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(99)  開かずの間

 江戸時代、五代将軍の御代みよという。大奥御殿には宇治のと呼ばれる、一切の立ち入りを禁じられたかずの間があった。天下の将軍家さえ入れないのだから、それはそれは、怪奇きっかいな間だったようである。

 そして時は流れ、現代となる。ここ三津葉家でも誰も立ち入らない、いや、立ち入れない開かずの間があり、家庭内はその間への対応問題で紛糾ふんきゅうしていた。今、世を騒がせている集団的自衛権とは、明らかに異質の問題である。

 家族の者達が、その間へ立ち入れない背景には、それなりの理由があった。先代の三津葉家之助は大の骨董こっとう好きで、母屋おもや続きの離れにある家之助の間には、ぎっしりと収集した骨董であふれ返っていた。中には物だけではなく、本来は庭などの外に置かれるはずの盆栽も含まれていた。徳之助の死後、家族の者達は徳之助の間へ入ることなく、それらはそのまま放置され続けたのだった。

 さてそうなると、必然的に部屋の内はちりほこりまみれとなる。家之助の離れは、かなり古い日本建築で、いつこわれてもおかしくないあばら屋だった。そんなことで、ポタポタと屋根瓦が割れた隙間すきまから雨水あまみずれ、部屋中にしたたり落ちたのである。骨董類はまだしも、盆栽鉢は枯れることなく勢いを増し、中には根が鉢を突き破り、ゆかい出すものも現れた。そして、数十年が経った頃には床はち、盆栽はついに床板下の地中にまで根を張り、成長したのである。もちろん、根だけでなく、鉢を割った盆栽は幹周みきまわりも太くなり、スクスクと伸びて天井板を突き破るまでになった。驚愕きょうがくしたのは、母屋に住まう家族達である。中には、家之助の人魂ひとだまを見たと言う者まで現れ始めた。

「お父さん、見て下さいよ…」

「くわばら、くわばら…。開かずの間へ入るくらいなら、引っ越した方がいい!」

 家之助の長男、忠之助は妻の美登里にそう言うと、ついに屋根瓦を突き破った木のみきを見上げ、両手を合わせて合掌がっしょうした。三津葉家の開かずの間問題は、知らず知らずのうちに怨念おんねんを含んだ奇っ怪な大問題へと発展し、三津葉家の面々を悩ませることになったのである。

 だが、悪いことが起これば、いいこともあるのが人の世というものだ。三津葉家の珍現象は、マスコミに取り上げられ、テレビ画面でも流れるまでになった。そして、ついに霊スポットとして、多くの観光客が訪れるようにまでなったのである。三津葉家では、このプームにあやかり、三津葉家・開かずの間グッズを観光客へ販売し始めた。その結果、莫大ばくだいな利益を上げることになった。三津葉家では現在、有り難い有り難い…と、開かずの間神社なる神社を建立こんりゅうしようという計画が持ち上がっているそうである。 


                  完

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