オレとツレの格差問題
「ずるい」
向かい合って、オレは膝立ちの姿勢で奴の顔を眺めてたら、本音がぽろっと口に出た。
「なんかさー、お前ってずるい」
「いや、そう言われてもな」
唐突過ぎるオレの言葉に、ツレがおきれいな顔で苦笑する。
うむ、今日もそんな表情しようが問答無用でイケメンですね。何なのコイツ。
何かあったのか、とか心広い言葉をほざくツレを眺め、オレは指折り数えてみる。
「背高いじゃん? 足長いじゃん? 顔良いじゃん? んでもって、器用だし、頭良いし、何でも作れちゃうし、料理もできるし、性格実は結構良いし」
「実は、って」
「ちょっと意地悪いけどさ、良い奴じゃん、お前」
「お、おお……ありがとう?」
「何なの」
「は?」
「お前、少女漫画のヒーローなの? や、少女漫画のヒーローはもっとめんどくさい奴多いけど」
「お前、本当にああいうの苦手なんだな」
「履歴書に自分のプラスポイント書くのに、山ほどありすぎて困ります、ってか?」
「そんなことは考えたこともねぇよ」
「ずるい」
「そう言われてもな……」
「顔とか、そういうのもお前が努力した結果だってわかってるけど、ずるい」
「どう、ずるいんだ?」
「だって、惚れるしかないじゃん」
ブッ、とツレが噴出した。
顔にかかったので、拳でどついておいた。
「お、お前、な……」
「なんか、オレばっかお前の事好きみたいで腹立つんですけど」
「あのな、そんな訳ないだろう」
俺がどれだけお前の事好きなのか、知ってるだろ、とかツレがほざく。
うん、まあ、それは聞いてますけど、
「……まだ偶に、お前がオレのことひっかけてるんじゃないかって気がする」
「まだ?!」
「偶に」
「いや、いい加減信じてくれよ。泣くぞ」
そんなこと言われてもなー。だって、こちとら好かれる理由がこれっぽっちも見当たらんのだもん。
オレはよっこいせ、とツレの足の上に腰を下ろす。
座ってても身長差のせいで、顔を見上げると首が痛い。
「あのさ」
「何だよ……信じてくれたのか?」
「好き」
おお、ツレが赤くなった。何コイツ、こんなんで顔色変わるとか大丈夫か?
「お、俺も……愛しているぞ」
「オレは惚れてますけど、なんか文句ある?」
「あるわけないだろ」
「ケッ、こんな貧弱もやしに惚れられてるとか鼻で笑うぜプークスクス、とかならんの?」
「むしろ、嬉しすぎてどうにかなりそうだ」
「……お前ってさ、絶対趣味可笑しいよな」
「冷たい反応ですね、奥さん」
「温かいところにも惚れてますよ、旦那さん」
「ぐっ」
何やら顔を覆ってしまいましたね、旦那さん。
耳が赤いですぜ旦那さん。
いや、まあ、あんまりそっちのことばっか言えませんけど。たまにはまあ、考えてること素直に伝えてみようかと思って話してるけど、なんだろう、すげー恥ずかしいんですけど。
ううう、と唸ってると、ツレのでっかい手で顔を挟まれた。
「なあ奧さん、何がそんなに不安なんだ?」
「……そのうち、気が冷めたりとかする気がする。お前の」
「この年齢になるまで、ずっとお前一筋だったのにか?」
「どっかから、お前のこと好きなお嬢さんとか出てくる。絶対いる。てか、今も居る気がする」
「なんだ、妬いたのか」
「妬きますよ。超妬く。オレスゲー嫉妬深くてめんどくさいの、お前知ってんだろ」
「知ってるさ」
でも、焼きもち焼くよりも俺の事を見てくれないか、なんてイケメン台詞を吐くツレ。
見てますとも。てか、物理的に今は顔動かせないし。
「どうやったら、お前浮気しないのかなー」
「信用無いな」
「信用してないのはオレのことですけどね……はー」
「お前のそういう僻みっぽい所、だいぶ良くなったと思ってたんだが、まだあるんだな」
「僻みますよ。僻みますともさ。お前、レベル高すぎ」
たまに見上げてるのが疲れる。
ふはーと溜息を吐いたら手が離れたので、オレはツレの胸にボスッと顔をうずめてみる。
畜生、加齢臭どころかイケメン臭しやがる。
なんなの? お前、無敵なの? 全方位パーフェクトなの? 物理無効なうえに全属性カバーなの?
「オレのー」
「ああ、俺はお前のだよ。お前も俺のだけどな」
「もふー」
「聞いてるか?」
「聞いてませーん」
「聞いてもらわなきゃ困るんだけどな」
心配するな、とかツレが甘ったるい声で囁く。
何を根拠に、とオレは不貞腐れて返事する。
「どこにも、お前みたいな女は居ないからさ」
「オレみたいにヘボいやつは、ってことですか」
「お前みたいに最高の奥さんは、ってことだ」
「そこまで言われる理由がさっぱり分からんのじゃー」
「俺が分かっていればいい話だろ」
「やだやだー」
「……。ああ、くそ、本当に可愛いな」
「……趣味わるっ」
言いながらギュッとか抱き着いてみるオレは、やっぱり性格悪すぎてこいつには釣り合わない気がするけど。
うん、まあ、良いんです。
ごまかしでも、なんでも、今好いてくれてるなら、それで良いのだ。