落ち葉の原
「落ち葉は何処から来るのだろうね」
朱落葉は落ち葉の山を突きながら呟いた。
「そりゃもちろん、木の枝から落ちるんだよ」
桑芥子が竹ぼうきで木の方を示した。
二人の遥か頭上には巨大な木の枝があって、遠く霞んでいた。枝の向こうには雲のように濃い霧が漂って空を遮り、陽光も辛うじて地上に辿りつくくらいだ。
「春は遠いね」
朱落葉が落ち葉の山を蹴飛ばした。
「先に冬が来るよ」
桑芥子は眉間にしわを寄せ、意地悪そうに言う。
落ち葉は積もる。巨大な木からは巨大な枝が伸び、何千何万という分枝から数え切れない枯れ葉が降る。ミミズも、ダンゴムシも等しく大きく、食べる量も多い。それに比べて、この二人はあまりにも、豆粒の様に小さい。
落ち葉の谷を潜り抜けて丘を越え、まだ新しく乾いた落ち葉を集めては持ち帰る。落ちて日の経った枯れ葉は水を吸って重く、オート三輪でも運ぶのに苦労する。
「もう入り切らないね」
肩幅程もある大きな手箕を抱え、朱落葉がため息を吐いた。オート三輪の荷台には鉄網が填め込まれ、ここにうず高く盛って帰る。
「運転する?」
桑芥子は竹ぼうきを荷台に差し込み、ゴーグルを揺り示した。僅かな陽光が朱く反射する。朱落葉はそれに答えず、荷台の蓋を手荒く閉め、伏せ目がちにバックシートへ跨った。
調子を崩され、また少し後悔しているのか、桑芥子は戸惑いを隠そうと大げさに手を擦り合わせつつ「寒いね」と口に出した。そうして同じくドライバーシートに跨り、始動スイッチを押した。
二人と落ち葉を乗せたオート三輪は、調子の悪い雄鶏のように何度か唸った後、一瞬静かに、そして突然朝が来たかのように雄叫びを上げた。朱落葉は何時だって、これを怖がって桑芥子のわき腹を引き絞るのだった。
落ち葉の原-おわり