人との戦いから7日後。
俺とネリア様は、とある街を治める領主の館に来ていた。
「ようこそおいで下さいました、カーネリアン王女殿下。
ごゆっくりと、おくつろぎください。」
さほど大きな街ではないが、領地の運営が上手くいっているらしく、領主の懐の豊かさがうかがえる館だ。
領主自身は壮年の男性で、いかにも上品そうな人物だった。
「残念ながら、今の私にゆっくり休む暇はない……
本題に入らせていただこう。」
「ええ、前線の戦況を始めとする、王国の情勢ですな。」
そう、ここに来た目的は情報だ。いつまでも四天王から逃げ回っているわけにはいかない。
領主は執事から資料を受け取り、目を走らせた。
「……ふむ、良い知らせと、悪い知らせがありますな。」
領主は顔をわずかにしかめ、こちらに目を向けた。
「では、良い知らせからたのむ。」
「国王陛下の外交が成功し、周辺各国から援軍が集まっております。
この戦力でもって、一度は魔王軍を押し込められたようですな。」
「我が国が陥落すれば、次は他の国々だからな。自国に乗り込まれる前に抑え込みたい、ということなのだろう。」
おそらく、このネリア様の言葉は俺に対するものだろう。
俺には国単位のことは想像がつかないので、解説はありがたい。
「ですが、もう一方の悪い知らせ……結論から言うと、連合軍は大きく戦線を後退させました。」
良い知らせと相反する結果に、俺とネリア様は愕然とした。
「何? なぜだ!?
戦力を増強したばかりなのに!?」
「今言った通り、一度は抑え込めたのですが……
魔王の魔力の影響が急に増し、連合軍の兵たちは弱体化。反対に魔王軍の兵たちは勢いづき、攻勢に耐えきれず……」
ネリア様はこめかみを押さえ、沈痛な面持ちだ。
「……魔王の魔力が増大した原因は分かるか?」
「ええと……宮廷魔法使いの報告によると、魔王城を中心に、正確に東西南北から魔力のラインが走っているとか。
同時に、ラインの先、各地に四天王の居城が出現。
居城の内、東を除く3ヵ所から強い魔力が魔王城に向けて流れ込んでいる……とのことです。」
「ビスト、これはつまり……」
今まで黙っていたが、ネリア様に水を向けられ、俺も口を開く。
「四天王が居城に戻った……ということで間違いないかと。
いつまでも、どこにいるかも分からない俺達を追ってるほど暇ではない、ということでしょう。」
「だろうな。
私達としては、少し安全が確保された、とも考えられるが……」
その代償が前線の後退では意味がない。
「ですが、これはチャンスでもあります。
今度こそ四天王の各個撃破が狙えますし、一人でも落とせば魔王への魔力が減り、前線の負担も減るかと。」
「城攻めのリスクは増すが……」
ネリア様は否定的な意見を出す。、
だが、その表情は、その否定的意見を論破してほしいように見えた。
「四天王が束になってかかってくるよりはマシでしょう?」
「……他に勝ち目の要素は?」
「ガンダーンと戦った時より戦力が強化されており、さらにガンダーンの時よりも相手の手札が見えてます。」
「うーん……もう一声欲しいところだな……」
「あの……さっきから聞いていると、まさか王女殿下は四天王の居城に……」
青ざめた領主に、堂々とネリア様は答える。
「ああ、殴り込みをかける。」
●●●
領主との会談の後、街の外でバルグ、ジルと合流した。
体格がデカすぎるバルグと、銀髪も褐色の肌も珍しいジルは、目立つからと街の外で待機していたのだ。
車座になり、2人に得た情報を伝える。
「なるほど、四天王の城に殴り込みであるか……」
「ようやく、わたしの暗殺術が披露できそうですね。」
少し不安そうなバルグと、意外と乗り気なジル。
「ああ、頼りにしている……が、その前にやらなきゃいけないことがある。」
「私との話の後、余談として領主が言っていたのだが……
この街の水源となる湖の近くに、1等級の魔物が住みついたらしい。」
ネリア様がそう言うと、2人の顔色が変わった。
「1等級ですか……!」
「魔人態を強化するチャンスとも考えられるが、それよりも問題は住みついた魔物の性質だ。」
「ふむ、どんな魔物なのであるか?」
バルグの言葉に、俺はギルドから貰ってきた資料の写しを見せる。
「1等級魔物、『チン』。
本来ここらの国では見かけない、遠方の魔物だそうだ。
姿は巨大な鳥型で、全身に猛毒を持つ。羽根に触れた水を飲んだだけで人が死ぬ強さだそうだ。」
バルグとジルの顔が青ざめる。
「猛毒! そんなものが水源地の近くに……?」
「ああ、だから領主も必死だ。
一刻も早く始末しないと、水源が汚染されて……」
「この街に流れ込む。最悪の事態ですね……」
「領主としては、魔王討伐が第一目的である私達に頼むつもりはなかったようだが……」
領主はネリア様の性格的を知らなかったから、外部の一流冒険者を招集し、依頼を出すつもりだったらしい。
「ふむ……街一つの危機となると、流石に見過ごせぬのであるな。」
「ジルはどう思う?」
「姫様の決めたことですし、何より状況が状況です。
四天王を優先したいところですが、やむを得ませんね。」
●●●
そんなわけで、湖に向けて移動していたのだが、
「まさか落石に巻き込まれるとは……」
おかげで俺は一人はぐれ、単独行動を余儀なくされた。
目的地はわかっているので、合流するのはそう難しくないだろうが、目の前にもう一つ問題があった。
「Kyuuu……ChiIIiiiii!!!」
非常に甲高い声で鳴く怪鳥。
チン。ギルドで聞いた魔物そのものだ。
「よりにもよって、分断された直後に……!」
いくらなんでも1等級の魔物なんぞとタイマンは張りたくない。
ならどうするか。
「逃げるが勝ちだ……“魔人変化”!」
変身してすぐに、ジャイアントモールの能力を発揮し、逃げるトンネルを掘る……はずだった。
「地中のこの感覚は……地下水脈!?」
今、俺がいる場所は、山頂付近の湖と街の間にある谷底。地下水脈が通っていても不思議はない。
問題は、水が流れているところを掘っても逃走には使えない。
さらに、迂闊に掘るとチンによって街に流れる水が汚染されることだ。
今までは、チンは直接街に流れる水には接触していなかったようだが、この場所が汚染されるとそうもいかない。
また、全身に毒があるということは体液も当然毒。体液が土壌を汚染すれば、地下水脈も影響を受ける。
「仲間無し、逃げ場も無し、振動衝撃も使えないか……!」




