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転移研究者はあきらめない  作者: 雛川sai
2/6

研究所閉鎖

「それでは失礼します。またいつか・・・。」

「ありがとう。気を付けて帰るんだよ。」


最後まで名残惜しんだ研究員を送り出し、

僕はあらためて研究所を見渡した。


空っぽになった棚。

片付けられた机。

少しくすんだホワイトボードには、何も書かれていないし、何も貼られていない。


閑散とした部屋内は、こんなに広かったのかと少し驚いた。


僕が仲間と共に夢を追いかけた研究所はあと9時間で閉鎖になる。

「転移科学研究所」が30年の歴史に幕を閉じることになったのは、

ここ数年、目新しい成果が出せない事と、所長である僕が、まもなく70歳をむかえる高齢となったことが原因だ。


「転移科学研究所」は、

物体や生物を、距離や時間の影響を最小限にして、移動させる理論や、技術を研究する研究所だ。


30年に渡った研究の成果は、残念ながら「転移」の成功には至らなかった。

「空間」に「歪み」を発生させ、「歪み」に「物質」を通過させると、「物質」が消失する。


そこまでは実現できたのだが、

消失した「物質」がどこに移動したかまったく観測できなかった。

また、最大でも、2m×2m程度の「歪み」しか作ることが出来ず、

その「歪み」を作るために小国の国家予算並みのコストがかかる。

嫌味な同業者からは、「超高級ゴミ箱」と言われている。


そのような状態で、ここ5年あまり足踏みが続いている。

「転移」研究の過程で作ることが出来た、「超大容量電力保管技術」や

理論は未だ解明できないが、おそらく「重力場」を発生させている装置のおかげで何とか研究を継続させてもらっていたが・・・。


ここまでやらせてもらった事に感謝できる位には、閉鎖に納得できている。

僕以外の研究者について、再就職先まで全て斡旋してもらっている。


ただ僕は、研究が終わり、夢をあきらめることには納得することができなかった。


「歪み」に消えた「物質」はまったく観測できなかった。

「分解」や「融合」の可能性もない。この座標から消えたのだ。

「転移」した可能性は高い。


僕に家族はいない。研究所は閉鎖で明日に残した約束も無い。

僕がいなくなっても・・・。

いや、僕がいなくなったら、仲間には多少迷惑がかかるか・・・。


そんなことを考えながら、僕は、僕の為に、僕達が作った

「転移装置」を起動させ、「歪み」に足を進めた。




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