(94) うすら馬鹿
何度もキーを叩き間違えた挙句、出来上ったと満足して茶を啜るのはいいが、その記事がブログにアップされると、必ず入力ミスがあった。そんな自分を阿保は、うすら馬鹿か…と嘲って苦笑した。これだけ間違えれば、昔なら切腹ものだな…と阿保は思えた。ええいっ! 気分一新だっ! とばかり、阿保は外の作業をすることにした。暑くなる朝のうちに…と思えたこともあった。ところが、である。
阿保は庭木の剪定道具を出そうと小屋へ入った。そして、剪定を始めた。やがて剪定作業は順調に推移し、小汗が滲む頃には作業は終了した。ここまではよかった。阿保は剪定道具を小屋に戻すと鍵をかけようとした。そのときである。おやっ? と、阿保は思った。置いたはずの窓枠のところに鍵がないのである。はて、おかしいな…と、阿保はズボンのポケットを弄った。しかし、鍵は出てこなかった。阿保は、まてよ! と思い巡った。鍵を無意識に収納場所へ戻した可能性もある…と思えたのだ。阿保は鍵の収納場所を調べた。だが、鍵はやはりなかった。その鍵の予備キーは収納場所にあったが、見つからないとなると、どうも心が晴れない。阿保はテレビに映るW杯の出場選手のように腕を組み、ポーズをつけて思い巡った。そのときである。カウンター攻撃のような発想が巡った。この出来事は過去にもあった…そのとき買っておいた鍵があったぞ! である。そのときは、鍵は発見され、使わずにしまっておいたのだった。阿保は記憶にあった箱の中をふたたび、弄った。買っておいた真新しい鍵とその鍵のキーがあった。阿保は名札を付けて小屋の鍵を付け変えた。
事が終わったとき、十時半は疾うに回っていた。フゥ~っと阿保の口から溜め息が漏れた。パソコンのキーの叩き間違えといい、小屋のキーの紛失といい今日はキーの厄日だな…と思えた。しかしすぐ、それはキーを使った俺がうすら馬鹿だったせいか…と、阿保はすぐ思い直した。
夕方、阿保が小屋前でもう一度、探していると、なんのことはない、キーは入口下に落ちていた。阿保は益々(ますます)、自分がうすら馬鹿に思えてきた。
完




