見知らぬ天井
ダン…ダンダン…ダン…ダンダン
プポポ…プポポプポプポポポ
テッテレテッテレテ~テ~テ~テ~テテテテテ
パ~パ~パラパ~パラッパッパ~ラッパ~ラパ~ラパッパッパ~♪
「隊長! 魔の時期が近付いて来ました!」
「そうね……夏と年末に行われる、あの忌まわしいセカンドインパクツに注意しなくちゃだわ!」
「今年は……モチヅキが参加するそうです」
「チィッ! 仕方がないわ……総員! 第一種戦闘配置! 直撃に備えて!」
「アレだけは……アレだけは目覚めさせてはいけない! 今年も必ず死守するのよ!」
毎年、私の中で厳戒体制が敷かれている……。
『呑みの席 無礼講とは 名ばかりの 見えぬが感ず おもい重圧』
酒席なんて何処が楽しいんだよ!
気は使うし、金も使う。
ついでにストレスは溜まるしさ……。
ウチで『のりしお』喰ってた方が、よっぽどいいと私は思う。
そもそも、私は酒に弱いんだ。
一度、酔った勢いで無双をやらかしてから、私は酒を断った。
元々呑めないから苦じゃないし、私の蛮行を知る方々からも勧められない。
それほどまでに私の暴挙は壮絶だったらしい。
覚えてないけどさっ!
(@゜∀゜@)えへっ!
そんな脛に傷を持つ私に憂鬱な時期がやって来た。
『暑気払いのお知らせ』
私は暑気より隣の邪気を払いたいよ。
(;´д`)フゥ…。
そんな私の気も知らず、隣の悪魔は呑気に電卓で独特のリズムを刻んでいる。
今日はAKBか……。
どうやらゴキゲンなようだ。(; ̄- ̄)=3
「せんぱい」
電卓のビートを止めて、私の方を見るモチ男。
コッチミンナ!
\(`д´#)/
「何?」
私は見向きもせず、抑揚のない声で返す。
「つまみは何が好きっすか?」
お前の意識はもう『白木屋』に行ってるのか。
「さぁね。私、呑まないから」
私が突き放すように言うと、モチヅキは驚嘆の叫びを上げた。
オマエ、声ガサガサじゃねぇか!ρ(`д´#)/
「何が楽しくて生きてるんすか?」
はぁ?!(´д`)
こんなに広い世の中で、酒以外に楽しみが無いのかオマエは?
「本読んだり、ネットやったり」
「暗っ……せんぱい暗いっすよ。だから、黒縁なんすか?」
オマエ……全世界の黒縁メガネユーザーに謝れ!
\(`д´#)/キーッ!
怒り心頭に発した私は、それきり静寂の陣を敷いてモチヅキを完無視した。
そうだ。相手にしなきゃいいんだよ。
早く気付けよ、私……。
(;´д`)
仕事が終わり、我が社御用達の居酒屋『白木屋』へ行く。
私の足取りは重い……。
予約した席へ通され、私は出口付近の席に座る。
「呑むぞぅ!」
隣のヨシナガさんが嬉々として袖を捲る。
ヨシナガさんは酒豪だからね。
その気になれば、店一軒くらい呑み干すかも知れないな。
「とりあえず全員、生でいいかな?」
「サカモトさん、私はウーロン茶で」
幹事のサカモトさんに挙手で変更をお願いする。
「……そうだったね。1つウーロン茶で」
サカモトさんが店員に注文を通すと、店員は威勢よく返事をして去っていく。
「せんぱい、マジで呑まないんすか?」
向かいのモチヅキがニヤニヤしながら挑発する。
「モチヅキくん、貴方の相手は私がするわよ」
ヨシナガさんが私の盾になるように、身を寄せて視線を遮ってくれた。
姐さんっ!(TдT)
飲み物も届き、乾杯の音頭を空気部長が取る。
部長……居たんだね。
はす向かいに。
「ボソボソボソボソ…」
声張れや!
ρ(`д´#)/
と、言ってもいつものことなので、部長のジョッキが上がる瞬間を逃さぬように、皆の目は部長の手元に集まっていた。
「カンパーイ!」
聴こえた!
ハイジ! クララが喋ったよ!ヽ(´∀`)
空気部長の乾杯を皮切りに宴が始まった。
ヨシナガさんはスタートからアクセル全開で、ガブガブ美味しそうに呑んでいる。
水でもそんなに呑めないよ……。(´д`;)
私がチビリチビリと茶を飲みながら、オードブルをちょこちょこつまんでいると、
「せんぱい、一杯だけでも呑みましょうよ」
焼き鳥をタクトの如く振りながら、モチヅキが再度私を挑発する。
「私は弱いから呑まないの!」
モチヅキの顔もさることながら、食い物を振りながら喋るヤツにかなりイラッとする。
「モチヅキくん、それはセクハラだよ?」
ヨシナガさんがモチ男にやんわり釘を刺す。
それを言うならアルハラだけど、気にしない。
ヨシナガさんに言われ、シュンとなるモチ男。
オマエはシュンとしても可愛くならねぇな。
(`〆´#)外道め……。
開始からしばらく経ち、だいぶ皆が気持ち良さそうになってきた。
ヨシナガさん以外。
何だか私も熱くなってきたな……。
下戸な私は雰囲気で酔える仕様で出来ているのだ。
追加のおつまみも届き、空いた皿を下げたりを私は率先して行う。
私、意外に女子力高いんじゃね?(´∀`)
その隙に乗じてサイトチェックしたり、厠へ行ったりするのが、私の行動パティーンだ。
個室に篭り、大好きな作品を読み返す。
嗚呼、フェイヴァ……可愛いよ……。
(*´∀`*)
軽く妄想の世界に逃避してから、現実に戻る。
私の飲みかけのウーロン茶が新しいものに変わっていた。
残りも僅かだったし、きっとヨシナガさんが気を利かせてくれたのね。
姐さん! ありがとう!
\(´∀`*)
少し喉も渇いてたから、嬉しいよ!
私は一気にウーロン茶を半分飲んだ。
……!?
何かヘンな味する。
顔がみるみる熱くなって……。
「せんぱい、どうしたんすか?」
モチヅキがニヤニヤした赤ら顔を私に向ける。
オマエ、よく見るとキモチワリィ顔してんな。
(`〆´#)あっち行け!
モチ男を無視してポテトをかじる。
オイシクナイ……。
腹から込み上げる嫌悪感……コレは……。
「ヒナちゃん大丈夫? お茶飲みなよ」
女神が私を案じて肩に手を添えてくれた。
私は頷いてウーロン茶を飲む。
やっぱりマジィ。
オェ……。
私は気持ち悪さから、無口になる。
私のせいで宴の雰囲気を壊してはいけない。
背景に溶け込むのだ。
部長みたいに……。
気を消し、魂の脱け殻のように意識を他へ飛ばす。
ボーー(*゜д゜*)ー……
店の喧騒も、皆の会話も遠くなっていく……。
「ヨシナガさんっ!」
突然の怒号に、私の魂が引き戻される。
「何で、からあげにレモンかけちゃうんすか!」
モチヅキが吠える。
「ゴメンね」
申し訳なさそうに、からあげの皿を下ろすヨシナガさん。
その瞬間に、私の中で何かがハジケタ。
\(`д´#)/くわっ!
「ちぃせぇなぁ……オマエは……」
ユラリと立ち上がり、モチ男を見下ろす。
「からあげにはレモンだろうが! ゴルァ!」
私はテーブルの上に右足を乗せ、空のグラスを蹴り倒す。
「そもそも、食いたくなきゃ食わなきゃいい話だろうが? 何でヨシナガさんがそんなことを言われなくちゃいけねぇんだ? オマエごときに!」
私は、使用済み割り箸をモチ男に投げ付けた。
沸き上がる怒りを堪え切れない私。
咄嗟に間に入るサカモトさん。
豹変した私に涙目のモチ男。
気配を消す部長。
「……コレ、ウーロン茶じゃない! ウーロンハイだわっ!」
どぅりで不味かった訳だ……。
騒然とする場の空気を他所に、空いたジョッキを掴み、振り上げる私の腕にヨシナガさんが、慌ててすがりつく。
「ヒナちゃん! 大丈夫だよ! 一回落ち着こう」
ダメよ! ヒトに戻れなくなる!(ノ;д;)ノ
リッちゃん……。
ヨシナガさんの良い香りがした所で、私の目の前が白くなっていく……。
ヒナンゲリオン! 完全に沈黙!
(+д+;)プシューン
次に気が付くと、ベッドに寝ていた私。
知らない天井だ……。
傍らにはカワユイ幼子が寝息を立てている。
……私、産んだの?!
(*゜∀゜*)
盛りのついた私は、鼻を子供に近付けて芳しい幼女のかほりに酔いしれる。
「起きた?」
暖かく柔らかな声に、私はクンクンを止め、声の方を見る。
「体は大丈夫?」
部屋の入口に立つアフロディーテに目を奪われる私に、微笑みを浮かべて歩み寄るヨシナガさん。
「……私は」
そう訊こうと口を開く私の傍に座ったヨシナガさんは、白い手を私の頬に当てて言った。
「心配しなくていいの」
ポーー(*゜∀゜*)ーー
否! そうはいかない!
私はヨシナガさんに事の顛末を訊いた。
ざっくり言うと、
私にウーロンハイを呑ませたのは、モチ男だったこと。
私はあのまま寝てしまったから、過去の暴走まではしなかったこと。
あの部長がブチ切れて、モチ男を大説教したこと。
サカモトさんの追撃で、モチ男が泣いたこと。
結局、あのままお開きになってしまい、ヨシナガさんが自分の家に連れ帰ったこと。
ヨシナガさんの子供たちに私が大人気で、酔いながらも子供たちの相手をしてあげてたこと。
上の娘がどうしても私と寝たいと駄々をこね、今に至っていること。
「とんだご迷惑を……」
私が重い頭を下げると、ヨシナガさんはあっけらかんと笑った。
「迷惑なんて掛けられてないよ! ヒナちゃんが私のために、あんなにモチヅキくんに怒ってくれて、嬉しかったもん」
姐さん……(;д;)
私は嬉しさと恥ずかしさで大泣きしてしまった。
オロロ~ン!(TдT)
私の慟哭で天使ちゃんが起きてしまった。
「ヒナたん、なんで泣いてゆの?」
テラカワユス!!
私は涙をフキフキしながら、リアルエンジェルに精一杯の笑顔を見せると、
「オバチェのゆめ? コワイコワイねぇ」
そう言って私の頭を撫でてくれた。
萌え(;∀;)死んだー!
「ヒナたんコワイコワイいないよ。みぃがヒナたんまもゆからねっ」
マジで死ぬーーっ!!
(@゜ii゜@)鼻血でるぅ!
「ありがと!」
私はみぃちゃんを膝に乗せてギュッとすると、みぃちゃんもギュッとしてくれた。
その後、私はヨシナガさん一家と一緒に朝ごはんを食べてから失礼した。
みぃちゃんが泣きながら私を引き留めてくれて、また泣いた。
また行くよ!
(;∀;)/みぃちゃん!
休み明け、モチヅキが私に対する罰として、部全員に高級プリンをプレゼントしてくれた。
プリン旨かったぜ!
でも、次は容赦しない!
ρ(`д´#)ンノヤロゥ!