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第七章 初任務と、再戦の話

ギリセーフ?

「マコト。何があっても平常心を保て」


「は、はい!」


 カルティノを起動してすぐ、隊長からの通信が入る。


 俺はいくつかその意味を浮かべてみた。


一、初めての戦闘故に、焦り等で迷惑をかける可能性があるということ。


二、カルティノに感情で左右される機能が付いている可能性があるということ。


三、この事件の犯人が、あの蛙声の男であるということ。


 何故あいつが生きているのかわからないが、今目の前にいるのは事実。


「訓練でやった通りのことをやればいい。それ以上はするな。いいな?」


「はい!」


「まずはこのリーダー格を抑える。一撃で仕留めて、さっさとあのデカい化け物を止めにいくぞ」


「了解です」

 

 返事と共に、鬼ヶ島を挟んで隊長機と対角線上に移動する。


 両サイドから挟み込み、取り押さえるシンプルな戦法。操縦桿を握る手に、さらに力を込める。


 この戦法で一番大切なのはタイミング。二人の息が合っていなければ、そこに隙が生まれ、逃げられる可能性が出てくる。


 訓練で一番苦労したのはそこだ。しかし、訓練を繰り返し、誤差はほとんどなくなってきている。


 大丈夫だ。やれる。


「確保!」


 隊長の合図で、激しく地面を蹴った。


 が。


「バン」


 たった一言。


 子供騙しな一言で、俺の体は一瞬で固まった。


 両手両足の先が痺れ、視界がぐにゃりと回り始める。


 あの爆発の恐怖が、光が、音が、脳内を駆け巡った。


 一か月前の悲劇が体の動きを邪魔したのだ。


「あらよっと」


 もちろんそれは大きな隙となり、蛙声に簡単にかわされる。


「す、すみません……」


 畜生! 足を引っ張った!


「いや、いい。下手にこのミス取り返さなくてもいいから、次の手に移るぞ!」


 隊長は一切取り乱していなかった。


 そうだ、平常心を保たなくては。


「はい!」


 そう返事をしていた時だった。


「小僧、アンタが阿呆で助かったわ!」


 奴はあの時と同じ言葉を吐き、余裕さをアピールするかのように両腕を組む。


「ほんま、そんなんでようおじょーちゃん守ろう思えるな」


 一体何をどこまで知っているのかは知らない。だが、少なくともお嬢様が俺と暮らしていることは知っている。


 どこかで見ていたというのか。


 いや、ただの想像か。情報がある程度あれば、これぐらい予測できる。


「ああ、ちゃうか」


 奴はさらに続ける。


「アンタ本当は喜んどるやろ?」


 は? こいつ何言って――


「邪魔する人も死んだし、これで手ぇ出し放題やんな」


 お前――


「マコト! 耳を貸すな!」


 遠くの方で隊長の声が聞こえた。


 だけど、


「お前は――」


「ヤり放題やんな! 羨ましいわ! あの嬢ちゃん滅茶苦茶エロフェロモン放出してたやん」


「ふざけるな……」


 こいつのせいで、俺たちの生活は崩れたのだ。


 こいつのせいで、旦那様は亡くなったのだ。


 こいつのせいで、お嬢様が辛い思いをしたのだ。


 あれは俺の油断なんかじゃない。全てはこいつの行動のせいなのだ。


「やめろマコト!」


 怒鳴り声が聞こえる。


 だが、あの人にはわからないだろう。


大切な人を失った辛さを!


 死を乗り越える大変さを!


「惜しいな。あとちょっとでおいちゃんのもんやったんやけどな。まぁ、これからワシの物にすりゃええだけなんやけど」


 もう我慢ならなかった。


 こいつだけは生かしておきたくない。


「まぁ、前回守れんかったあんたには()()()を守るなんてどーせ無理やでな――ああ、興奮してきたで!」


 脳裏にこべり付いた気味の悪い笑み。そして、大事な家族との日々――。


「お前はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 ぶっ殺したい。


 ここまで明確な殺意は初めてだ。


 許せない! 許せない! 許せない!


「がああああ!」


 右腕を振るう。


 が、空を切る。


 だから、左手で掴みにかかる。


 が、弾かれる。


 ならば、右足を伸ばす。


 が、掴まれる。


「ええガッツしとるが、甘いな」


 そのまま投げ飛ばされた。


 流れる景色の中、四つん這いの姿勢を探り、地面にボデーの鋭角を突き立てて速度を殺す。


 削れたアスファルトの盛られた部分を掴む要領で、獣のように走る。


 一歩でも早く、あいつの行動をねじ伏せて、再起不能までぶん殴りたい。


「なんや、前みたいに鞭みたいなのとか出さへんのか」


 そう言い奴は銃口をこちらに向ける。


「つまらんな。もう黙っとき」


 しまったと思った時にはもう遅い。


 ぽっかりと口を開けた真っ暗な穴の向こうが赤く点滅する。


 そのあとの光景は、まるでスローモーションだった。


 まず見えたのは、赤黒い炎。


 次に、視界いっぱいを青白い光が支配した。


 耳鳴りにも似た甲高く、擦れるような音の奥底で、聞き慣れた声が聞こえたような気がした。



次回もまた来週

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