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第二章 濃厚な形無い物の、砕け散る話

前話まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

予想より多い方に読んでいただき、私、感無量です!

今回は多少汚い言葉遣いが含まれますので、苦手な方は注意してください。

 まず、足音が聞こえた。


 次に、叫ぶ声が聞こえた。


 そして、目が覚めた。


「まだ見つからへんのか? さっさと見つけんかいボケェ!」


 そこは、見慣れたダイニングの、見慣れない光景だった。


 はじめて見る顔が二つ、室内を土足で歩き回っては、手当たりしだい高価な雑貨を袋に詰め込んだ。


「おいおっさん! アンタの隠しとるもんどこにあるんや?」


 三十代半ばぐらいだろうか。おかっぱ頭の男が、標準語の混じった関西弁でしゃがれたヒキガエルのような声で怒鳴りつけた。


ギョッとして横を見る。そこには両手を後ろに縛られ、全裸に剥かれた当主ギンロウの姿があった。


 明らかな劣勢にも関わらず、臆することなく、胡坐をかき、力強く奴らを睨みつけている。その表情には余裕も感じられ、俺自身も根拠のない安心感が沸いてきた。


 ここにいる強盗はもう一人のスキンヘッド含めて二人。お嬢様が言ったことが本当なら、あと三人いるはずだ。


ここに姿がないということは、この屋敷内を捜索する組だということだろう。先ほどから頻繁に無線で連絡を取り合っている。


 だが、ここの地下シェルターは頑丈。おまけにロックも最新の電子制御付きだ。


 通報も済んでおり、もう少し時間が経てば――


「自警団が駆けつけてくれるってかぁ? 喜べ! あいつらは来ても何もできへんで!」


「は?」


 嫌な汗が流れる。


「寝起きのくせにええ顔や。まぁええやろ、と・く・べ・つ・に! 教えたる!」


 胸を反り、腕を組みながら


「外にあるあのマシーンはな! 重量二十トンあるんや! しかも五十ミリ機関銃も備わっとる! あんなのに生身の人間がどう対応できるんや? んん?」


 自慢げに唾を撒き散らす蛙声に、「その通りです、兄貴!」と、もう一人の男が相槌を打つ。


そしてこのタイミングで無情にも、無線から「地下シェルターを見つけた」という旨の報告が入る。


「兄ちゃん、ええ顔してまっせ! あのマシーン『鬼ヶ島』使えば、ちょちょいっとシェルターから引きずり出せるで! へてから、とうさんの身ぐるみ剥いだら――」


「そんな……」


 口からは漏れたのは、諦めの言葉。


 俺はバカだ。自分の目であんなもの見て、それで通報したからどうにかなる? 冷静に考えれば、無理じゃないか。


 俺はバカだ。


「兄ちゃん、ほんまええ反応するな! よし、決めたで! 兄ちゃんの前で犯したる!」


 奥歯に鈍い痛みが残る。少しだけ鉄の匂いがして、再び噛み締めた。


 もう、終わりなのかもしれない。俺一人が大人五人相手にしても勝てるわけじゃないのに、ましてやあんな巨大なもの、立ち向かえるわけがない。


 体が震えだし、目からも熱いものが溢れ出した。


 そのとき、隣から聞こえてきたのは、低く、落ち着いた声音。


「泣くな。男だろう」


「で、ですが……」


 旦那様の方を見ると、そこには変わらず余裕の表情だった。一切の諦観ていかんが感じられないその力強い瞳に、俺は諦めかけていた自分を情けなく思う。


そうだ。まだ終わっていない。


「わかりました」


「ええ家族愛や! これは犯しがいがあるわ」


 股間を弄りだした蛙声を無視し、この状況を突破する方法を考える。


 あのロボット――確か鬼ヶ島とか言ったか。あれに乗り込みさえしなければただの人。注意を惹きつけつつ、自警団の到着次第、取り押さえてもらえば勝ちだ。


 鬼ヶ島を見つければ、さすがに無力化してくれるだろう。


「さて、後は例の物を見つけるだけやな」


 例の物――ここの地下にあるロボット……まだその実物を見ていない以上、何とも言えないが、余程の価値があるのは間違いないだろう。


 西日本が欲しがるということは、西日本にない技術があるから。東日本が開発した、唯一西日本に対抗しうる機体――。


「なぁ、おっさん。取引しようや」


 蛙声が懐からナイフを取り出し、旦那様の首筋に沿うように突き付ける。


「日本革命時に大活躍した、東日本の切り札――」


 しゃがみ、目線を合わせ、


「カルティノと大事な愛娘。どっちが大事や?」


 ニヤッと粘っこい薄気味悪い笑みを浮かべた。




「遅い!」


 自分の部屋よりも狭く、直方体で天井の低い、旧型電球タイプのLEDランプ一個だけという暗い部屋の中で、アタシは膝を抱え込んでいた。


 マコトと連絡を取ってから、随分と時間が経つ。


 家に着くなり、変な奴らに襲われた。パパはそいつらを挑発した後、先に地下シェルターへ行くよう言ったはいいが、一向に来る気配はない。マコトも同様だ。


 そもそもマコトには失望した。


 一応でも執事なら、真っ先に主人を助けるのが当たり前でしょ?


 それなのに自警団を呼んだから、ここで暫く待て?


 冗談じゃないわ!


 早く助けに来なさいよ!


 後で戻ってきたら説教してやるわ! 


 でももし、帰ってこなかったら?


 現れるのがパパやマコトじゃなかったら?


 もしそうなったとき、アタシは一体どうなるの?


 そう思いだしたら、体もガタガタと震えだした。歯がカチカチ鳴り、焦りが余計に増えてくる。


自分一人では何もできない証拠だ。


 そのとき、扉のロックが外れ、静かで狭いシェルター内に音を与えた。


 恐怖で埋め尽くされた脳がギアを一段階落とし、急加速を始める。


誰も助けに来ないなら、来るまで逃げればいい。


 頭に沸いた一つの脱出パターン。その第一段階。アタシは、クラウチングスタートに近い姿勢を取ると、手元にあったスマホをドアの向こう側の男に投げつけた。




 急いで駆け付けた地下シェルター。そこに待っていたのは、弱ったお嬢様なんかではなく、三連コンボだった。


一、下からホップしてきた小さな四角い物体が、顎にアッパーを食らわす。


二、その物体がスマホであること知る頃には、鳩尾に腰の入ったグーが食い込む。


三、何かに気がついたファイターが頭を上げ、腰を曲げて悶える俺の顎に直撃した。

 K.O.

 



 ふと目が覚めると、誰かが俺の顔を覗き込んでいた。


「わ、悪かったわ……」


 逆光で表情は読み取れないが、声色から察するに、大層バツの悪そうな顔をしていたことだろう。別にお嬢様は何も悪くないのに。むしろ、この膝枕をして頂ける方が悪い気がしてしまう。


「何のことです?」


「さっきの、アレよ」


 アレでは何もわかりませんよなどと意地悪してはまた気を失いかねない。


「すみません、あまり覚えていないので」


「そ、そう? なら、いいけど……よくないけど……」


 最後は大分ゴニョゴニョしていて聞き取りづらかったが、これでこの話はナシになったというのはよくわかった。


 時間が非常に限られているのだ。


 とりあえず、旦那様から頼まれたことを進めながら、お嬢様にこれまであったことを簡潔に話した。


 あの電話の後にあった出来事。


 時間を稼いで、自警団が来るのを待とうとしていたこと。


 それから、自警団は間に合わなかったということ。


 それは、自警団が来る前に捜索組の三人が鬼ヶ島に乗り込んでしまったということ。


 旦那様に命の危険が及び、自らそれを回避すると引き換えに時間稼ぎが非常に難しくなったということ。


 奴らが地下シェルターを破壊する前にお嬢様の元へ、そして例の機体の元へと向かってほしいと頼まれたということ。


 そして例の機体がある場所が――それを説明している途中で、()()()()()()()()()()()()()


「何……これ? え、え?」


「日本革命時、東日本を救った英雄機」


 シェルターから出ると、そこは病院のように真っ白な壁に囲まれた巨大な箱。


 眩いぐらいに明るい部屋に、その壁と同等に白く、それでも同化をすることなく、圧倒的な存在感を放つ顔のない巨人が雄々しく立っていた。


「カルティノ――旦那様の最高傑作です」


 初めて実物を見たが、話に聞いていた以上に恐ろしく、美しいとも感じた。


 俺が見とれていると、お嬢様はゆっくりとした足取りでその機械に近づいていく。危ないと叫びそうになったところで、彼女は呟いた。


「まるでミイラね」


 あまりに率直で稚拙ちせつな感想であったが、その背中を追いかけお嬢様の隣に並んだとき、なるほどなと思えた。


確かにミイラに見えないこともない。布でグルグル巻きというわけではないが、よく目を凝らすと、全身に切れ目が無数に入っているのがわかる。


その切れ目が、四角い紙を張られているように見えるのだ。


 近くに来て、この機械がどれだけ重要なのか理解できた気がした。こういうのが重要遺産の仏像に言われる『神秘的』なのかもしれない。仏像自体見たことがないのでただの推測でしかないが、感動はしていた。


 だからこそ、得体のしれない集団に渡すわけにはいかないのだ。最悪、カルティノを破壊するつもりで。


「お嬢様、少々シェルターの中で待機していて頂いてもよろしいでしょうか」


「え、それって……」


 彼女は、俺とミイラを何度も何度も交互に見比べ、やがて大きく目を見開いた。


「マコト――⁉」


 何かを告げようとしたとき、もとい俺を止めようとしてくれた一人の少女の声を遮るように、爆発音がこの巨大な部屋を震わせた。


「急いでください!」


 お嬢様の背中を押し、シェルターに無理矢理向かわせる。


 こうしている間にも、天井からは先の爆発音が数発響いていた。少しずつ、天井から人工の光とは別の明かりが漏れ出している。


 旦那様と別れる直前、教えられたことを実行するときが来た。


お嬢様がシェルターに無事戻ったことを見届け、カルティノのつま先に恐る恐る触れる。


表面はひんやりとした金属特有のすべすべ感があったが、その感覚に含まれる手汗のぬめり加減が非常に不快だった。


 心臓がアクセルを床まで踏んだエンジンのように高鳴り、目を閉じると、眠る巨人も同様に震える不思議な感覚に陥った。そのまま、自分の身体と溶け合ってしまうのではないかと思えてくる。


 そのときだ。カルティノのボデーに変化が起きたのは。


 目を見開くと、パキパキと連続した潤いのない音を引き連れて、木の葉のように機体の表面が一枚、また一枚と剥がれ落ちてくる。


ギョッとした。


それらは積もることはなく、しかし一か所に集まる。瞬く間に棒になり、組み合わさり、伸び、次の瞬間には白く表面のなめらかな梯子はしごを作り上げていた。


 本当に梯子になるとは思わなかったが、触れる以上、現実だ。これを登った先には、もっと驚きの世界が待っている筈≪はず≫なのだ。今の自分は、こんな状況にもかかわらず、恐怖心より好奇心が勝っていたことに気がついていた


 登り始めて早々、俺はまた驚かされた。剥がれ落ちた皮のあった場所は、真っ黒な口を開けていたのだ。この巨人に肉はなかった。


 ふと、頭の上に砂が乗り、進むスピードが落ちていることに気付く。


天井の小さな穴はもう日光の注ぎ口として機能するレベルにまで広がっていた。


 慌てて残りの梯子を登り切り、人でいう腰あたりにある小部屋に転がり込む。


ビリビリと痺れる手をいたわりながら、あたりを見渡す。


ぽっかりと空いた入口から少々の光が差し込む程度の薄暗く、外観同様白い金属質の部屋のど真ん中。


スポーツカーに付いているような赤いバケットシートがこちらを向いており、中腰以上に体を起こせないほど低い天井には、いくつもの計器やスイッチが設置されている。その様子は航空機のコックピットにも少し似ていた。


 荒れた呼吸を整えつつ、俺はゆっくりシートに腰を下ろす。それから数秒で外からまた乾いた音がし、それもすぐにコックピットの入り口が塞がることでほとんど聞こえなくなった。


相変わらず爆発音はやかましいが。


 座り心地はさほど窮屈ではなく、三点式のシートベルトも相まって、強い安心感がある。


 大きく息を吸い、膨らんだ肺の中身を空にするように時間をかけて吐き出し、コックピットが閉まると同時に床から生えてきた二対の操縦桿を握る。これもひんやりとした金属の感触に加え、先ほど以上のぬめりを感じた。


「やるしかない……やるしか――」


 目を閉じ、自分にそう言い聞かせる。よし。と目を開けると、コックピット入口前面に青い文字で『Χαρτινο(カルティノ)』と大きく表示された。


やがてら亀裂が格子状に入る。そのまま様子を見ていると、亀裂が内側から順に上下に外へと広がり、コックピットの壁が、三六〇度機体の周囲と思われる空間を映し出した。


 ただし、巨大なスクリーンに凄いなどと感銘を受けていられるのも束の間。


「ハロー子猫ちゃん! ワシと楽しいことしようや」


 スピーカー音の蛙声。独特のイントネーション。いつの間に乗り込んだのか、赤黒い機械が開いた天井からのぞき込んでいた。


「おらんやないかい! かくれんぼは大概にせえよ……?」


 一体何を怒っているのか、めちゃくちゃなことを吐き散らす。が、すぐにカルティノの存在に気が付き、嬉々とした声色に変わる。


「獲物ちゃん見つけたで! お前らはよ回収せい!」


 蛙声が乗っていると思われる鬼ヶ島が、その太い腕で自身と同じ見た目の金属塊を一つ放り投げてきた。


 パッと見体育館の天井より高く、一五メートル以上ありそうなこの部屋。そんな高さから落下してきた一機の鬼ヶ島は、地面に激しく叩き付けられて、うつ伏せで停止した。


 死んだのだろうか? よくわからないがラッキーととっておこう。


今は戦うどころか、動くこともままならないのだ。


 とりあえず操縦桿をいろいろ動かしてみる。上下、左右、ボタンを握ってみたりするが、ちっとも前進しない。


 上からは動いただの、動かんだのと叫ぶ声が聞こえたが、気にする暇はない。早くしなければ、最悪の事態を招きかねないのだ。


 いろいろ触って思ったが、どうやら操縦桿は上半身を動かす装置で、下半身はまた別の装置が必要なのだろう。


足元も感覚だけで探っていると、足を掛けられるペダルらしきものが二つほど見つかった。


試しに引っ掛けて踏んでみると、ビンゴ。ついに一歩踏み出した。


まだ戦うには程遠いが、ただの白マネキンよりはマシだろう。


 操作に慣れるまで、お前はそこで寝ていろよ……。


 ゆっくり、ゆっくり歩を進め、眠るように動かない鬼ヶ島に近寄る。


 これだけ大きければ、揺れも相当なものだと思っていたが、一体どういう構造なのか、快適と言っていいほど安定していた。


おかげで操作に集中ができる。今は目の前の機械をただの金属塊に変えることを課題としよう。


そう思い、赤黒い機体のそばで歩みを止め、大きく腕を振りかぶったとき、


「ボケ! このまま役立たず仕舞いならアンタの家族もお仕舞やな!」


 下衆げすあおり文句がどよめいた。


 可哀想に。家族を盾に取られているのか。無理矢理これに参加させられているのだろう。その同情ゆだんが、俺の腕の動きを止めた。その選択に、俺は後悔した。


 ずんぐりとした見た目には似つかないほど素早い動きでカルティノの足を掴まれ、そのまま転がされる。グルグルと景色が回り、さすがに今度はシートベルトに締め付けられた。


 止まる呼吸に脳が警笛を鳴らすが、この経験のしたことのない現象に体がついていかない。コックピットに映るスロットが止まるころには、呼吸ができるようになったが、何をすればいいのかわからないというパニックは依然として変わらない。


それどころか、動くことすらままならなかった。上に圧し掛かった敵が重すぎるのだ。中身が空っぽの軽いこの機体では押し上げるトルクが足りない。そしてこちら同様、相手も必死なのもこの状況を生み出す要因の一つだったのだろう。


「やればできるやないか! ほな、次はお前が子猫攫さらってき!」


 もう一体の鬼ヶ島か落下してくる。視界の端で見事な着地をし、シェルターに向かって歩き出す。揺れる巨大な背中が、俺を焦らせる。


「やめろ、近寄るな!」


 叫びながら操縦桿とペダルを力一杯動かすも、両腕はガッチリ拘束され、足は空を切る。


 もし、この拘束する太い腕を切り落とせたら。


 もし、この足がシェルターに向かう敵を蹴り飛ばせたら。


 もし、俺にこれを扱える技能があったら。


 今から起こる悲劇を防げただろう。


「畜生!」


目の前がゆっくり霞んでいく。


「俺は、無力だ」


 ああ、お嬢様。申し訳ございません。貴女あなたをお守りすることが俺の喜びであり、孤独だった俺を救ってくれたことに対する最大の恩返しでした。


貴女の笑顔が、俺の生き甲斐でした。


執事として、誕生日の一か月しか変わらない義兄として。


 旦那様……ここまで育てて頂いた恩も、とうとう返せず仕舞いでした。


血は繋がってなくとも、あなたが俺の唯一の父でした。人生の師匠でした。


 お二人方をお守りするのが使命なのに、こなすことができないなど、なんて執事失格な男だろうか。


 スローモーションのように映る、シェルターを破壊しようと振りかぶる巨大な腕。その視界の端。天井にあった一つのアナログメーターが赤く点滅し、反時計回りに回っていた針が止まり、ぐるりと逆回転を始める。


 そのとき、謎の現象が俺の目を奪った。


 俺を拘束していた鬼ヶ島の両腕が、根元から削り取られた。


 シェルターに攻撃を加えようとしていた鬼ヶ島が、宙を舞った。


 俺の願いが、叶った。


 そうなればこっちのもの。バランスを失った両腕のないダルマを横に転がし立ち上がると、間髪入れずにそのまま両足を切断した。


 次に、落下を始めていた鬼ヶ島を両腕で受け止め、同じく両腕両足を消し飛ばした。

 面白い。このロボットに乗り込む際にも起きた現象――装甲が変化し、別のものを模る能力が、まさか頭で考えるだけで実行できるとは思わなかった。これなら、勝てる!


「な、なんやこれ……聞いてないで!」


 明らかな動揺の声音。奴はもうすでに丸腰だ。これならば俺一人で対処できる。自警団ももうじきくる。これでジ・エンドだ。


 カルティノの指先にスパイクを作り出し、壁をよじ登る。軽くて機動力もあり、すいすい登る。


数秒と経つ間に登り切り、今にも逃げ出そうとする蛙声の機体を捕える。


同じく両腕、両足を破壊させようとしたその瞬間、コックピットの中にまで下品な笑い声が響いた。


「アンタが阿呆で助かったわ!」


 ほれ、見てみと指す極太の銃口の先。そこには芝生の上に正座をさせられ、スキンヘッドの男に後頭部へ拳銃を突き付けられた旦那様の姿。


 その眼にはもう、諦めの色をチラつかせていた。


「そいつから降りるか、このおっさん死ぬの見るか、どっちがええ?」


 悪魔の選択肢が掲げられた。


「絶対降りるな、マコト! そいつは俺一人の命なんかじゃ比べ物にならない価値がある」


 まるで自分が助からないかのようなことを言う旦那様。そこに、かつての獅子のような覇気は感じられなかったが、奴らに屈する気もまた、感じられた。


「黙ってな!」


 スキンヘッドが彼の頭を、銃の柄で殴りつける。


 その直後の動きは反射だった。カルティノの一部がスキンヘッドへ弾丸のように放たれ、彼の右腕を吹き飛ばしたのだ。


「お前ら全員捕まるというのはどうだ?」


 俺はスピーカーのボタンを見つけ、下衆な強盗どもに諦めを勧告した。


 その勧告と丁度のタイミングで、自警団が到着した。


 驚いたのは、カルティノと同じくらいのサイズの人型ロボットが六体も出動してきたということ。これらはどれもピカピカで、カラーはボデーがシルバー、関節部はブラック。自警団用パトカーのカラーリング灰黒ツートンを模したものだろう。


夕日を反射して、メタリックなボディが赤く燃える。


 勝敗は確定した。


「こちら自警団。あなたたちは包囲されています。機体から降りて投降しなさい」


 スピーカー音は、俺の正面の機体からした。


 旦那様が自警団を呼んで安心していたのは、このロボットらのことを知っていたからだろう。ようやく納得した。


 それでも、何故か旦那様の顔色は優れない。


「そうか、なら仕方しゃーないな」


 蛙声が大人しい、落ち着いた口調で呟く。


 全員が確保に動こうとしたとき、正面のパイロットが叫んだ。止まれと。


 それに被せるように蛙声も叫んだ。


「交渉決裂やな!」


 耳をつんざいたのは、耳障りなノイズではなく、至近距離からの爆発音だった。

今回も盾壁のカルティノを読んでいただき、大変ありがとうございます。

無茶な展開が多めで、ついていけないと感じた場合は仕様です。

厨二臭いと感じた場合も仕様です。

ご了承ください。

次話も読んでいただけたら、大変うれしいです。

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