第10話 三者の襲撃
初代国王の遺産を求め、俺達は険しい山道を進んでいた。
「そう言えばネリア様。今更ですけど馬は置いてきたんですね?」
出会ってから前線に着く前までは馬に乗っていたが、今は連れていない。
「一人で旅をするつもりだったから用意した馬だが、今は私一人だけ乗っていても意味がないからな。」
「まったくの無意味ってこともないと思いますが……
でも確かに、戦闘に巻き込んで死なせてしまうかもしれませんしね。」
四天王ガンダーンといい、この前のドラゴンメイジといい、常識を超えた魔物と戦う機会も増えてきている。
「ああ、だから軍馬として使うよう言って、将軍に預けてきた。
なかなかの名馬だから、戦場でも活躍できるだろう。」
将軍の騎馬として使うなら、少なくともこの旅に使うよりはマシか。
「名馬……ということはあの馬、適当な軍馬を借りたのではなくて、王家からの持ち出しであるか?」
「言われてみれば、毛艶が妙に良い馬だと思ってましたが……」
「ああ、王家の所有する馬だ。」
王家所有ということは、あの馬にもしものことがあれば将軍が処罰される可能性がある。
しかし、軍で活用するよう言われているので、繋ぎっぱなしというわけにもいかない。
板挟みになっているであろうことを想像すると、少しあの将軍に同情する。
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「おお、見えてきたのであるな。」
バルグの言う通り、朽ちた遺跡の入り口が見えてきた。
かつては寺院か神殿のような建物だったようで、朽ちてなお、威容を感じる。
だが、それだけではない。
「ビストも気付きましたか。」
ジルが弓に矢をつがえる。
その言葉に、ネリア様とバルグも即座に臨戦態勢に入る。
「ああ、殺気が3つ……しかも、並の魔物じゃない!」
俺が言い終わった直後、氷の刃が飛来する。
「“魔人変化”!
カアアアァァァァァッ!!」
魔人態に変身すると同時に、口から火炎を放ち、氷の刃を迎撃。一瞬で液化し、それもすぐに蒸発した。
「やはり、この程度の不意打ちは効かぬか。」
「ガンダーンを斃しただけのことはある、というわけだな。」
「よくまあ、私達の気配に気付きましたわね。一応、私は隠密が本業なのですけれど。」
3人分の男女入り混じった声色。
「追手……しかも人語を解する高等魔族ですか!!」
「何奴であるか!?」
俺達を三方から取り囲むように現れたのは、統一感のない奴らだった。
「吾輩こそは、魔王軍四天王が筆頭、ゲネルラー!!」
まず、軍服に身を包み、背に大剣を背負った、精悍な男が名乗った。
「我はクレット。同じく四天王が一角。」
次に、マントと仮面で姿を隠した、声すら無機質で性別もわからない者。
現れた方位からして、さっきの不意打ちはこいつの仕業のようだ。
「同じく四天王、私はアージェ。
王女様と冒険者さんはお久しぶり。そちらのお二人は初めましてね?」
そして3人目。俺を嵌めて、魔王を復活させた女。アージェがそこにいた。
「貴女はあの時、キマイラをけしかけてきた人!!」
「なるほど、あんた四天王だったのか……!」
魔王復活のために動いていた理由も、キマイラなんて強力な魔物を従えていたのも、納得がいく。
しかし、四天王の残り全員で来るとは……完全に予想外だ。
ガンダーンと戦った時は、バルグが力量を暴き、俺が相打ちに持ち込み、ジルとネリア様がトドメを刺した。
それに対して今の敵は3人。仮に俺達2人で四天王1人を相打ちに持ち込んでも、1人残ってしまう。
「プライドも何もなしに、必殺の面子で来たか……」
「フン、確かに少々過剰な戦力だが、魔王様を脅かしうる芽は早めに摘まねばな。
“魔剣”の王女以下4名、貴様らには死んでもらう!」
そう言い放ち、ゲネルラーが大剣を抜いた。
同時に、他の2人の四天王も動きだす。
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クレットが右手を前に突き出し、魔法を唱える。
「“ブレイザード”。」
「カアァァァァッ!!」
氷の刃が吹雪のように吹き出す。俺の火炎の息で一瞬だけ相殺するも、刃の吹雪はそれをはるかに上回る量と勢いで噴出され続ける。
「ぐわあああぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐうぅぅぅぅっ!!」
ドラゴンメイジの爆風すら上回る風圧に加え、無数の刃に俺とバルグは全身に傷を負い、吹き飛ばされた。
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「姫様の邪魔はさせません!」
ジルが速射で矢を放つ。狙いはアージェの両目だ。
移動速度も考慮した射撃は吸い込まれるようにアージェの顔に向かい――
「なっ!?」
そのまますり抜けた。
「私に決まった姿はありませんの。
攻撃はすべて素通りするし、外見だって……」
アージェの形が煙のようにほどけていき、再び集結すると、
「ほら、この通り。」
「ガンダーン……!?」
ガンダーンの姿が、アージェの声でしゃべる。
「姿だけじゃないわよ? 力も固さも速さも、ガンダーンと同じ。
でも、私の特性も併せ持つから、アナタの矢はすり抜ける。
まるで無敵、アナタは絶対に勝てないでしょう?」
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ネリアは魔剣を振るい、ゲネルラーと打ち合っていた。
「吾輩と打ち合えるとは、“魔剣”も伊達ではないようだな!」
「……っ!」
しかし、余力を残しているゲネルラーに対し、ネリアの顔色は悪い。
本来、魔剣とは触れたものを問答無用で切り裂く最強の剣。
それと打ち合えているということは、ゲネルラーが魔剣に対抗できる『何か』を持っている証拠だ。
「不思議そうな顔をしているな?
何故この大剣は魔剣で斬ることができないのかと?」
「貴方、知っていて……!」
「だが教えてやる義理はない!
その命、この場でいただく!!」
剣速がいっそう増し、それでもネリアの剣技はその速さに追い付こうとするが――
「な、に……?」
鋭い音を立てて、魔剣が折れた。
「終わりだぁぁ!!!」
ゲネルラーは大剣を大きく振りかぶり、ネリアへと叩きつける。
ネリアにはそれを防ぐ手段も、回避する時間もなく――
だが、2人の間に突如生えてきた案山子が剣速を遅らせた。
「何だこれは!?」
その隙にネリアはわずかに体を引き、大剣は服と皮膚の一部を斬っただけで済んだ。
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予想以上にこの3人は強い。
たとえ、ガンダーンの時のように4対1であっても、今の俺達では勝つのは難しい。
そして、このまま下山して逃げても、おそらく逃げ切れないだろう。
ならばどうするか。
「ネリア様、バルグ、ジル!
遺跡に逃げ込むぞ!!」
言うと同時に地面を叩き、スケアクロウを大量に出現させる。
逃げる切るためには、何か状況を変える一手が必要だ。
遺跡にあるという、初代国王の遺産に賭けるしかない。
「助かったぞ、ビスト!」
「このままでは勝てません……逃走もやむを得ませんね……!」
案山子の林が視界を遮り、四天王の攻撃の手が一瞬止まる。
「ぬ、小癪な真似を……!」
俺の意図を察した3人は、一斉に遺跡に向かって走り出した。




