幼年期(3歳)イリア
「イリア~。起きて~。朝だよ~。」
母の、少し間延びした心地よい声色で、今日も1日が始まる。
「おはよ。お父さんは?」
「今日はもう出かけたよ~。イリアにいってらっしゃい言って欲しくて、ついさっきまで待ってたんだけどね~。」
「起こして。イリアもお父さんにいってらっしゃいしたかった。」
「ふふっ。じゃあ自分で早起き出来るようにならないとね~。」
「‥頑張るけど‥‥起こしていいのに‥‥」
「ん~。起こしたいけど起こしたくない?イリアもお母さんになったらわかるかな~」
「‥‥お父さんと結婚したらわかる?」
「‥‥お父さんはお母さんのだからダメ~。イリアはアルくんと結婚するんでしょ~。」
「お父さんイリアと結婚してくれるって言ってた。」
「あらあら。じゃあ、お父さんが帰ってきたら、お母さんとイリアどっちがいいの?って聞いてみよっか。」
「お父さんは両方って言ってたよ。イリアもお母さんも俺のだって。」
「そうなの?お父さんは欲張りさんね~。」
「欲張りさん~」
「お父さんと夜お話しするのが楽しみだね~。さて、そろそろ顔洗って朝ご飯食べよっか。アルくんが迎えきちゃう。」
「は~い」
私はイリア。年齢は3歳。父カイと母イリスの長女。
三人家族だ。
黒髪のサイドテール。頭の両サイドに、後ろ向きに伸びる角が2本。そう。角が2本だ。タケノコのような尖った角ではなく、龍のようなカクカクした(?)短い角。父も母も、近所のみんなも同じように角が生えてるので、そういう種族の集落なのだろう。
私には、僕の記憶があった。
違う世界で。男で。70年近く生きた記憶。
記憶があるだけで、私は私だ。僕ではない。
研究員の仲間達との記憶を思い出すと、楽しくなったり、涙が出たりする。
記憶を辿るのは、お母さんに絵本を読んでもらう感じに似ている。
記憶と知識があるから、私は子供らしくないはずだ。
子供らしくない子供は気持ち悪いという知識があるから、私は子供らしく振る舞う。
と言っても、「僕」には子供がいなかったし、集落に子供は私とアルくんしかいない。
探り探りだけど、お父さんとお母さんに嫌われないように頑張ろう。
アルくんにも。




