少年と猫
どれくらいの時間が経っただろう。
オレはふと目を覚ました。
どうやら鍋の中ではないようだ。助かった。
辺りを見回す。
小さいクローゼットと年季の入った書斎机、それとベッドがひとつの簡素な部屋、どうやらどこかの安宿のようだ。オレは部屋の隅に置かれた木箱の中に居た。中に毛布が敷いてあり、横にはミルクの入った皿がある。
そういえば暫く何も食ってない。腹がへっている事に気づき俺はミルクに口を付けた。
う、うまい。
五臓六腑にしみわたる。夢中になってミルクを舐めるとあっというまに皿が空になった。
うまかった。が、物足りない。そんなことを思っているとドアが開き、人が入ってきた。
「お、ネコ。起きたのか、心配したぞ。」
嬉しそうに声をあげるとオレに近付き背を撫でる。人間に触られるのはあまり好きじゃないのだがこいつの手は意外に気持ちがいい。
森で会った時はヘンなのに捕まったと思ったが介抱までしてくれるとは、なかなかいい奴じゃないか。オレは恩人の少年を見上げた。
歳の頃は18.9、髪は黒、身長は低くは無いが細身のせいで小柄に見える。眼鏡をかけていて、知的な感じがしなくもない。
そして、眼鏡の奥にある眼の色は、
綺麗な・・・
琥珀、色。
金色じゃない。
そうだよな。そう簡単に探しモノが見つかるわけもない。
とりあえず今は“金の眼”より腹を満たしたい。
そんな思いを知ってか知らずか“琥珀の眼”が話しかける。
「ミルク空けたんだな。飯も食うか?」
「ニャーン」
オレは一も二も無く誘いに乗った。
部屋を出て階段をおりる少年に付いて行くと食堂へ出た。
ここは1階が食堂、2階が客間というつくりになっている宿のようだ。
フロアいっぱいにうまそうな匂いが広がっている。
彼は壁際のテーブルに付くとウエイトレスに注文を済ませた。
程なく料理が運ばれて来ると少年は料理をオレに分け与えてくれ、オレたちは暫く食事を楽しんでいた。が、突然少年がある事に気づいたように食事を中断する。真剣な表情。
?なんだ?
彼は胸に手を当て辺りを見回す。
何かに追われてるのか?態度の豹変ぶりにオレも緊張してしまう。
様子を伺っているとやたらと胸の辺りを探っている。
ん?
まさか・・・。
「ヤバイ。」
彼のつぶやきでオレの疑念は確信に変わった。
財布、無いんだ。こいつ。
脱力感に襲われるオレをよそ目に辺りを注意深く見回しながら小声で話しかける。
「食べたら走るぞ。ネコ。」
おいおい。食い逃げするつもりか?
ああ、やっぱりヘンなのに捕まったんだ。オレ。
読んでくださってありがとうございました。