夏前の湿気
虫の音が聞こえ
草むらを描く
布団の上で
目を閉じて
見えてきた
透明で小さな視線は
六本足を運んで
ぞろ目を望む
羽根の振動
月夜に鳴るなら
新月で
闇夜に鳴るなら
満月で
望み震える
夏前の湿気
水田の蛙は
受話器を持って
昨日も明日も
喋り焦がれる
背中の丸み
人と変わらず
小さな視線は
見間違える
喉の振動
深夜に鳴るなら
星が見え
早朝に鳴るなら
顔が見え
望み震える
夏前の湿気
冷たい気温は
膜で包んで
響く音には
腹を突き出す
妖艶なのは
安心しているから
無防備に寝て
酸素を出し入れ
心の振動
柔和に鳴るなら
悪戯で
強固に鳴るなら
服従で
望み震える
夏前の湿気