少年達の始まり
県道をガソリントラックが走っている。トラックの車体は真っ白で何も書かれていない。朝日のマークが無いことから政府管理のトラックではない事が分かる。
「おい、なんでこんな田舎道にトラックなんてもんが走っているんだ? 国の管理なら分からないでもないが、真っ白なトラックなんて胡散臭すぎるぞ」
「というかそもそもどこから来たんだ。この辺りに住居シェルターなんてないのに」
「そんなのどうてもいいから離れようよー。絶対に変なことに巻き込まれるのがオチなんだからさ」
少年の三人組は遠くからトラックを見ながら自分の足で並走している。並走なんてことが出来るのはトラックが遅いのではく、少年達の足が速すぎるのだ。高速回転するような走りではなく、それは四足歩行で狩りをする肉食の動物のように跳躍するように走り、トラックを追いかけていた。
肉食の動物が獲物を追いかけるように少年達はトラックを追いかけ続けていた。それを背の一番小さな少年は止めようと二人に声を掛けるが、その声は無視されていた。
やがて一番小さな少年の言う通りの出来事が起ころうとしていた。真っ白のトラックが停止したのだ。それはトラックの人間が少年達に気付き、敵対行動を取ろうとしていることが分かった。
トラックからは宇宙服のような格好をした大人が二人、運転席と助手席から現れ、荷台からは一人現れた。全員が宇宙服のような格好を身に着け、ライフルのような武器を少年達に向けて構えていた。
「亜人のガキが三人。気を付けろ、元は人間かもしれんが、猿と変わらん!」
戦闘態勢を見せる大人達に対して、亜人と呼ばれた少年達も散会し狙いを付けにくいように立ち回る。
「お、俺。亜人と対峙するの初めてで怖いんですけど」
「怖気づくな。所詮は早いだけの猿だ。当てればどうということはない」
「そんなこと言わても、早過ぎて当てられる気がしないんですけど」
運転席の大人は少年達に銃を向けるが、向けた途端には別の場所へ移動するため、パニック陥っていた。
「そんな重い服を着てるようなお前達に当てられるようなノロマじゃないんでね」
亜人の少年はトラックから現れた大人達とは対照的にパーカーやジャージといった、運動しやすい軽装をしていた。
「猿共の分際で!」
痺れを切らした大人の一人が発砲を開始し始めた。しかし、亜人の少年達は銃口向けられた直ぐそばから移動をするので、このまま弾が切れるまで打ち続けても掠りもしないだろう。
大人をおちょくるように周囲をグルグルと飛び回りながら弾が切れるのを待ち、弾が切れた途端に三人の少年達は一斉に大人達の懐に入り込み腹へ拳を突き立てた。少年達の一撃を受けた大人達はヘルメットの中で白目をむいて気絶した。
「あー、こうなると思ったから近付きたくなかったんだよ」
「そうは言うけどな、友介。県道をトラックが走るなんて変だし、政府のマークも無い。流石に何かあるって思うだろう?」
「思うよ! 思うから嫌なんだよ。あー、もう。どうすんのコレ。明らかに政府の連中じゃん。堅司もいるのに何してんのさ!」
短髪で背の一番小さな少年、友介は自分達が気絶させた大人達を見ながら憤慨していた。
「まあ落ち着け、友介。この辺りに政府が介入していると俺達の生活に危険が及ぶ可能性がある。俺はその調査をするつもりだったが向こうから仕掛けて来たんだから仕方ないだろう。まあ一誠は好奇心だろうが」
肩にかかるくらいの長さの髪をした三人で最も背の高い少年、堅司は友介をなだめるようにして弁解していた。
「何カッコつけてんだよ。調査とか言って面白そうだなって思ったんだろう?」
長い髪を一本に束ね、ポニーテールにしている三人の中で中間の背の高さである少年、一誠が堅司を煽る。
「もー、調査でも好奇心でも何でも良いからとっとと離れようよ! 政府の人間なのに政府のマークを付けてないってヤバい雰囲気しかしないんだけど。そんなのに関わりたくない!」
「確かにそこが気になるんだよ。となると積荷はなんだろうな」
「この辺りには住居用のシェルターも無いし、積荷は食料ではないだろう。食料なら生産シェルターから住居シェルターを結ぶ国道を使うはずだ」
早く離れようと怒る友介を無視して一誠と堅司はトラックの荷台の扉を開ける。
「女の子? しかも亜人?」
「間違いない。俺達と同じ銀髪ということは亜人だ」
三人とも背丈も髪型もバラバラだが、共通しているのは全員が銀髪だということだ。それが亜人である何よりの証拠であった。
「政府の連中が亜人を捕まえて運んでいた? なんだ、人体実験にでも使うつもりだったのか?」
「それなら政府にマークをトラックに記載出来ない理由も納得がいく」
一誠と堅司が亜人の少女を見ながらあれこれ考えているのを見て、友介は声を荒げた。
「亜人の女の子がどうとか、政府がどうとかいいから! さっさと逃げないと更に面倒なことになるかもしれないよ!」
「ああ、分かった分かった。おい、君、大丈夫?」
流石に無視し切れない程友介が怒り出しそうだったので、一誠は慌てて少女の肩を揺らす。小さな声を漏らしながら目をゆっくりと開ける。だが、直ぐに目を閉じて眠ってしまった。
その少女の真っ黒の瞳を一誠と堅司は確かに確認し、堅司は驚いていたが一誠は何語ことなく少女をおんぶして荷台から降りようとしていた。
「おい、待て一誠」
降りようとする一誠を堅司は呼び止める。
「その子をどうするつもりだ?」
「どうするって逃がしてあげないと。このまま政府に連れて行かれたら何されるか分かったもんじゃないぞ。見知らぬ子とはいえ、俺達亜人同士は仲間みたいなもんじゃないか」
その言葉を聞いた堅司は眉間に皺を寄せながら一誠のそばへと歩み寄る。そして自分の目を指さしながら一誠に詰め寄った。
「おい、俺達亜人の目は何色だ?」
「灰色、グレー、銀色? まあ髪と同じ色だな」
「俺達亜人の目が灰色なのは何でだ?」
「なんだよ、うるさいな。汚染された空気に当たり続けたからだろ?」
何をいまさらそんなことを聞くんだ、と一誠はとぼけた。
「そうだな。汚染された外気によって目の色が変色する。つまり清浄化された空気のシェルターで生活している大人やこの政府の人間の目の色は元々の黒ってことだな」
「あ、ああ。そうだよ。だからそれが何だって言うんだよ」
「じゃあ、もう一つ聞くが俺達亜人の髪の色がグレーなのはなんでだ?」
「汚染された空気で育つ動植物を摂取すると変わる。これでいいか?」
そうだ、と頷く堅司。腕を組み、指をトントンと叩きながら質問を重ねる。
「ちゃんと分かっているな。それならもう一度、聞くぞ。その子をどうするつもりだ?」
「だからさっきも言っただろう? 亜人同士仲間みたいなもんだし」
「お前も見ただろう! この子、髪はグレーだが目は黒だった」
「あー、綺麗な空気なところがまだ、シェルター外にもあったんだなあー」
「お前、わざと気付いてないフリしてるだろ! ぶっとばすぞ」
「分かった、分かったよ! この子は人体実験に使われる為に捕まったんじゃなくて、そもそも人体実験に使われていた子。これでいいだろう?」
「なんでそこまで分かって連れ出そうとするんだ。トラックから分かる通り、国が極秘裏に人体実験なんてしていたっていう証拠を持ち出すなんて危険なんてレベルじゃない。こんな警備兵じゃなく、軍が俺達の命を狙うかもしれない」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟なものか。国はシェルター外に出る事を禁止している。それは俺達のように亜人化することによる健康被害を懸念しているからだ。人命第一をうたっている国が、人体実験をしているなんて知れたら現政府転覆が起きるぞ。この子の存在はそのレベルで危険な証拠になり得る」
「それでも、このままコイツらに渡すなんて駄目だろう。可哀想だ」
「一誠の気持ちも分かるが、現実的に考えろ。俺達みたいな少人数が関わっていい案件じゃない。少なくとも国道を襲撃しているギルドくらいの規模じゃないと無理だ」
「嫌だ! 俺はこの子を助けるからな」
話しは終わりだと言わんばかりに一誠はトラックの荷台から飛び降りた。
「付き合いきれんぞ……」
堅司も溜息を吐きながら荷台から降りる。その二人を待っていたのは顔を真っ赤にした友介だった。