(95) W杯・決勝リーグ
画面では8強を決める試合が行われていた。0-0のまま延長へと突入し、PK[ペナルティキック]直前の後半終了間際、アルゼチンのメッシーがお膳立て[アシスト]した劇的なシュートがスイスイの堅塁ネットを揺らしたのだった。会場のサポーター達から悲喜こもごもの叫びが響き渡った。これは人生模様だ…と蹴鞠はW杯をテレビで観戦しながら思った。ひとつづつのプレーが人生そのものであり、障害物[相手選手]に対して果敢に突破しようとボールを蹴り、転がす…と思えたのだ。
現地では昼間でも、こちらは深夜の時間帯だった。日が変わった午前1:00の試合開始で始まったアルゼチン対スイスイの試合はアルゼチンの二十数本にも及ぶゴールへの波状攻撃シュートでクライマックスを迎えていた。事前に少し眠っておいたのが幸いし、深夜に関わらず蹴鞠は余り眠くはなかった。スイスイには申し訳なかったが、歴史好きの蹴鞠にはスイスイのゴールキーパーが少し落城寸前の城主に思えた。劇的なシュートの瞬間、ああ…ついに落城か、と蹴鞠は思った。蹴鞠は思わず身を乗り出し、反動で首を少し捻っていた。首筋に僅かな痛みが走ったが、ジィ~~っとしていれば痛くはなかった。選手達が蹴られたり、倒されたり、足を吊ったりしてるのに比べりゃ、こんなものは…と、蹴鞠はW杯に対する影のサポーターを自覚して身を引き締めた。
次の朝、蹴鞠はベルギンが勝ち、決勝リーグの8強が出揃ったことをネットで知った。破れたチームの選手諸氏にはご苦労さんと言いたい…と蹴鞠は思いながら、なるほど、この国の顔ぶれか…と、それなりに納得した。まあ、どのチームが出揃っても納得する蹴鞠だったのだが…。
7/5から、いよいよ準々決勝が行われるようだ。ということは、この試合は準々々決勝だったんだ…と、思いながら蹴鞠はテレビを消した。首筋の痛みが消え、シャキッ! とした。
完




