55・嫁。
ベルは笑っていた。
「どうもアナタにプレッシャーを掛けたいみたいね、親御さん達は。
しばらくそういうことにしときましょうよ。
私たちにナニカ有ったってのはしっかり察しちゃったみたいだし。
あ! 別に結婚して欲しいなんて思ってないから安心していいわよ。
アレってお仕事だったんだしね」
な、なんかそう言われると微妙な気分だなぁ。
まあ、恋人だったヤツに騙されて売られた上に性病まで移されてヤケに
なってたからなぁ。
笑顔が出るくらいには気持ちが立ち直ったんだな。
恋人のフリをしてやるくらいは安いものかも。
次にアリィが今度はロゼと来たら二人目の嫁さんなのか? と本気とも冗談とも
付かない目つきで親父に問い詰められた。
オレは貴族でも王族でもねぇし大金持ちでもないんだから嫁は一人居れば十分だ。
でも兵士もクビになっちまうようなヤツの所になんか来る嫁って居るのかねぇ。
ベル……アレってそういうのはホントはお断りって言ってるんだろうなぁ。
そう思ってたら今度来たのは本物の嫁だった!
あー、オレの嫁じゃあなかったけど。
美人で亭主にベタ惚れな嫁……脳筋勇者の嫁さんだったんだよ。
「兄(首輪の魔術師)からココに居るって聞いてきたのよ。
亭主が迷惑かけてるんでしょ?
なかなか実家に戻って来ないからどうしたのかと思ってたのよ。
こーんな所で彼女と子供までつくってたなんて知らなかったわぁ(笑。)」
ちょっ、ちょっと奥さんソレ(ベル)は違うんです!
ソレはオレの嫁で勇者の彼女じゃないんですよー!
美人のコワイ笑顔って初めて見たよ。
怒った顔の美人ってのは何度か見たことあるんだけど……
アリィは爆笑してやがった。
脳筋勇者はオタオタと説明してるけど下手な言い訳にしか聞こえない。
まあ、かみさんをほっぽって遊び回ってたようなもんだしなぁ。
お仕置きされても文句を言えるわけも無いやね。
結局、嫁さんは勇者と一緒にオレんちの宿屋に泊まってる。
まったくもっとイイ宿に泊めなくてイイのかねぇ?
ウチの実家って中の下と言ってイイくらいのボロい宿なんだけど。
そう思ってたら日に日に宿がキレイになっていった。
ケンジがクリーンの魔法を使ってたんだ。
ベルは目ざとくソレに気が付いたようで魔法を習わせてほしいと頼んでいた。
「メイドのお仕事に使えるわよね。
ロゼにも教えてほしいんだけど……いいかしら?」
なるほど、クリーンなら別に戦闘に使うわけじゃあないから失敗しても
危険は少ないかもな。
彼女たちが習ってるのを見て自分達でもできそうだと思ったようで両親やら
勇者の嫁さんやら果てはツルッパゲ野郎まで一緒に習ってた。
確かに宿屋には便利な魔法だよな。
攻撃魔法よりは少ない魔力でできちゃうし。
クリーンの魔法はメイドな彼女たちが使ってるところをギリィ様に見られた。
なのでお屋敷や別荘の他の召使いたちにもケンジは伝授することになった。
まあ便利だもんね。
召使いたちのネットワークを伝って王都で徐々に広まってきてるんだそうだ。
ちゃんとイメージと集中ができれば効果の大小はあるけどほとんどの人が
できたらしい。
魔法ができるのは特別なヤツラだけだったんだけどなぁ。




