おでかけ
「昨日、あの後どうなったの?」
「どうにもなってねーよ!」
「告られたんじゃないのー?」
「違うわ! そんなんじゃねーよ!」
あー、めんどくさいめんどくさい。
大学生にもなって彼氏がいたことのない姉ちゃんに言われたかねぇな。
いや、いたことあんのかもしれんけど。
今は確実にフリーだな。女子力の低さでわかるわ。
「んで、姉ちゃん今日仕事は?」
「休み。」
「なんで? 珍しいな。」
「今日はですねー……」
わざとらしく咳払いをして、笑顔で言った。
「でぇとぉ♡’’」
「姉ちゃんにも男が……!」
「間違いでもないけど。でも、今は女の子。」
「え、それって……?」
「今日はあんたとウインドウショッピング♪」
「うんうん! 私のがあってよかったわね。」
「なんでこんなに派手なんだよ……」
服は全て姉ちゃんから拝借した。
流石にこの身体で男物を着ると違和感があるからな。
帽子から靴まで全てがピンクで染まっているのがかなり気になるところだけど、
姉ちゃんはもう着れないサイズの服だとしても姉ちゃんのものなので文句は言えない。
「あんた色白だからピンクが似合うわよ!」
「知らねぇよ。いや、女なら色白のほうが……」
「さ、いこいこー!」
「自分で言っといてスルー!?」
いつの間に買ったのかが不明なペットボトルのジュース片手に歩き出す姉ちゃん。
鼻歌も聞こえたけど、上機嫌の理由が謎だ。
ここはこの街最大のショッピングモールだ。
ありとあらゆるものが揃い、ここに来れば目当てのものは大概ある(と、姉ちゃんは言っていた)。
まぁその辺は生まれながらの女子である姉ちゃんのほうが詳しいだろうし、文句は言わずについて行こう。
「姉ちゃん。」
「どうしたの? トイレ?」
「違うわ! 何で俺をここに連れてきたんだ?」
姉ちゃんは嫌な目で俺を見つめる。
「なんだよ?」
「あんた、ずっとあのジャージで過ごすつもり?」
あのジャージとは、男の頃から着ていた部屋着コレクションの中の一着のことを指す。
当然、男物の服しか持っていない俺のコレクションの中で唯一女子もいけるラインをクリアしたのがジャージだったというわけだ。
「まぁ。平日は制服だしな。」
「甘いなぁ。ダメだよそんなんじゃ!」
「だってあれしかないし。」
「はぁ〜。呆れるわねぇ。
だから、今日はあんたの服を見に来たのよ!」
「あー!」
めっちゃシンプルな理由じゃん!
なんで気付かなかったんだろうな。
「私のファッションセンスを舐めるなよー!」
「おう……。」
気合い入ってんなぁ。
それはありがたいし、ファッションセンスを舐めているわけでもない。
ただ……嫌な予感しかしないんだけど。