魔王《おまえ》は勇者《おれ》が守る!
小説初挑戦です。
今回はテストと練習もかねて、短編を挑戦です。
未熟者ですが、どうぞよろしくお願いします。
魔王城謁見の間にて、俺は最強の敵とぶつかり合っていた。
「おおおおおお!!!!」
「うらああああ!!!!」
互いに雄叫びを上げながら、渾身の力を込め己の聖剣を相手の魔力剣に合わせる。瞬間、莫大なエネルギーが衝撃波となって荒れ狂った。
石で出来ていたはずの魔王城の壁が吹き飛び、内装は全て粉々になり、辺りにいた魔王軍の雑魚兵士たちは瞬時に塵になった。俺とこいつ以外で無事なのは、三人だけ。元仲間の魔術師のジェット、そして神官のフェリス、それから……
「ちっ」
衝撃波が俺の後ろまで及びそうになったので、俺は慌てて背後に下がり、身に纏った白いマントで一人の少女を包んだ。魔力付与された勇者のマント、大半の衝撃波はもう相殺されているから、これ一枚でも十分だ。
「手前ぇっ、ふざけてるんじゃないぞ!! こら、勇者!」
「黙れ。俺は、もう勇者じゃない。これからは、真実の愛に生きる。……だいじょうぶか、シーラ。安心しろ、お前のことは必ず守ってやるからな」
俺は驚いて固まっている腕の中の少女に優しく話しかける。
年の頃は、十二、三歳と言ったところか。
その少女はすさまじくかわいかった。透けるように白い肌、まるでお人形さんのように整った顔立ち。少女の華奢な腰の辺りまである長い黒髪は、一本一本丁寧に紡がれた絹糸のようにつややかで、触れればさらさらと指の間を流れる。長い睫毛の奥に秘められた黒瞳はとても大きく、まるで純度の高い宝石のように透き通った輝きを持っていた。
あまりの恐怖にちょっと半泣きになっているのもすごいかわいい。
「このっ! くそ野郎が!! 土壇場になって魔王にたぶらかされて、裏切りやがって! だいたい、そいつはまだガキだろうが!! お前にはそう言う趣味があったのか!?」
「ふざけるな! まだ子供だというなら、なぜ幼いシーラを手にかけようとする!?」
「だから、そいつは魔王だからだと言っただろうが!!」
「魔王はシーラの親父だ! シーラは魔王じゃない! いや、確かに親父が逃げたから彼女が魔王かもしれないが、どっちでもいい。とにかく、シーラは俺のものだ!!」
「……訳分かりませんよ。勇者。まあ、情熱だけは無駄に伝わってきますが……」
敵の後ろの方で、蒼い髪の美形めがねが溜息をつく。魔術師のジェットだ。
そして、俺が言い争いをしつつ剣を交えている最強の敵は、元うちのパーティーの剣士、アッシュ。紅く長い髪を持った、少々獰猛そうではあるが一応美形だ。
こいつは剣術の名門の家に生まれ、自身も千年に一人と言われたすさまじい才能を併せ持ち、たぶん俺が来なかったら勇者になっていただろうと言われたほどの男だ。十二の頃中央王国大剣術大会で並み居る世界中の強豪を軽々と倒し、世界の頂点に立ったらしい。
だから、今回の魔王討伐パーティーには勇者に相当する奴らが三人いると言われていた。俺と、アッシュと、もう一人は天才魔術師兼剣士兼賢者のジェットだ。あいつは基本的に何でも出来る。生まれる時代が違ったらあいつも勇者と呼ばれていただろう。
「だいたい、お前には中央王国の姫さんが許嫁としているじゃねえか!!? 魔王を倒したら結婚する予定なんだろう! お前は彼女を裏切る気なのか!!!」
「誰が許嫁だ誰が!!? それにアレは王の陰謀だ!! 俺はまだ十七だぞ!? 何が悲しゅうて四十過ぎの中年と結婚せねばならん!!? おかしいだろう!! 何でお姫様がおばちゃんなんだよ!!?」
俺の魂の叫びが、壁がぶっ壊れて吹き抜けになった青空に吸い込まれていく。
そう、普通の高校生だった俺が異世界に召喚されてから、今までいろんなことがあった。納得の出来ないことばかりだった。
元の世界に帰りたければ魔王を倒せと脅されたり、まともに喧嘩もしたことがなかった俺が大した装備も渡されずいきなり魔物はびこる世界に旅させられたり、試練だと謂われ無理難題をふっかけられたり、挙げ句の果ては、許嫁にさせられた姫が中年のおばちゃんだったのだ。
昔はそう、異世界に甘い期待を抱いていた時期もあったが、異世界なんて甘いもんじゃない。現実と同じ、苦いものだ。……そう悟った、十七の冬。
「許せねえ! 姫さんをおばちゃん呼ばわりするとは、どういう了見だーー!! 姫さんは人格の出来たすばらしい人だろうが!! 包容力だってある! なぜその大人の魅力を理解できない!! 女は、四十過ぎてからが華だろうがーー!!」
なぜかものすごい切れる、アッシュ。
ああ、もしかして、こいつは熟女趣味だったのか。そう言えば何となく、そう言う流れがあったな。美形なのに。どうりで浮いた噂の一つもないわけだ。
「ふざけたことを抜かすな! お前こそなんで、子供と大人の間の年齢の、不安定な繊細さの魅力が分からん!? 肌なんかぴちぴちでふにふにだぞ!? 胸は確かにあんまり無いが、そこがすごくいいんだ! 育ちかけとかそう言うのがっ!!」
「くっ、この変態野郎!!!!」
「貴様も同じマイノリティだろう!!!」
アッシュと俺の剣が再びぶつかり、再び衝撃波が発生する。
だが、全てをあきらめ、ただ戦いだけを楽しみと生き、最後は魔王を倒せなくても倒せてもいいから戦いの中で死のうと決心していた俺に、一筋の、いや全てを照らす光が訪れたのだ。
それが、シーラだ。
彼女の姿を見た瞬間、世界が変わった。
俺はたぶん彼女に巡り会うために異世界にやってきたのだ。今までの全ての苦痛はただ彼女と出会うための代価であったに過ぎない。そう考えればすさまじく安い代価に思えた。
その時初めて、異世界に来たことを心から感謝したのだ。
そして、気が付けばその少女を守るように剣を構えて、元仲間だった奴らと対峙していた。で、今に至る。
ちなみに、魔王城の魔物たちは俺たち元勇者パーティーが殲滅していたので、もうほとんど残っていない。史上最強のパーティーと言われただけあって、だいぶ楽勝だった。最後に残った配下も、さっきの衝撃で塵になったし。魔王は俺を恐れてさっさと逃げていた。残っているのは、囮としておいて行かれたシーラだけだ。
だから、俺が彼女を守らないと、彼女が魔王として殺されてしまう。
俺の生きる意味が。初恋が。
「安心しろ、シーラ。すぐ終わる。俺はあいつらを束にして三倍にしたより強いからな」
「……て、え? あっ?」
大きな目を白黒させているシーラ。まあ、無理もないかもしれない。いきなり父親に魔王の座を譲られ、すさまじく強い勇者一行の前においていかれ、絶体絶命の恐怖に半泣きになっていたところで、勇者が裏切り彼女の方に付いたのだ。
誰もこんな状況になるとは予想出来なかっただろう。俺もびっくりだ。ああ、でも、よく考えたら彼女もお姫様だな。魔族のだけど。見た目は人間と変わらない、それも、すさまじいまでの美少女だ。彼女と同じ空気を吸っているだけで幸せな気分になる。
「行くぞアッシュ!」
「くぅ、くそっ! 貴様だけは許せねえ!」
俺は阿修羅のごとき連撃で、パーティー最強の剣士を追い込んでいく。
だがさすが、千年に一度の剣士、ドラゴンですら三秒でミンチにするような俺の連撃に、ぎりぎりではあるが、付いてきている。このままでは、やばい。向こうには三人目の勇者と言われるジェットも、一流の神官であるフェリスも付いているのだ。こいつに手間取っている間に、シーラがやられては意味がない。
「アッシュ、お前、姫様に惚れてるんだな?」
「な、何ふざけたこと言ってやがる……っ!?」
俺の揺さぶりに、動揺するアッシュ。
後方の二人は今はまだ傍観に徹しているので(気のせいかちょっとあきれた顔をしている)、今の内にアッシュを丸め込んでしまえ。逆に力押ししてアッシュが負けそうになると、後ろの二人が参戦してくる危険がある。
……。ああ、なんか、魔王の苦労が少し分かったような気がする。普通に考えて、一対多数は卑怯だ。
「お前は強い。もし俺がいなければ、おそらくお前が勇者になっていただろう。そしたら、おそらく姫様の許嫁はお前だったろうな……。だが、それは今からでも遅くないんじゃないか?」
「なに……っ!?」
目に見えて動きが鈍くなっていくアッシュ。もう少し隙が出来たら一撃くらい入れられそうだが、あいつも天才だから、なかなか簡単にはいかない。もう少し揺さぶるか。
「ほら、俺が魔王に付けば、俺は勇者を解任だ。だとすれば新しい勇者が必要だろう? そうすれば、俺に対抗できるような勇者は、お前しかいないから、必然的に(王の陰謀で)勇者の許嫁だと決められていた姫様はお前の許嫁になる。俺を見逃せ、アッシュ」
「……くっ」
どちらかと言えば正義感が強いアッシュも俺の揺さぶりに大いに揺れていた。まあ、当たり前だ。俺だって愛の前では即座に仲間を裏切った。正義ごときが愛に勝てるわけがない。
「冷静に考えてみろ。お前らが必死になったところで俺に勝てる確率は百に一つくらいしかない。……お前は勢いで動くようで、必要な局面では冷静に判断できるはずだ。ここは、裏切った俺をお前が倒したと言うことにして、帰れ。俺はもう表の世界に出てこないから。お前は新しい勇者として、逃げた前魔王を追えばいい」
「……くぅっ」
冷や汗を垂らすアッシュ。さすがに俺の力で数千発も打ち込まれればそろそろ限界が来る頃か。ジェットと連携してこられれば少しきつくなるが、それでも最終的に俺が勝てる確率は九割以上だ。だが負ける確率は一割だって許せはしない。
「今こそは、自分に正直になるときだ。アッシュ!! 己の取るにたらんプライドなど捨てて、姫様のために生きろ!」
「……がく」
なんか、葛藤があったのだろうか。
急に、項垂れるアッシュ。……勝った。
さて、次は。
「ま、まってよ、勇者っ!」
神官、フェリス。
見た目だけなら、どこかの高貴な貴族の女子と言ったところか。長い金髪に、白い肌、清楚な印象を受ける美女……? だ。まあ、そう言うことにしておこう。
フェリスは、灰になったアッシュを押しのけ、俺の前に来るとうるうるさせた青い目でこちらを見てきた。
「わ、私、勇者が好きだったのっ。何処にも行かないでっ!」
「……悪いが。俺は男に興味はない」
にべもなく断る。
だから嫌だったんだ、人生が。見た目だけなら美女なフェリスも、中身は、と言うか、普通に男だ。何でうちのパーティーは、変態ばかりなのか。熟女趣味にオカマにロリコン。あり得ない。ああ、最後のは俺か。
目の端に涙を湛えながらうつむくフェリス。ショックでもう動けないらしい。が、男がそんな顔しても同情心のかけらもわかん。
「〜〜〜〜!!」
が、俺の台詞に、なぜか後方に控えていたジェットが、驚愕して目を見開いている。
あ。知らなかったのか、こいつ。
「ななななな、そ、それはどういうことですかっ!? 勇者っ! フェリスさんっ!」
「どういうことって、まんま、その通りだ。その驚き方を見ると、知らなかったようだな、ジェット。俺はてっきり男だと分かっていて見た目にたぶらかされていると思ってたんだが……」
「えっ、もしかして、ジェットも私のこと……?」
「ええええぇぇええええ!!?」
普段冷静沈着なパーティーの頭脳が、大絶叫している。
まあ、確かに、好きな相手が実は男だと分かったら、かなりショックかもしれん。ついでだからこの辺りを揺さぶってジェットを落とすか。ちなみに、ジェットがフェリスのことを意識しているのはさりげに気づいていた。
魔王をマントの中に隠しながらジェットの側まで近寄る。
「ジェット、今がチャンスだ。フェリスを慰めてやれ。フェリスはお前にも好意を抱いていたから、今慰めてやれば落ちるかもしれん」
「え、ど、どういうことですかっ? そ、それに、フェリスさんが男だって……」
「お前の気持ちはその程度だったのか! ジェット!! 性別の壁なんて愛の前ではたいしたことはない! 今こそ自分に正直になるときだ!!!」
「ええ!!!?」
何だか知らんが、勢いで押す。
そんなこんなで、混乱しているジェットと、ショックで落ち込んでいるフェリス、自分に負けて真っ白になっているアッシュをおいて、急いで謁見の間を出る。何というか、どさくさだ。どさくさに紛れて逃げるつもりだ。
「それでは、さらばだ! 昔の仲間たちよ! お前たちのことは忘れない、幸せにな!」
俺はマントを翻すと、中の魔王の華奢な腰を持って、神速で退却した。
こうして俺の最終決戦は幕を閉じた。
なんというか……。とりあえず謝ってしまえ。ごめんなさい。orz
ファンタジーをまじめに書いてらっしゃる人に申し訳ない……。
皆さんのすばらしい作品を見ているとどうしても、何か書きたくなったのですが、残念ながら私には文才も天才もないので、勢いとノリでやっちゃいました。
もしこんな文章ですら読んでくださった心優しい方がいらっしゃいましたら、心から感謝いたします。ありがとうございました。感激です。