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第10話 三者の襲撃



 初代国王の遺産を求め、俺達は険しい山道を進んでいた。


「そう言えばネリア様。今更ですけど馬は置いてきたんですね?」


 出会ってから前線に着く前までは馬に乗っていたが、今は連れていない。


「一人で旅をするつもりだったから用意した馬だが、今はわたくし一人だけ乗っていても意味がないからな。」


「まったくの無意味ってこともないと思いますが……

 でも確かに、戦闘に巻き込んで死なせてしまうかもしれませんしね。」


 四天王ガンダーンといい、この前のドラゴンメイジといい、常識を超えた魔物と戦う機会も増えてきている。


「ああ、だから軍馬として使うよう言って、将軍に預けてきた。

 なかなかの名馬だから、戦場でも活躍できるだろう。」


 将軍の騎馬として使うなら、少なくともこの旅に使うよりはマシか。


「名馬……ということはあの馬、適当な軍馬を借りたのではなくて、王家からの持ち出しであるか?」


「言われてみれば、毛艶が妙に良い馬だと思ってましたが……」


「ああ、王家の所有する馬だ。」


 王家所有ということは、あの馬にもしものことがあれば将軍が処罰される可能性がある。

 しかし、軍で活用するよう言われているので、繋ぎっぱなしというわけにもいかない。

 板挟みになっているであろうことを想像すると、少しあの将軍に同情する。



●●●



「おお、見えてきたのであるな。」


 バルグの言う通り、朽ちた遺跡の入り口が見えてきた。

 かつては寺院か神殿のような建物だったようで、朽ちてなお、威容を感じる。

 だが、それだけではない。


「ビストも気付きましたか。」


 ジルが弓に矢をつがえる。

 その言葉に、ネリア様とバルグも即座に臨戦態勢に入る。


「ああ、殺気が3つ……しかも、並の魔物じゃない!」


 俺が言い終わった直後、氷の刃が飛来する。


「“魔人変化”!

 カアアアァァァァァッ!!」


 魔人態に変身すると同時に、口から火炎を放ち、氷の刃を迎撃。一瞬で液化し、それもすぐに蒸発した。


「やはり、この程度の不意打ちは効かぬか。」


「ガンダーンを斃しただけのことはある、というわけだな。」


「よくまあ、私達の気配に気付きましたわね。一応、私は隠密が本業なのですけれど。」


 3人分の男女入り混じった声色。


「追手……しかも人語を解する高等魔族ですか!!」


「何奴であるか!?」


 俺達を三方から取り囲むように現れたのは、統一感のない奴らだった。


「吾輩こそは、魔王軍四天王が筆頭、ゲネルラー!!」


 まず、軍服に身を包み、背に大剣を背負った、精悍な男が名乗った。


「我はクレット。同じく四天王が一角。」


 次に、マントと仮面で姿を隠した、声すら無機質で性別もわからない者。

 現れた方位からして、さっきの不意打ちはこいつの仕業のようだ。


「同じく四天王、私はアージェ。

 王女様と冒険者さんはお久しぶり。そちらのお二人は初めましてね?」


 そして3人目。俺を嵌めて、魔王を復活させた女。アージェがそこにいた。


「貴女はあの時、キマイラをけしかけてきた人!!」


「なるほど、あんた四天王だったのか……!」


 魔王復活のために動いていた理由も、キマイラなんて強力な魔物を従えていたのも、納得がいく。


 しかし、四天王の残り全員で来るとは……完全に予想外だ。

 ガンダーンと戦った時は、バルグが力量を暴き、俺が相打ちに持ち込み、ジルとネリア様がトドメを刺した。

 それに対して今の敵は3人。仮に俺達2人で四天王1人を相打ちに持ち込んでも、1人残ってしまう。


「プライドも何もなしに、必殺の面子メンツで来たか……」


「フン、確かに少々過剰な戦力だが、魔王様をおびやかしうる芽は早めに摘まねばな。

 “魔剣”の王女以下4名、貴様らには死んでもらう!」


 そう言い放ち、ゲネルラーが大剣を抜いた。

 同時に、他の2人の四天王も動きだす。



●●●



 クレットが右手を前に突き出し、魔法を唱える。


「“ブレイザード”。」


「カアァァァァッ!!」


 氷の刃が吹雪のように吹き出す。俺の火炎の息で一瞬だけ相殺するも、刃の吹雪はそれをはるかに上回る量と勢いで噴出され続ける。


「ぐわあああぁぁぁぁぁっ!!」


「ぐうぅぅぅぅっ!!」


 ドラゴンメイジの爆風すら上回る風圧に加え、無数の刃に俺とバルグは全身に傷を負い、吹き飛ばされた。



●●●



「姫様の邪魔はさせません!」


 ジルが速射で矢を放つ。狙いはアージェの両目だ。

 移動速度も考慮した射撃は吸い込まれるようにアージェの顔に向かい――


「なっ!?」


 そのまますり抜けた。


「私に決まった姿はありませんの。

 攻撃はすべて素通りするし、外見だって……」


 アージェの形が煙のようにほどけていき、再び集結すると、


「ほら、この通り。」


「ガンダーン……!?」


 ガンダーンの姿が、アージェの声でしゃべる。


「姿だけじゃないわよ? 力も固さも速さも、ガンダーンと同じ。

 でも、私の特性も併せ持つから、アナタの矢はすり抜ける。

 まるで無敵、アナタは絶対に勝てないでしょう?」



●●●



 ネリアは魔剣を振るい、ゲネルラーと打ち合っていた。


「吾輩と打ち合えるとは、“魔剣”も伊達ではないようだな!」


「……っ!」


 しかし、余力を残しているゲネルラーに対し、ネリアの顔色は悪い。

 本来、魔剣とは触れたものを問答無用で切り裂く最強の剣。

 それと打ち合えているということは、ゲネルラーが魔剣に対抗できる『何か』を持っている証拠だ。


「不思議そうな顔をしているな?

 何故この大剣は魔剣で斬ることができないのかと?」


「貴方、知っていて……!」


「だが教えてやる義理はない!

 その命、この場でいただく!!」


 剣速がいっそう増し、それでもネリアの剣技はその速さに追い付こうとするが――


「な、に……?」


 鋭い音を立てて、魔剣が折れた。


「終わりだぁぁ!!!」


 ゲネルラーは大剣を大きく振りかぶり、ネリアへと叩きつける。

 ネリアにはそれを防ぐ手段も、回避する時間もなく――


 だが、2人の間に突如()えてきた案山子かかしが剣速を遅らせた。


「何だこれは!?」


 その隙にネリアはわずかに体を引き、大剣は服と皮膚の一部を斬っただけで済んだ。



●●●



 予想以上にこの3人は強い。

 たとえ、ガンダーンの時のように4対1であっても、今の俺達では勝つのは難しい。

 そして、このまま下山して逃げても、おそらく逃げ切れないだろう。

 ならばどうするか。


「ネリア様、バルグ、ジル!

 遺跡に逃げ込むぞ!!」


 言うと同時に地面を叩き、スケアクロウを大量に出現させる。

 逃げる切るためには、何か状況を変える一手が必要だ。

 遺跡にあるという、初代国王の遺産に賭けるしかない。


「助かったぞ、ビスト!」


「このままでは勝てません……逃走もやむを得ませんね……!」


 案山子の林が視界を遮り、四天王の攻撃の手が一瞬止まる。


「ぬ、小癪な真似を……!」


 俺の意図を察した3人は、一斉に遺跡に向かって走り出した。



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