エピローグ
ここは佐藤邸、談笑しながらバラエティ番組なんかを見ている。お茶をすすりながらソファーに座る太郎。エプロンを着用し台所で洗い物をする花子。太郎の隣に座り笑っている六駆。美護は花子の手伝いをしている。
なんて普通なんだろう! と思う。家族四人、つつがなく暮らしている。これ以上の幸せは無い。豪邸も必要ない、値段ばっかり高い最新式の家電もいらない。料理だって白米に焼き魚、お新香、味噌汁。野菜炒めなんかがあれば十分だ。最悪、毎日カレーでも我慢できる。
ここに家族がいて普通に生活できていれば何の文句も無い。
突如家のチャイムが鳴る。
「美護。出て頂戴」
「はぁい」
「また祖師ヶ谷さんじゃないの?」
六駆に茶化される。顔を赤らめながら六駆《明雄》の頭をはたく。
「もう六駆《明雄》ったら」
再びチャイムが鳴る。返事をしながら扉を開ける。
「はいはいはい、今開けますよぉ……っと」
玄関先には千雅と裂が立っていた。そして、その後ろには螺旋やクラスメイトが笑顔で立っていた。
「こんなとこにいたのね。美護」
美護は聞きなれない名で呼ばれ、困惑する。
「美護? それ私の事ですか?」
「何言ってますの? あなた以外誰が美護だって言いうんです?」
「家を間違えてるんじゃ……」
千雅の隣にいた裂に腕を引っ張られ外へ導かれる。
「さ皆ぁ、勇者様の登場よ!」
クラスメイト達は拍手で良子を出迎え胴上げを始める。
「え? ちょ? 何なの? お父さん!」
家から家族が出てくる。三人も満面の笑顔だ。
「ようやく勇者になれたんだな……花ちゃんよかったな」
両親は抱きつき泣いていた。
ワッショイの掛け声は勇者の掛け声に変わっていた。
「誰が勇者よっ!」
布団を跳ね除け美護が目を覚ました。
夢を見ていたようだ。夢の中での呼び名、良子とは美護の考える普通の名前だ。美護と言う名前は嫌いではないのだが”護”を”モリ”と、読むのが普通じゃないと思っている。”モリ”と読みたいなら”守”としてほしかった。同じように明雄は普通の弟の名前だ。
ここはオートキャンプSUKAJI、教師陣のテントの中、周りには裂と螺旋がいた。
「すごいうなされていましたね。大丈夫ですか?」
生返事をする。全て夢だった、普通の暮らしや良子と言う名前も……
「話は木佐紀崎さんから聞きました。大変でしたね……」
美護と千雅は裂が担いで運んでいた。その途中、騒ぎを聞きつけた螺旋達に救出され今に至る。
「でも、なんですぐに先生達を予備に来なかったんですか?」
今までの事がフラッシュバックする。そのあまりにも普通ではない状況に身を置いていたなんて考えられなかった。体が震えてきた。涙があふれてきた。
「うっぐ……ごめんなさい……でも、呼びに行ってるうちに裂ちゃん達が……怪我したら……それに私達のせいでキャンプが台無しになるんじゃないかって……」
美護を抱きしめる螺旋。ただただ、抱きしめる。強くやさしく……
同じテントに寝かされていた千雅は、未だに眠ったまま。息はしているので死んではいないようだ。彼女の手を握る。
「さ、今日は疲れたでしょ。三人はこのテントで寝てください」
そう告げて螺旋はテントを出て行く。これから他の教師と手分けして夜間哨戒が始まるのだ。絶対に出てくるはずが無かった敵が現れた。これは調査して対策委員会に報告しなければならない。美護の気遣いも空しく、明日行うはずだった実践演習は中止する運びになった。
ガックリと肩を落とした螺旋は、先見明たる意思兵装を具現化し、深夜の山へ分け入った。
二人は片方ずつ千雅の手を握り、川の字で横になっている。。
あんなに疲れていたと言うのに眠る事が出来ない二人、テント内には千雅の寝息だけ。
すると外から足音が聞こえてくる。「まさか敵が?」と、言う不安に襲われる流石にもう戦う余裕は無い。握る手が強くなる。
入り口のチャックが開かれていく。そこから顔を出したのは妹子と牛男だった。クラスメイトの顔を見て安堵する二人。
「あ、起きてるじゃん」
無理矢理テントに入ってくる二人。大人用のテントだったとは言え、五人も入ると窮屈で仕方ない。
「単刀直入に聞くけどお前ら、敵と戦ってたろ?」
牛男が問う。教師を呼びに行ったのはこの牛男だった。お堂を目指す最中、裂が敵に止めを刺すシーンを目撃していたのだ。
二人は頷く。
「ほら、言っただろ? 敵が出たって」
「ホントなの? 二人とも」
再び頷く。
「くっそぉ、出し抜かれたぁ。クラス最下位だから油断してたわ……木佐紀崎スゲーな、あんな敵一人で倒しちまうんだもん」
牛男が見たのは最後の一撃のみ。それまでに美護達が戦っていた事を彼は知らない。
「これじゃあクラス委員はキサッキーで決まりかなぁ」
「確かに……自分がなるはずだったんだが、これは認めざるを得ない」
「他の人もこの話聞けば賛成してくれると思うよ」
「あんなでかい敵と戦って倒しちまうんだもんな」
美護達そっちのけで二人で話している。「この人達はいつまでこの場にいるのだろうか?」と、若干迷惑顔をしていると、外から教師達の声が聞こえてきた。牛男達は慌ててテントを出て行った。
再びテント内は静寂に支配される。
「よかったね、裂ちゃん。皆が賛同してくれればクラス委員になれそうだね……」
「うん……」
自分のおかげではなかったが裂はクラス委員になれて、塾を辞めなくて済みそうだ。ようやく自分の役目は終わったのかなと、思うのだった。結局、美護は裂がクラス委員になるまで在籍すると言う事に決めた。もうこんな怖い目は合いたくわなかった。これが一般人が抱いた普通の感想だった。
数日後の麻林塾。今日が最後の授業と言ったとこだ。先ほど月謝も返してもらった。美護にとって勇者になるのは、荷が重すぎた。祖師ヶ谷の存在が大きかったとは言え、これ以上異様な空間に身を置いていられなかった。どうせ、祖師ヶ谷とは同じ高校い通うのだ(仮)チャンスはまだまだある。勉強はがんばって、希木語を解析しながらすることにした。
「えぇ皆さん、急ではあるのですがミモちゃんからお知らせがあるみたいです」
牛男達の予想通り、裂がこの401号室のクラス委員になった。路加と北ノ庄城に猛烈に反対されたが最終的に多数決で決定された。
裂の紹介により美護は教壇の上に立っている。勿論クラスメイトにお別れをする為だ。
「えっと、皆に話しておかないといけない事があります……」
今度はどんなサプライズを見せてくれるのかとワクワクの一同。
「私は一般人で部外者なんです」
大方の希望通りサプライズであった。悪い方ではあるが。その発言を飲み込むのに時間のかかる一同。数秒の静寂。
「元々学習塾だと思ってこの塾のテストを受けてしまって、あれよあれよと言ううちにあんな事になってしまいましたが、私は敵とは関係ない部外者なんです。だから今日でこのクラスともお別れしないとなんです。短かい間でしたがお騒がせしました!」
頭を下げる美護。
次々とクラスメイトは立ち上がり、各々がリアクションを示す。普通に驚愕してみたり、悲しんでみたり、勝ち逃げだと憤慨する者と様々だ。
このカミングアウトに驚いていないのは千雅と裂だけだ。
「本当にごめんなさい。皆は真剣に勇者になりたくて……でも、一般人の私にはそんな覚悟は無い……ここにいても、足手まといになるだけです」
一般人であろうと無かろうと佐藤美護がクラス一位のスペックを有している事に変わりは無い。そんな人間が足手まといになるとは誰も思ってはいなかった。
その発言でさらにヒートアップする。とんでもない会見になった、偽装での記者会見などをテレビでよく見るが、きっとこんな感じなんだろうと客観視する。
「だから、今日でさようならなんです」
千雅や裂は好きな人達だったのだが、このクラス自体はそこまで好きにはなれなかった。一般人の王道を行く美護にはアンダーグラウンド過ぎた。
そんなの目には、薄っすら涙が溜まっていた。何で泣きそうなのか今のには分からなかった。頬を涙が走る。
「私達の暮らしを……どうか護ってください……」
深々と頭を下げる。クラスメイトも、こればっかりはドッキリのそれではないと感じ取り、しんみりする。
誰からとも無く拍手が起こった。「ありがとう」「任せろ」「元気でね」など、暖かな言葉と拍手に送られ壇上を降り、ドアに手を掛けようとした瞬間にいきなり扉が開かれた。
そこには男が立っていた。ドンと、その人物にぶつかる美護。
「あ、ごめんなさい」
顔を見上げる。そこには夢にまで見る理想の男性、祖師ヶ谷大蔵が立っていた! 腰が抜る美護。クラスが揺れた。あの世界でも六人しかなれない英勇者の一人で、トップクラスの人気がある祖師ヶ谷が、このクラスに来てくれたのだ。美護が一般人だった事などぶっ飛んで行った。
「あわわわ……」
「ごめんなさい、大丈夫?」
手を差し伸べる祖師ヶ谷、ガタガタと身を震わせ手を取る。
「な、ななななんで……ここ、ここに……?」
「先日、棲梶山に敵が出たって聞いてね。しかもそれを、塾に通う勇者が倒したってのを小耳に挟んだんだ。それがどんな人物なのか気になったんだ」
「あ、それ裂達だよ」
大スターを目の前にしても裂は相変わらずの様子だ。祖師ヶ谷は満面の笑みで裂と握手を交わす。
「そうでしたか! 大変だったね?」
「そんなこと無いよ。裂だけじゃなかったし」
そう言って千雅と美護を指差す。千雅はあまり興味が無い感じで座っていた。その彼女とも握手を交わす。
そして、美護の番になった。動悸が激しい。いつも影から見つめるしか出来なかった。好意を寄せている男が、目の前ほんの一メートルのところにいるのだ、しかもこれから握手をするのである。手汗をスカートで拭く。
「さっき話していたこと聞いたよ。君、この塾辞めるんだって?」
とんでもない事を聞かれてしまった。祖師ヶ谷はとても悲しい顔をしている。彼を悲しませてしまった。そんな自分を殺したい。
「君のような勇者と共に戦えると、僕はとてもうれしいんだけど……」
自ら祖師ヶ谷の手を取る。こんな大胆な事が出来るなんて自分でも思ってみなかった。
「辞めません! 私、絶対勇者になります。そして、そしょしょ……祖師ヶ谷く…………さんのお手伝いします!」
異常なまでに普通を愛する少女、佐藤美護は勇者の世界に残留が決定した。美護は真の勇者になる為に、祖師ヶ谷の恋人になる為に……
しかし、それが叶う日は、まだまだ遠い未来のようだった。
END
ここまで読んでいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
ボクはジャンプと仮面ライダーが好きで、そんな話書きたいなぁとか考え出したのが始まりでした。元々は『変身!』とか言わせたかったんですがあからさまで止めました。
そうゆう、少年的な物が好きな人はきっとはまるかな? とか、夢想します。
個人的には、かなり久しぶりの執筆でかなり、出来にムラがあるかな? と、思います。読んでもらった友人や、会社の人なんかは説明が多いとか、句読点がーなど散々言われました。これでもがんばった方なのです(汗)
読んでくださった方はどのキャラが気に入ってもらえたか。とか、他の人だったらどんな意思兵装考えるかな? など、やっぱり気になるとこいっぱいです。まぁ、前提として読んでもらっているのかって話なのですが(笑)
現在、別の話を執筆中です。そっちも出来上がったら上げます。2月中目標なんでけどキツイッス(笑)
何はともあれ、読んでくださってありがとうございます。