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パターン『あほ』!


 ブィ~~~ッ!


 ブィ~~~ッ!

 (鳴り響く警報)



 「左隣にシトを捕捉!」


 「隊長! パターン『モチヅキ』! ヤツです!」



 「なんですって?!」


 「ここは『みかん味のアメ』で口を封じるのよ!」


 「ダメです! いきなり噛み砕きました!」


 「ヤツはアメ玉の食べ方も知らないの?」


 どかーん! 


 「モチヅキ! 電卓で『ババンババンバンバン』を奏で始めました!」


 「このままでは保ちません!」


 「ヤツは幾つなのよ!」

 「同い年です!」


 「仕事中にレトロな……おのれモチヅキぃ……」



 私の憂鬱の日々は続く。



 私の職場にはヘンな男がいる。


 名前は『モチヅキ』


 見た目は冴えないが、仕事はもっと冴えない。


 中途採用で入ってきて早二年。我が経理部のきってのお荷物くんである。


 年は私と同じだが入社歴が長い私を『せんぱい』と呼ぶ。


 人当たりだけは良く、人当たりだけで生きてきたようなヤツである。


 口癖は「腹へった」


 昼休憩明け直後にそれを言うのだから「お前は何を食ってきたんだ」と問うと彼は言う。


 「チャーシューメン大盛りとチャーハン」


 はっ!?(◎д◎;)


 それだけ食って十分で腹減ったのか?


 なんて不経済な体なんだろう。しかも、太っていないし、寧ろ痩せ型に見えるし。


 「オレ、しんちんたいしゃがイイんすよ」


 ヘラヘラと笑うモチヅキになんかイラッとする。


 いつもだけど。


 午後はいつもPCを打ちながら、モチヅキの餌付けをしている私を周りは飼育員扱いだ。


 何か芸でも仕込んでみるか?


 いや、仕事を覚えてもらう方が先だ。


 モチヅキは私の隣で電卓を弾きながら、


 「せんぱいって普段何してるんすか」

 「呼吸」


 即座に切り捨てる私に、モチヅキは肩を震わせて笑う。


 「せんぱい、オモシロイっす」


 お前に褒められても嬉しくねぇんだよバーロー!


 私の心の中の江戸川くんが呟いた。


 グフグフと笑っていたモチヅキは、私に顔を向けて真顔で言う。


 「オレは休みの日は寝てます」


 だからなんなんだよバーロー! \(`д´#)/


 不要なモチヅキ情報を聴かされた私は、無言で仕事を続ける。


 そう言えば、今夜はボーリング大会があるんだったな。


 ふと思い立ち、モチヅキに訊く。


 「モチヅキ、あんたボーリングのスコアは?」


 私の問い掛けにモチヅキが自信たっぷりに返す。


 「200ちょいっすね」

 「へぇー、意外に上手いんだね」


 ベスト150の私が感心すると、モチヅキはニヤリと笑って、


 「そうっすか? 2ゲーム足してっすけどね」


 この大バカヤロゥ! 2で割ったら100くらいじゃねーか!


 私は沸々とハラワタが煮え繰り返りそうなのを必死に堪えて仕事に戻った。


 鬱々とした日はまだ終わらない。




 仕事終わりに部の皆で会社近くのボーリング場に集まると、先に来ているはずのモチヅキがいない。


 皆で少し待っていると、モチヅキがニヤニヤしながら歩いてくる。


 「モチヅキ! あんた、何で先にいないの?」


 私がキレ気味に問うと、モチヅキは頭を掻きながら「すき家に行ってました」と平然と言ってのけた。


 「あんたねぇ……」


 私が説教モードに入ろうとすると、空気部長が間に入って、「まぁまぁ」と私を宥める。


 腹立つからさっさと帰りたい。(´;ω;`)


 そう思いながら受付へ向かう。


 貸靴を選ぶ私にモチヅキが、


 「せんぱい、この色がいいんじゃないすか?」


 そう言って私に手渡したのはピンクのラインが入った靴。サイズは22。


 履けるかバーロー! 2センチも足りねーよ!


 モチヅキに無言で靴を突き返し、私はさっさとレーンに向かう。


 それぞれ靴を履き替えてゲーム開始。


 一番手はクールビューティーのヨシナガさん。


 スラリとした色白の細身で長い黒髪の美人。


 性格もとても良く、私も新人時代は大変お世話になった。


 まだお若いが二人のママだ。


 一人くれ(´∀`)


 黄色のボールを構える後ろ姿が様になっている。


 ゆっくりと踏み出し、ボールを後ろへ振りかぶってから勢い良く前へと転がした瞬間。


 「ハッ!!」


 今、ヨシナガさんが何か叫んだ?


 この大会は賞金がかかっている。


 優勝賞金は5000円とショボいが、会社の経費から出るのだ。


 ヨシナガさんはガチで優勝を狙ってるんだ……。


 ヨシナガさんのボールは真っ直ぐに1番ピンへ向かい、パカーンと全てのピンを蹴散らした。


 「ヨシナガさん、ナイスですっ!」


 私が立ち上がって両掌を出すと、照れ臭そうにハイタッチしてくれた。


 ヨシナガさんに萌えた。


 次は私の番。


 いきなりのストライクの直後だけに緊張する。


 オレンジの8ポンドボールを抱えて位置につく。


 一つ深呼吸をして構えると、左足を前へと踏み出した。


 1…2……3っ!


 私は渾身の力を込めてボールを前へと投げた。


 ゴロゴロゴロ……。


 私の想いとはうらはらにボールは勢いなく転がっていく。


 何か右に曲がってる?


 ボールは真ん中から徐々に軌道を右へと変えていく……。


 ヤバい!


 このままではガターになってしまう!


 私は体を左へ傾けながら軌道を左へ修正するが、私の願いも空しくボールは右へ右へと迷いなく曲がっていく。


 落ちるなー!


 私は体を90度左に折り曲げながら、せめて一本だけでも倒して欲しいと念を送る。


 ……ガタン。


 ボールは右端のピンの手前で力尽きた。


 まぁ、久しぶりだったし仕方がないよ! ドンマイ私! 

b(・∀≦)


 私は私にエールを送り、二投目に望みを繋げた。


 ボールが帰ってくるのを待っていると、モチヅキが笑っている。


 「せんぱい、下手っす」


 ウルセーな! バッキャロゥ! \(`д´#)/


 モチヅキの心無い一言に私は深く傷付いた。


 きっと私の背中には虎か獅子がいたと思う。


 スタンドみたいに。


 私は帰ってきたボールを抱え、沸々と煮えたぎる怒りに任せて、二投目を投げた。


 ピナコエクスプロージョン! (#`∀´)ノ≡◯


 ボールは思いの外いいコースを走り、パタパタとピンを押し倒していく。


 スペアだっ!

 \(*゜▽゜*)/


 ヤッタぜー! 流石は私っ! これぞピナコエクスプロージョン!


 見たかモチヅキ! これが私の真の力なのだ。


 顔をほころばせて振り返ると、モチヅキはノッポのサカモトさんと会話していて、私の素晴らしいプレイを全く見ていなかった。


 コノヤロゥ( ̄~ ̄;)


 「ヒナちゃんナイスリカバー!」


 ヨシナガさんが私に輝く笑顔で両掌を向けて待っていてくれた。


 「ありがとうございます!」


 私はヨシナガさんの柔らかい掌にハイタッチした。


 ヨシナガさんはいい匂いがした。


 ヨシナガさん……好きだ!


 私、キュン死しそう! ヨシナガさーん!

 (ノ´∀`)ノ


 その後はノッポのサカモトさんが投げる。


 長身から繰り出されるボールはスピードもあり、正に若かりし頃のジャイアント馬場のような感じだ。


 しかし、ストライクにもスペアにもならず、残念。


 そして、ヤツの登場である。


 「久しぶりっすね。学生以来だなぁ」 能書きはいいからさっさと投げろ!


 モチヅキが己の腹の中のように黒いボールをひょいと持ち上げ、位置につく。


 立ち位置は右にギリギリ寄っている。


 フックボールか?


 皆が固唾を飲んで見つめていると、モチヅキが大きく振りかぶって投げた。


 投げたボールは右のガタースレスレをシュルシュルと音を立てながら転がっている。


 よく見ると変な回転がかかっている。


 ガタン!


 勢いのあるボールは曲がる素振りすらなく、レーンの中程で、右の溝に落っこちた。


 ヘヘーンだ! バーカバーカ! \(@゜∀゜@)/


 首を傾げながら二投目に入るモチヅキ。


 懲りもせず右端に立つ。


 ガタれ! ガタってしまえ! Ψ(`∀´#)ケケケ


 私は超念波を送りながら見つめるとモチヅキが二投目を投げる。


 私の黒い期待を裏切り、ボールはグイグイ左へと曲がり始める。


 何……だ…と?

 (;゜д゜)


 コースは絶妙なラインを走り、スピードも乗っている。


 左に曲がれ~!

 \(`д´#)/


 私のダークサイドが開眼する。


 ……ガタン。


 ボールはそのまま左の溝へ。


 ププーッ! (@゜ε゜@)ザマーミロ!


 それからは会社の大会そっちのけで、私対モチヅキの真剣勝負の火蓋が切って落とされた。


 私が徐々に勘を取り戻すと共にモチヅキもスコアを上げてきた。


 最終フレームでの点差は私が6ピンリード。


 絶対に負けられない戦いが女にもあるんだぜ!


 私は目線の先に立ちはだかる白い巨塔たちを見据えて、息を呑む。


 ここはもう一発、あの技を出すしかない。


 そう……あの大技!


 行くぜ! ピナコエクスプロージョン!


 私は気合いを込めて、オレンジのボールを投げた!


 エイヤー!

 (#`∀´)ノ≡◯


 ボールに相変わらずスピードはないが、コースは悪くない。


 ゴロゴロゴロゴロ……。


 ボールはヘッドピンのやや右に当たり、パタパタとピンをなぎ倒していく。


 行けー!

 ρ( `∀´)/


 ピンは見事に全て倒れた……かに見えたが、一番左奥のピンがゆらゆらしながら耐えていた。


 こんな時にガッツ見せんなよ!


 あれだけは……あの技だけは使いたくなかったが、仕方あるまい。


 打倒モチヅキのために。


 今こそ解き放つ時だ!


 ピナコサンダーハリケーンを!


 私は真ん中よりやや右に立ち、強めにボールを握った。


 静かに目を閉じ、呼吸を整えて目を開く。


 見えたぜ! グローリーロード(栄光の道)が!


 喰らえっ7番ピンめ! ピナコサンダーハリケーン!


 ター!

 (*´∀`)ノ≡◯


 私の思い描いたコースを転がるボールに勝利を確信する私。


 もらったぜ! この勝負は私の勝ちだ!


 コツン!


 ボールは憎き7番ピンを掠め、7番ピンは少しスライドしただけだった。


 (;゜□ ゜)エェーッ!


 何、今の動きは? 夢想転生?


 あの7番ピンはトキ兄さんだったの?


 だって、ラオウすら凌駕する柔の拳の天才だもんね!


 ピナコサンダーハリケーンくらい避けるわ。

 (´;ω;`)くそぅ!


 まさかの天才拳士の登場で私のターンは終わった。


 あとはヤツさえミスれば……。


 点差はわずか15ポイント。


 奇跡と偶然とまぐれがたまたま重なれば逆転される……。


 神様……私を勝たせてください……これからイイ子になります。

ポテチも週一に減らしますから。(≧人≦)


 優勝とは全く無縁の小さな戦いに神様を困らせる私。


 サカモトさんの投球を見もせずにひたすら祈る。


 サカモトさんゴメンナサイ。


 サカモトさんの3位が確定した所でヤツの登場。


 モチヅキはスコアを見て呟く。


 「オレ、最下位だ」


 そうだ! お前は最下位のままでいい! 最下位と書いてモチヅキと読むんだろう?


 「そうよ、モチヅキ君。頑張ってね!」


 ヨシナガさんがモチヅキを鼓舞した。


 ヒドイや姉さん! それじゃ私が最下位になっちゃうじゃん!(TдT)

 人が良いにも程があるよ!


 こうなったら私は悪魔にソウルを叩き売りしてやるっ!


 溝に~落ちろ~足を~挫け~!(ノ`д´)ノξ


 エロイムエッサイム~エコエコアザラク~!


 モチヅキに呪いをかけまくる私を他所にモチヅキが投球する。


 一投目はヘッドを外し、左の四本を倒した。


 ふぅ……脅かしやがって。


 ホッとしたのも束の間、続く二投目はスペア。


 勝負はこの一投にかかった。


 マハリクマハリタ~テクマクマヤコン~ケサランパサラン~!

(ノ`д´)ノξξ


 私は思い付く限りの呪文を唱えまくり、最終局面に全身全霊で臨んだ。


 大きく振りかぶり、モチヅキのラストスロー。


 「ヘックシっ!」


 モチヅキはクシャミで体制を大きく崩し、ボールはすぐに右の溝へとダイブした。


 ヤッタ!

 ( ゜∀゜)~♪


 勝ったぞ! 正義は我にアリ!


 私は心の中で勝利の舞を踊り、歓喜した。


 信じることって大事だね!


 結局、優勝はヨシナガさんだったし、モチヅキには勝てたから私は満足♪


 部長は相変わらず空気。


 この後、私とヨシナガさん二人で女子会しました。


 めちゃんこ楽しかった!

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