転入。
翌日の朝。俺は姿見の前で絶叫していた。
「うぎゃー! かぁわぁいぃー!」
「……想像以上ね! あんた、もともと女顔だったし、素質はあったんじゃない?」
「な、なんだか複雑な気持ちだよ……」
鏡の向こう側で俺であって俺ではない美少女がセーラー服を着て微笑んでいる。黒髪の俺が着ると、よく映えるな。
「まず、足は内股ね。」
「こっ、こうか?」
内股にしてみる。骨盤のあたりが痛い。
「そうそう。 で? 座るときは?」
「座る? 座るのはこうだろ?」
近くにあった椅子に腰を落とす。
座るって、こうするしかないと思うんだけど。
「はいブー! その座り方はNGよ!」
「なんで?」
「スカートが捲れて下着が見える場合があるの!」
「別に良くね?」
「ダメに決まってんでしょ!?」
「つーかさ、さっきから思ってたんだけどよ……」
「なによ?」
「スカート短くね?」
「私のなんだから当たり前でしょ?
短い方が可愛いし。めっちゃ似合ってるし。」
スカート丈、膝上15cm程度。
少しの風でも下着が見えてしまう程の短さのスカートを着せておいて、下着が見える云々。
かなり理不尽じゃないだろうか?
「あ、時間! 学校行くよ!」
「ちょっ、おい!」
「心配しなくても大丈夫よ!
この学校は、いい子ばっかりだから。すぐに馴染めると思いますよ。」
よりにもよって2-2。柚春のときと同じクラスに転入することになってしまった。
いい子ばっかりなのはよく知ってますよ。
「こちら、担任の明池先生です。」
校長先生が隣に座っている女性を示す。
「えーと、霜北 柚姫さん……!?」
「ど、どうかしましたか?」
「いやいや。転校した生徒と名前が似ていたものですから、つい驚いてしまって。」
「そうなんですか。」
なんで一文字しか変えてないんだよ!
普通、疑われるに決まってんじゃんか!
「じゃあ、教室へ向かいましょうか。」
歩き慣れた廊下を歩いているはずなのに、とても新鮮な気持ちだった。
男から女になったんだ。見える世界ももちろん違うだろう。
「……着いちゃった。」
「ええ。ここが2ー2の教室。
生徒に少し話してくるわ。待ってて。」
先生は教室内で、転入生が来たことを話しているようだった。
見た目はともかく、中身は昨日までもこの学校、この教室に通っていた霜北 柚春だ。
緊張なんて全くしない……はずだった。
「入ってきて。」
先生に促され、俺は教室に足を踏み入れる。
同時に教室の張り詰めた空気が吹き飛び、一気に騒がしくなる。
「私の名前は、霜北 柚姫です。
これから、このクラスの一員として仲良くしてもらえたら嬉しいです! お願いします!」
拍手。女子からの可愛いという声。男子からの希望に満ちた声援。
教室を端から見渡してゆく。
全てよく見知った顔だったが、とある一点で俺は停止した。
「柚……?」
中央、一番後ろの席に座っている男子生徒。
そいつは目を見開いて薄く涙を浮かべていた。
寄土 博詩と、目を合わせてしまった。