第13話 友情の時間
四天王の3人から襲撃を受けて、2日が経過した。
あれから逃走を続け、今のところ追撃は受けていない。
斥候技能を修めてるジルや、元々冒険者のバルグはともかく、ネリア様には少々不便を強いることになってしまった。
追手と遭遇してしまうことも考え、別れて行動する時も1人にならないように気を付ける必要がある。
そんなわけで、ツレションである。
「しかし……正直、そろそろ考え時ではないか?」
「考え時? 何をだ?」
バルグの問いかけに、疑問で返す。
「拙僧、まさか四天王が3人もまとめて出張ってくるなぞ、予想だにしていなかったのである。」
「ああ……俺もてっきり、居城でふんぞり返ってるものだと思ってたよ。
昔話だと、初代国王は各居城で各個撃破したって聞いたよな。」
「魔王もそれを反省して、打って出てきたというわけであるか……
だが、この旅の危険度も跳ね上がったということであるぞ。」
そこまで聞いて、ようやく何の考え時なのかわかった。
「このパーティから抜けるかどうかの考え時ってわけか。」
「いかにも。
聞けば、貴殿は魔王復活の責任を感じて同行しているとか。
しかし、四天王の一人を斃すのにあれだけ貢献し、最大の窮地を救う活躍もした。
やってしまったことに対する義理は果たしたと言えるのではないか?」
ツレションの最中とはいえ、バルグの声は真剣だ。
心底から俺を心配していることが伝わってくる。
「それを言うなら、お前の方がよっぽど付いてくる義理がないだろう。」
「拙僧は冒険者とは言え僧侶。人々の救済のために命をかけるのは当然である。」
これも、冗談には聞こえない。
「……立派なもんだな。そこらの生臭どもに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。」
「師が良かっただけである。
変わった人でな、『人間死んだらおしまいなのだから、生きてる人間こそを助けるべきだ』と、よく言っていたのである。
だから、生きている人の為となることには熱心な方であった。
“治癒魔法”も、その師から伝授していただいた固有技能である。」
確かに変わっている。僧侶なんてのは、大抵は死後の救済をうたうものだ。
機会があれば会ってみたいものだ。
「そう言えば、バルグの出自は聞いてなかったな?」
「ふむ……まあ、秘密というわけではないが……」
わずかに口ごもる。だが、あらためてこちらに顔を向け、口を開く。
「実は拙僧、ちょっとした貴族の次男に生まれた者である。」
「何、貴族だったのか!?」
しかし、考えてみれば思い当たるフシがないこともない。
ネリア様の素性を聞いたとき、割と落ち着いていたし、礼の姿勢も堂に入ったものだった。
「うむ。大した家柄でもないくせに、跡目争いがややこしいことになってな。
下らぬことで殺すの殺されるのなど、まっぴら御免なのである。」
「よく聞く話だな。跡目から外された方は教会に入れて、神輿にされないようにするっていう……」
「そんなわけで、今更心配する者もなし。無論、わざわざ死ぬつもりはないが、たとえこの旅で拙僧が死んでも構わぬのである。
だが、貴殿はどうなのであるか?」
「確かにな……俺はお前とは違う。
元々危険な冒険者稼業とはいえ、人助けのために命をかけれるほど立派な人間じゃないし。
責任は感じてるが、これまた命をかけるほどの責任感もない。」
俺はこのパーティを抜けるかどうか、考えたこともない、などとは言えない。
「だけどな、前に話しただろう?
今までパーティから追放された回数は49回。」
「何度聞いても凄まじい記録であるな。数十年同じメンバーで組んでるパーティもあるというのに。」
「理由はわかるだろう? 俺の“魔人変化”を見ていれば。」
「まあ、未だに見慣れぬグロテスク加減であるな。」
「俺自身しっくりこないが、ネリア様はあれを『美しい』と言って気に入ってくれた。
こんな相手、一生かかっても他所じゃ見つからないだろう。」
欠点を他人に受け入れてもらえる、なんてことは普通に人生を過ごしていてもそうそうあることではない。
その欠点が致命的なものなら尚更だ。
「ネリア殿の為、か……
…………正直、そこのところどうなのであるか?」
「そこのところ?」
「ぶっちゃけ、惚れているのであるか?」
ストレートすぎる物言いだが、
「……まあな。身分違いは分かっているが……」
「命がけの旅で、それだけ誰かを思えるというのも、素晴らしいことであるよ。
そこに身分の差は関係ないのである。」
●●●
一方、そのころジルは、
「……小便、長いですね。どれだけ溜めてたんでしょう。」
そうひとりごちた。
“超感覚”は遠くのかすかな音も拾える。話声も、水音もだ。
「ん? 今何か言ったか?」
「いいえ、何も。」
姫様の耳に入っていい単語ではなかった。迂闊な独り言を反省する。
だが、遠くから聞こえてきた会話は聞き捨てならないものだった。
あの男、姫様に惚れているなどとは。
「姫様。うちの男ども2人、どう思われますか?」
「ビストとバルグのことか?
戦力的にも人格的にも信頼できる。良い仲間に恵まれたと思っているよ。」
「無難な答えですが、真意はそこではないというか……」
「うん? なら真意はどこだ?」
「いえ、特に意識していないなら問題ないのですが……」
「ただ、やはりビスト――というか魔人態。あれは美しいな!
彫刻にして城に飾っておきたいくらいだ!!」
姫様の言葉に卒倒しそうになるが、かろうじてこらえる。
「あの造形で置物にすると、王城が魔王城に変わってしまうのでおやめください……」
絞り出すように言葉を吐くが、姫様はピンと来ていない様子だ。
「というか、ジルはどう思っているのだ?
昔は男嫌いの気があったが……あの2人のことは、別に嫌いなわけではないだろう?」
「それは、まあ……信用に値する人物だとは思いますが……」
四天王に真っ先に挑んだバルグの勇気は称賛に価すると思う。
作戦を立てて、かつ、危険な役割を自ら買って出るビストは、事実上このパーティのリーダーと言えるだろう。
「ですが、問題は異性としてです。
姫様は万一の事態のために、あえて王位継承権を持たない身。ですが、あくまで王族としての……」
「ああ、そういう意味か。何、心配はいらない。」
「そう言って下さるのでしたら、信用しますが……」
ほっと胸をなでおろすジルであったが、その後に姫様が言葉を続ける。
「もし生きて旅を終えることができれば、ビストも晴れて大英雄だからな。
継承権を持たない王女くらい軽いものだろう。」
●●●
「ふー、すまぬ。遅くなったのであるな。」
「ん? ジルはどうしたんだ?」
キャンプ地に戻ってきた俺の目に入ったのは、顔面蒼白で白目をむき、立ったままピクリとも動かなくなったジルの姿だった。




