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第1話 復活の魔王



「お前はクビだ! 出ていってくれ!!」


 このセリフを聞くのは12日ぶり49度目だ。

 俺の名はビスト・チェーン。

 おそらくこの国で最も多くのパーティを追放された冒険者だろう。

 もしかしたら歴代最多かもしれない。


「お前が嫌いだとか、足手まといってわけじゃあない。ただ、お前の戦い方……と言うか“固有技能”はキモイ!キモすぎる!!」


「言われるのには慣れてるけど、流石に少し傷つくな……」


 追放される理由もいつも通り。

 俺は大体平均して月に2回解雇されてるが、一番多い解雇理由がこれだ。

 ちなみに他の理由は、


 1位 戦い方がキモイ(96%)

 2位 連携が取れない(53%)

 3位 性格が合わない(22%)

 ※複数回答可、小数点以下四捨五入

 

「まあ、いつものことか……

 じゃあ昨日の仕事の報酬を分配してくれよ。俺の分だけでいいから。」


 パーティを抜ける時の手続きも、すっかり慣れてしまった。

 今までの経験からそろそろ言われるころだと思っていたので、身の回りの荷物も大体整理してある。

 出ていくと決まったならなるべく早く出ていく方がいい。



●●●



 “固有技能”。

 それは戦闘の場において、人間が最も頼りとするもの。

 戦いに身をやつす者は誰もがそれを習得する、個人の才能に由来する技能だ。

 通常の剣術や下級魔法とは一線を画す性能を持つ、一人に一つの能力。


 ある者は師から、または親から受け継ぎ。

 またある者は生まれつき天性のものを持つ。

 例えば“火炎魔法”、“氷結魔法”などの属性魔法。剣術や格闘術の決め手になる“必殺技”。

 レアなところで“召喚術”や“忍法”など。


 そして、俺の固有技能は――



●●●



「さて、どうしたもんかな。」


 何となく、どうしたものかな、などと口に出したが、この後することは決まっている。

 クビになるのは日常茶飯事なので、その後どうするかも日常の内だ。

 単独でこなせる仕事を探すか、パーティメンバー募集の張り紙を探すか。


「とはいえ、後者はもう大体回ったんだよな。」


 この街では俺が在籍したことのないパーティの方が少ないくらいだ。

 結成したての新人のパーティはもちろん、中堅以上のベテランと組むことも少なくない。

 そして一度外されると二度と呼ばれない。


 当然、クビになった回数が10を超えたあたりから噂が立った。

 普通なら、そんなに何度もクビにされるような奴は最初から仲間に入れないところだが、そこは理由がある。

 一応、俺はこの街ではトップクラスの凄腕冒険者だ。

 仕事をしくじることはめったにないし、偶にあっても、それはよっぽど不運の要素が強いときだ。

 そして、解雇の理由の多くが『なんかキモイから』であることも知れ渡っているので、俺と組んだことのない奴はこう思うのだ。


『キモイことに目をつぶれば強力な戦力なんじゃないか?』と。


 そして、実際にパーティに組みこみ、一緒に戦ってみて気付くのだ。


『あ、ホントにキモイ。無理だ。』と。


 そんなわけで、そろそろパーティに入って活動するのは諦めた方がいいかもしれない。

 しかし、単独での冒険者稼業は非常に厳しい。

 想定外のことが起きた場合の対応力が低すぎるため、簡単な仕事しかできないのだ。当然報酬も少ない。


 そんな時、悩んでいる俺に声をかけてきた奴がいた。


「あの……冒険者のビストさんですよね?

 私、アージェといいます。

 あなたに依頼クエストをお願いしたいんですが……」


 薄茶色の髪をした、少し気弱げな女性が仕事をを持ちかけてきたのだ。



●●●



 正直、少々怪しいとは思った。

 俺がクビになるのはいつものこととは言え、それでも平均月に2回の出来事。タイミングが良すぎる。

 が、しかし。依頼を受けねば金が尽きる。

 報酬額はそこそこ高く、いざというときの逃げ足には多少の自信がある。

 そんなわけで前金を受け取り、依頼を受けたのだが、後にこの判断は間違っていたと気付くことになる。



●●●



 依頼は、遺跡内のからくり仕掛けを解除し、特定の魔道具マジックアイテムを持ってきてほしいというスタンダードなもの。

 仕掛けの概要はすでに情報があるらしく、解除法の見当はついている。

 なら、このような依頼の場合何が障害になるか?

 その答えは、


「GGoGggugooooo……!」


 目の前のストーンゴーレムがそれだ。


「やっぱりこの程度の魔物は出るか……!」


 ストーンゴーレムは2等級の魔物だ。

 魔物は危険度によって等級が分かれており、最も危険なものが1等級、比較的安全なものが5等級。

 ストーンゴーレムは2等級の中でも遺跡のガーディアンとしてよく見かける部類。

 本来なら単独で挑むのは自殺行為だが、俺の場合は少々例外だ。

 ストーンゴーレムはただ単純に『強くて固いだけ』の魔物なので、性質の悪い下級よりも処理しやすいくらいだ。


 俺は、戦闘態勢に入るために魔法を唱える。


「“魔人変化”。」


 皮膚が溶け、肉が裂け、骨が崩れ、そしてそれらが再構成される。

 1秒数える間もなく、俺は悪魔と虫と甲冑を混ぜ合わせたような、怪人じみた姿へと変じた。


「GoGuuuuu!!」


 こちらの敵意を悟り、ストーンゴーレムが機械的に襲ってくる。

 振りかぶり、放たれようとする拳を懐に潜りこむことでかわし、伸びきった腕の関節に、指先が爪化した抜き手を差し込む。

 ゴーレムが腕を縮めるよりも早く、赤熱した爪が関節にヒビを入れ、砕いた。

 片手を失ったことで重量バランスが大きく崩れ、ゴーレムの巨体が揺らぐ。

 その隙に、強化された脚力で跳躍、ゴーレムの頭部に取りつき、膝蹴りを叩きこんだ。

 衝撃が振動として内部に伝わり、頭部に格納された『核』を砕く。

 ストーンゴーレムは機能を停止し、轟音を立ててバラバラに崩れた。



●●●



 俺の固有技能、『魔人変化』と、それによって変身する形態、『魔人態』。

 冒険者としての力の源であると同時に、49回を誇る解雇回数の元凶でもある。

 性能は極めて優秀。

 身体能力の大幅な強化に加えて、魔物の『核』を取りこむことによって、その魔物に似た能力を得ることができる。

 現在持っている能力は『スライム』『リビングアーマー』『ジャイアントホッパー』『サラマンダー』など。


 最大の欠点は、見た目がグロテスクなこと。魔人態のそのものも怪人同然の不気味な姿だが、特に変身の過程がひどい。

 いわく、『一度見たら3日間食事が喉を通らない』『アレを見るたびに人間としての感性がおかしくなっていく』『サイコロを転がさなきゃいけなくなる』

 人前で変身しなければ良いかというと、そうもいかない。

 魔人態は体力を消耗するので、長時間の移動と短時間の戦闘を繰り返す冒険者としては、ずっと魔人態を維持することはできないのだ。

 必然的に変身を繰り返し、人目を避ける余裕がない状況も多発する。


「“逆変化”。」


 魔人態を解除。変身時と同じ現象が逆再生で起きる。


 周囲に敵はもういない。後は目の前のからくり仕掛けを解き、目的の物を持ちだすだけだ。

 仕掛けを解くのはそう難しくなかった。スライドパズルのようなものだ。

 隠し扉が開き、台座に安置された魔道具が目に入る。

 

「間違いない、封魔の壺だ。」


 アージェの情報通りだ。

 これを持ちかえれば残りの報酬を受け取ることができる……が、その前に。

 まずは周囲の罠を調べなければならない。

 俺は魔人態にならなくても、ほんのわずかだが魔物の能力を扱うことができる。

 スライムの能力で振動を増幅感知、台座や周囲に怪しい空洞がないか確認する。


 封魔の壺は名前の通り、魔物を封印することができる魔道具だ。

 このような依頼の場合、まず疑うべきは封印されている魔物を復活させることによるテロ。

 だが、この壺は口が開いている。中は空、未使用品だ。

 次に疑うのは、この壺が魔法陣のかなめになっているかどうか。魔道具は大規模魔法の触媒にも使えるのだ。

 しかしこれも、問題ない。床や壁に模様はないし、地下空間もないことは確認済みだ。


「となると……普通に持ち帰っても大丈夫そうだな。」


 俺は手を伸ばし、封魔の壺に手をかける。

 その瞬間、背筋に悪寒が走った。


「……っ!?」


 すぐに手を離し、バックステップで距離を離す……が、何も起こらない。

 しばらく警戒し、周囲も再確認するが、一切変化は見当たらない。

 本来なら、気のせいとしても構わないのだろうが、こういった時の勘は大抵よくない方に当たるものだ。

 壺には手を触れず、隠し扉を再び閉めて、遺跡の外に出る。


 丁度、俺が遺跡から出てきたと同時に、馬に乗った騎士が駆け付けてきた。

 本当に、タイミングが良すぎる。むしろ悪すぎたのか?

 女騎士は開口一番、こう言ったのだ。


「魔王を復活させたのは、貴方だな?」



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