第11話 初代の遺産
背後で爆音が響く。
振り返る時間もないが、おそらく案山子は既に一掃されているだろう。
「だが、間に合った……!!」
「危なかったぁ……!」
滑り込みで遺跡の中に身を隠す。
もしも今、大規模な戦術魔法で遺跡ごと吹き飛ばされれば、死ぬ。だが、それをしてこないところを見ると、連中も初代国王の遺産に興味があるようだ。
ならば、わずかながら時間は稼げた。
「だが、この逃げ方はこれっきりだ。
二度通用するような相手じゃないぞ!」
「それに、ネリア殿の“魔剣”も折れてしまったのであるな……」
「そうだ“魔剣”! それが折れたってことは、まさか……」
最悪のパターン……“魔剣”を失うということは、魔王に対抗する重要な手段がなくなるということではないか?
「いや、私のこれは問題ない。詳しいことは後だ!」
……まあ、そう言うなら問題ないのだろう。不安は残るが今はいい。
後は遺産の在処だが……
「ネリア様、遺跡の構造については何か知っていますか!?」
「ああ、確か……地上部はただの寺院跡で、本命は地下だったはず!」
「地下への入口はどこであるか?」
「いや、そこまでは……」
「では、わたしとビストさんで探してみましょう。」
言うや否や、ジルは床に耳を当て、床を叩いた。
俺も体内をスライム化し、床に手を当て振動を探る。
「あまり時間はなさそうであるな……」
窓から外をうかがいながら、バルグがそう口にする。
「不意打ちを警戒しているのか、全力で走って追ってくる……というわけではないが。
疑心暗鬼で踏み込むのをためらう、などということもなさそうである。」
連中が大規模破壊でも始めれば、反響音で地下を探るのも難しくなる。
地下空洞の存在は確認できたが、入口は……
「見つけました。こっちです!」
先にジルが発見したようだ。
先を走るジルに続き、遺跡の奥へ進んで行く。
「この床が蓋になっています。」
「よし、拙僧に任せるのである!」
おそらく8人ほどで持ち上げることを想定されているであろう石板を、バルグは安物のチェス盤のように持ち上げ、横に置いた。
中には地下へ続く階段。
「暗いな……」
「こちらをお使いください。
わたしは暗闇でも目が利きますので、万一に備えて先導します。」
ネリア様のつぶやきにジルが応じ、松明を手早く灯した。
「俺も振動の反射で見当がつくから、殿をつとめよう。」
頷きあい、駆け足で階段を下りる。
ジグザグに、建物3階分ほど下りたころ、階段が終わり通路が見えた。
通路は何度か曲がりくねり、そのの先は小部屋になっているのが感じ取れる。
「この先に……」
ネリア様が口を開いた直後。
轟音が通路を反響し、さっき下りてきた階段から瓦礫が降り注ぐ。
「走れぇっ!!」
ネリア様がそう言うまでもなく、全員が瓦礫を避けて、通路めがけて走りだす。
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「やつら……俺達を生き埋めにするつもりか!」
「確かに、これなら罠や不意打ちを警戒する必要はなくなるのであるな!」
とはいえ、思い切ったことをする。
確かに追手側は安全にこちらを攻撃できるが、成否を確認する手段がなければ、別の抜け道から逃げられる可能性があるはずだ。
それとも、向こうにも俺やジルのような能力を持つ者がいて、抜け道が無い把握しているのだろうか。
と、そこまで考えたところで、思考は中断された。
「あれが、初代国王の遺産か……!?」
いつの間にか最奥の小部屋に着いていたのだ。
台座の上に安置された何か。それは……
「ガントレット?」
ガントレット、あるいは籠手。
王家の紋章が彫金されている以外特徴のない、シンプルなガントレットだ。
「折角だから、剣でもあればよかったんだが……」
それこそ、先ほど折れた魔剣の代わりになるようなものが。
「いや、これは凄いぞ……!
大当たりだ!!」
「姫様、これが何かわかるのですか?」
俺だけでなく、ジルもバルグもピンときていないが、ネリア様にはこれの凄さがわかるようだ。
「ああ。まぎれもない、初代国王のガントレット!
私の魔力を倍化し、両手にその魔力を集中させる魔道具だ!!」
説明されても、どう凄いのかよくわからない。
だが、ジルにはわかったようだ。
「でしたら、姫様……!」
「そうだ、これで戦える!!」
「あの、すみませんが、説明を……
それだけあっても魔剣がないと戦えないのでは?
まさかそのガントレットで直接ぶん殴るとか?」
「おっとすまない、私の“魔剣”のことだったな。
実は、私が使う剣は何でも良いのだ。今まで使っていたのも普通の騎士用の剣だ。」
「えぇ!? そうだったのであるか!?」
「うむ。私の固有技能“魔剣”は、私の持った剣を魔剣に変える技能だ。
正確には、私の魔力が剣を強化し、強度と切れ味を飛躍的に上げる技能なのだ。」
「ということは、そのガントレットを身につければ……!」
「そう、魔剣の性能が何倍にも跳ね上がる!
ゲネルラーにももう遅れは取らないということだ!!」
四天王が3人も攻めてきて、これはもうダメかと思ったが、運が向いてきたようだ。
「姫様、これを……」
ジルがネリア様に、鞘ごとナイフを差し出す。
普段から腰に付けていたものだ。
「ああ、ありがとうジル。」
ネリア様はガントレットをつけた手でそれを受け取る。
逆転の光明が見え、喜びに沸く俺たちだったが――
「っ!! 何かがいます!?」
真っ先に気付いたのは、ジルだった。
直後、何かが飛来し、松明がかき消される。
「何だ、今のは!?」
「飛礫……!」
「この振動、小型の魔物が5、いや6か……いや、まだ奥から来る!」
完全な暗闇の中、それでも戦闘態勢をとる。
だが、敵の位置や大体の大きさはわかるが、正体まではわからない。
「ジル、見えるか!? 教えてくれ、どんな魔物だ!?」
「モグラのように見える……おそらく、ジャイアントモールです!」
「彼奴ら、地中に潜れる魔物を放ってトドメを刺しに来たのであるか!」
「この程度、物の数ではない……と言いたいところだが、退路がない状況では物量で来られると……
どうする、ビスト!?」
追撃の手に、場が切迫する。
だが、俺は――
「このタイミングでジャイアントモールとは……いよいよもって、運が向いてきたな。」
「何? どういうことだ!?」
「俺とネリア様で、やつらの包囲を突破できるってことです。」




