第12話 突破の秘策
「どうだ、連中は?」
四天王筆頭・ゲネルラーは、同じく四天王のアージェにたずねた。
もちろん、連中とは“魔剣”の王女の一味のことである。
「遺跡の地下に空洞を発見、だけど最初に突入したジャイアントモール数匹は瞬殺されたようですわ。
やはり、生きていたようですわね。」
片耳に手を当て、アージェが答える。
アージェはジャイアントモールと何らかの手段で連絡を取っているようだ。
「ふむ、まあ当然か。曲がりなりにもガンダーンを斃した奴らだからな。」
「念のため、周囲も配下の魔物が捜索しておりますわ。
抜け道でもあれば、折角生き埋めにしても台無しですもの。
……ほぼ間違いなく、抜け道なんてないでしょうけれどね。」
その点はゲネルラーも同意見だった。
抜け道とは同時に入り口でもある。それが複数あれば、意図せぬ者に遺産を奪われるリスクが高まる。
「となれば、連中もこれで終わりか……あっけないものだな。」
「逃げ場がない以上、ジャイアントモールを送り続ければいつかは必ず力尽きるでしょうね。」
「……吾輩は少し周りを見てくる。
ここは任せても問題ないな?」
「もちろんですわ。遺跡だけでなく、この山のいたるところに魔物は伏せてありますもの。
万一王女たちが脱出できても、即座に見つけて連絡を入れる手筈になっておりますわ。」
その言葉を聞き、ゲネルラーは無言で歩き出す。
(理論上、王女の一味が生き延びることはない……だが、この不安感はなんだ?)
しばらく歩き、遺跡からある程度離れた森の中で、ゲネルラーはかすかな揺れに気付いた。
(弱い地震か……いや、まさか!?)
とっさに大剣を抜き、構えたゲネルラーのその背後に。
地中から飛び出した2つの影が踊りかかった。
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少し、時間をさかのぼって。
「俺とネリア様で、やつらの包囲を突破できるってことです。」
俺はそう言葉にして、直後、手近なジャイアントモールを4匹をひねり殺した。
残る2匹はすでにジルが狙いを定めていたので譲った。
通路の奥からはまだ多数の気配がするが、今はそちらは置いておく。
「突破……というか脱出できるのであるか?」
「私としては、“魔剣”で瓦礫を掘り進んで出るつもりだったが。」
「素直に掘って地上に出ても、また四天王の3人と戦わなければならないでしょう?」
それでは状況が最初に戻るだけだ。
「なので、まず脱出にはこれを使います。」
そう言って、手の中に握ったものを見せる。
「……暗くて見えない。」
「おっと失礼!」
火を吹き、松明に再度火を灯した。
「これは魔物の核……今抜き取ったものか。」
「ええ。これをこうして……」
胸の外殻を開き、いつも通りに核を飲みこむ。
「これでトンネルを掘り、あのゲネルラーとかいう四天王に奇襲を仕掛けます。」
「そのままトンネルで逃げるわけにはいかないのですか?」
ジルの疑問はもっともだろう。だが、
「大量のジャイアントモールを送りこんできてる以上、遺跡周辺は山ほど魔物がいると考えた方がいい。
魔物相手に手こずっている間に、四天王が駆け付けてくる危険がある。
かと言って、流石に山一つ分のトンネルを掘る体力はない。」
「四天王の誰かに手傷を負わせ、そのドサクサで逃げるしかない、と。
だが、彼は手ごわいぞ。剣を交えたが、四天王筆頭というのもただの自称ではないようだ。
“魔剣”を強化したとはいえ、今の私の剣技では……」
ネリア様が剣を折られるところは横目に見ていた。一対一で勝てないのは事実だろう。
「ええ、多分最強の四天王でしょう。
案山子を囮にするのももう通用しないでしょうし。
ですが、他の2人相手だと戦うこと自体まともにできません。」
「確かに、あのアージェっていうのは攻撃がすり抜けてしまう相手でした。」
「クレットとかいうのは、正体自体わからなかったのであるな。」
アージェと戦ったジル、俺と一緒にクレットに当たったバルグがそれぞれ述べる。
「そういうこと。
で、ゲネルラーへ奇襲を仕掛けるのは俺とネリア様が担当です。」
「では、わたしとバルグさんは?」
「2人には逃走経路の確保を頼みたい。
ゲネルラーに一撃を加えたら、アージェとクレットが来る前に、一気に下山して行方をくらませないといけない。」
「なるほど、それで“超感覚”のあるジル殿と、いざという時盾になる拙僧がそちらを……」
バルグがそう言った直後、とうとう部屋にジャイアントモールが流れ込んできた。
「こちらの作戦がばれたら終わりだ!
まずは、こいつらの死骸で部屋の入り口を塞ぐ!!」
「よし、まかせろビスト!」
剣戟の音、破裂音が狭い部屋に鳴り響く――
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「恐れ入ったぞ……!
まさか貴様らの中に、地を掘る技能を持つ者がいるとはな……!!」
ゲネルラーに斬りかかった“魔剣”はギリギリで躱され、皮膚一枚切っただけの、わずかな傷しか負わせることはできなかった。
直後、ゲネルラーは距離を離し、大剣を構えて俺達と対峙している。
今はまだ、魔人態の能力――魔物の核を吸収して能力を増やすことには気付かれていない。
理想はこの場でゲネルラーを斃してしまうことだが、
「そして、その新たな“魔剣”……
魔王様からうかがってはいたが、厄介な技能だな。」
ネリア様に対する警戒を一層強めて、隙が無い。
(どうする、ビスト。この強化した“魔剣”、今なら多少は打ち合えるが……)
ネリア様が小声でそう言う。
(いえ、今は逃げ伸びることが優先です……
俺の合図で、全力で斬りかかってください。その後、即、全力で逃げてください。後は俺が何とかします。)
かすかに頷くと、ネリア様はナイフを上段に構える。
魔力の刃が伸び、ナイフを長剣の長さに変える。
「ほう、勝負に出るか……!
よかろう、吾輩の“魔法剣”で迎え撃つ!!」
ゲネルラーは大剣を八相に構え、ネリア様同様、魔力を剣に注ぎ込む。
双方にらみ合い、まるで一日経ったかと錯覚する刹那。
俺がわざと発した、金属化した外殻を打ち合わせる音を合図に、二人は一息に間合いを詰め。
「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ナイフの“魔剣”と、大剣の“魔法剣”がぶつかり合い、残ったのは“魔剣”だった。
大剣は真っ二つに折れ、その勢いのまま“魔剣”は縦一文字にゲネルラーの体を切り裂く――
ことはなかった。
「これが“魔剣”の真価か……!」
刃は体に届いたが、またしても浅い。
だが、俺にとってはそれで十分だった。
「なっ……!?」
「“GOgooOoo”!」
次の瞬間、俺が追撃をかけるからだ。
視界の外、しかも完全に間合いの外からの、ジャイアントホッパーの能力を使った最大跳躍力。さらにドラゴンメイジの爆風魔法を用いての加速。
折れた大剣が落下し、一瞬さえぎられたゲネルラーの視界が再び開けた時、長距離を一瞬で詰めた俺が現れる。
既にネリア様は踵を返し、脱兎のごとく走り出している。
飛び蹴りで、振動衝撃を叩き込んだ。
直撃すれば、口から臓物をすべて吐き出し、五体が四散する威力だったが――
「があっ……!」
ギリギリで、衝撃を逸らされた。驚異的な戦闘技術だ。
致命傷には程遠いが、しかし、ゲネルラーは片膝をついた。
効いてはいる。
本当なら、このままさらに追撃を加えたいところだが――
「ゲネルラー様……!」
さほど離れていない距離から、アージェの声が聞こえる。
戦闘の音が聞こえたのであろう、すぐにここに来るはずだ。
これ以上は無理、と判断し、俺も全力で逃走に入る。
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「ゲネルラー様、まさか“魔剣”の王女が!?」
アージェだけでなく、クレットも同時に、ゲネルラーのもとに駆け付ける。
「ゲネルラー殿に手傷を負わせるとは……
しかし、この程度の傷なら……」
切り傷を見て、クレットがそう言いかけるが、それを遮るようにゲネルラーは手で制し、
「ごぼぁっ……!」
大量の血を吐き出した。
「なっ、これは……!」
ひとしきり血を吐き、肩で息をしながらも、ゲネルラーは口をぬぐった。
「この程度では吾輩は死なん。
しかし……“魔剣”の冴えもなかなかのものだが、真に恐ろしいのは王女ではなかった……!」
「では、このダメージは!?」
「王女と共にいた、あのおぞましい鎧の男……!!
奴が……!」
そう言い残し、ゲネルラーは意識を手放した。




