76・師匠。
客が来た。異世界から。
ケンジじゃなかった。ケンジの師匠殿だった。怪しげなお供付きだったが。
「ケンジだけじゃあなく他の弟子たちまでいろいろお世話になったとか。
ありがとうございました。
オカゲで見つかってホッとしております」
あー、仲間の連中にも言ったんだが世話になったのはむしろコッチだった。
礼は要らないよ。むしろコッチが言いたいくらいだよ。
「実はアリィ君にいささか用事があってきました。
例の男の残したものの調査もあるんですが多分たいしたものは残って無いでしょう。
主目的はアリィ君なんです」
ギリィ様に連絡を入れてアリィと引き合わせた。
驚いたね。邪龍を縫い留めてた剣なんて代物を目にするなんて……
ヤバイ代物だってコトはギルにすら分かったようだ。
鞘に入ってる限りじゃあ分からないんだがな。
「君の前世の仲間たちから届けてほしいと頼まれてね。
コレで縫い留められてたんで邪龍の退治は比較的楽だったよ。
お礼も言いたかったんだ。
邪龍の魔力に曝されてたせいで変質しちゃってたからウチの神官職たちを動員して
マトモに使えるように調整させてもらったよ。
まあ、鞘はサービスだけどね」
「仲間達が無事だったのは神様に教えていただきました。
邪龍の始末もありがとうございました。
でも、イイんですかね? 邪龍にゆかりの品なんか持ち込んで」
「ちゃんと許可は取りましたよ。
所有者が君であることが条件でしたけどね」
そんなアブナイ代物を使わないとアカン事態は起きてほしくないがな。
アリィは受け取って礼を言うとアイテムボックスに放り込んだ。
体がもう少し成長するまで使うのは無理だろう。
武器を使うのはまだ無理だがアリィの魔力は上がってきている。
魔法だけでも勇者の仕事ができちゃいそうだもんな。
師匠殿のお供の怪しげな男は空飛ぶ絨毯の製作者だった。
「アレを気に入ってくれたそうだから分けてやろうと思ってな。
ケンジの持ってたやつは浮いても飛ばせなかったそうだから飛ばせるヤツを
持ってきたんだ。
少しばかり小さめになっちまってるんだが」
アリィは瞬間移動の魔法が使えるが一度行ったコトのある場所か探知の魔法で
知り合いだと認識した者のそばにしか行けない。
最近はできる回数が増えてきたようだ。
空飛ぶ絨毯で行ったコトのある場所が増えればアリィの行けるところは増える。
ヒヒヒ、おだててオレ達の移動にも使わせてもらおうかな。
怪しいお供な中年オヤジはどうやらアリィが気に入ったらしい。
用途も使い方もよく分からない変な魔道具を山ほど譲っていた。
ケンジは『偏屈オヤジ』なんて言ってたけど偏屈でも結構面白そうなヤツだよな。
アリィが帰ってから師匠殿にケンジの子供のことを教えた。
多分ケンジは最後の夜のロゼとのことを覚えてないと思う。
帰った日の朝も何も不自然なところは無かったし。
まだ未成年だとも言ってたから子供ができたなんてのは重荷だろう。
オイソレと異世界に転移ができるハズも無い。
コノ師匠殿は神さま達にも『特別』な存在なんだろうと思う。
禁止事項なんじゃないかと思えることでも許可なんか取ってるもんな。
師匠殿は難しい顔をした。
「ケンジ君に内密という訳にもいきませんね。
彼や周りの者たちとも相談してみることにします。
相手の方のことをご存じですか?」
世間的にはオレの妻ということにしてあること。
養育費はケンジが置いていった金で足りること。
ケンジに迷惑はかけたくないと本人が言ってること……などなど。
まあ、伝えられることはほとんど伝えることにした。
「彼がココにまた来ることの許可が下りるかどうかは分かりません。
下りたとしてもソレまで時間がかかるかもしれません。
ソレまで彼女と子供のフォローをお願いできますか?」
妻ってことで引き受けてるからその辺は心配はいらない。
ケンジに心配も負担も迷惑もかけたくないって言ってるからなぁ。
都合が悪かったらケンジには知らせなくてもイイよ。
子供をタテに何か要求したいって訳でもないしな。
師匠殿はコッチの事情を納得して帰っていった。
結局ケンジが来られたのは子供が産まれてからだった。
オレ子供扱いになってたんだがな。




