56・ベビーキャリー。
あれから一週間、公爵家で訓練三昧だ。
ツルッパゲ野郎は公爵家の私兵たちと同じメニューをなんとかこなしてる。
自分で言ってたほどヨワヨワなヤツでもなさそうだよな。
ちなみにヤツの名前はギルバートだそうだ。
アリィは長いと思ったのかギルと呼んでいる。
勇者の奥さんは魔法剣士だそうで模擬戦してくれるけど強いね。
魔法をほとんど無詠唱で発動させてるから並の魔法使いじゃ敵わないと思う。
剣だけならオレでもなんとか相手になれるけど魔法まで来たらお手上げだぁね。
サスガに勇者のパーティに居ただけのことはある。
「キティさんスゴイですね。
剣と魔法の攻撃がスムーズに連動してるんでみとれますよ。
オレは魔法より剣や槍の方が好きなんでついついソッチばっかりやっちゃうけど
魔法ももう少しやっといたほうがいいかなぁ。」
キティぇ……子猫ちゃんって感じじゃあねぇな。
虎とか豹みたいなイメージが浮かんじまうね。
でも、ケンジのヤツ……これ以上鍛えてどうすんだ?
今だって人外に見えてきてるのに……脳筋勇者になっちまったら困るんだが。
そんなある日、ギルドから使いが来た。
せっかく勇者が王都に居るからとギルマスが依頼を探してくれたらしい。
馬車で一週間ほど行った所の貴族の領地に正体不明な魔物が出没していると言う。
領主の貴族が私兵を使って退治しようとしたようなのだが被害甚大で退却。
結局王都に救援を依頼したんだけど王都は新王の即位の礼で大忙しだから
暫く待てと言われたそうだ。
「昔の知り合いなんで相談されたんだよ。
退治までいかなくても被害を食い止めてくれるだけでもイイって話なんだ。
王の即位が済めば軍隊を廻してもらえるそうだからな。」
「ちょっと軍を廻してやるくらい簡単だろうに……
今は周りの国ともめてもいないし魔王軍も気配も見せないからな。
やっぱりアレかね?、、即位の礼を見たいし参加したいってエライさん方が
思っちゃってるってコトかね?。」
「まあ、そんなところだろう。
その領主だって王都に来ちゃっててちゃっかり即位見物してこうとしてるんだ。
それほどの身分じゃないから正式な謁見を受けられる順番が来るのは遙か先に
なりそうなのにな。
領民が困ってるのも分かっちゃいるようなんだけど。
久々の大イベントだから浮かれ気分に当てられてもしょうが無いよ」
ロイヤルイベントってトコか。
確かに王都がいつもより浮かれ気分な雰囲気だね。
来週あたりに正式な即位式が行われると発表になってたからな。
オレなんか街の警備兵だったから何があっても浮かれてなんか居られなかった。
浮かれた連中を捌くのが仕事だったからな。
「絨毯で飛んでいけば一週間なんてかからずに往復できますよ。
正体不明ってのが気になりますから受けてほしいんですけど」
まあ、反対するヤツはいなかった。
ところが付いて来たがったヤツがいたんだよ。そう! アリィだ。
歩けもしないくせに……
ベルやロゼに抱っこしてもらってないと動けないくせに……
転移はできるんだけどな。
ケンジはアイテムボックスから金属パイプとか帆布っぽい代物とか引きずり出して
何か造っていた。
どうやら背負子みたいだったんだが……
「ベビーキャリーですよ。
子供をベルトで背中や前に括り付けたりますけどコレはバッグのように
背負います。
パイプを組んであるんで下ろせばこのまま椅子ですね。」
お前……なんでガキのことに詳しいんだよ。
子供どころか恋人も居ないのに。
「あー、ダチにちっちゃい弟と妹が居るヤツがいたみたいで……
親が居ないヤツなんでその子守なんか手伝わされてたようなんですよ。
でもソイツの名前が出てこないんですよねぇ。
なぜか皆名前が分かんないんです。
いい加減一人くらい名前が出てきてほしいんですけど」
最近はいろんなコトを思い出してるようなのに肝心な名前がまだなのか。
自分の名前は結構早くに思い出せてたのにな。
結局ベビーキャリーはハゲのギルの担当になった。
何でもするって言ってたし荷物持ちでイイって言ってたからな。
アリィは普通のガキじゃないからホントは世話係なんか要らないんだが。
下の世話も必要無い赤ん坊って変すぎるけど。
ブツはどうも転移で何処かにポイしてるようだ。
ちゃんとトイレなんだろうな?
オシメもしてるが昼寝の時のオネショ対策みたいだね。
起きてるときはともかく寝てると体のコントロールが効かないらしい。
まあ漏れてもクリーンの魔法を使ってるようだがな。
『どうもココの世界でも勇者をやることになりそうだから見学させてもらうね。
脳筋さんは強そうだしケンジ兄ちゃんの実戦も見たいんだよ。
ギルさん、オレ重いけどよろしくお願いしまーす』
なんだかギルの笑顔が引きつってる気がしたのはオレだけじゃあないようだった。
諦めろ! ギル。
コイツラは端っから人外・規格外なんだ。
そういうヤツラなんだ……諦めろ!




