表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/100

(88) 継続

 彫刻家の内竹は起きると、一枚の写真をながめるのが日課となっていた。もう彼是かれこれ、五十年ばかりきもせず眺めている自分に、内竹は、ふと気づいた。

『五十年…もう、そんなになるか…。継続は力なりと言うが、そういやまだ、続いてるな…』

 内竹には思い当たることがあった。リアリティな芸術大賞のトロフィー写真である。内竹は、この賞が欲しかった。それが五十年前だった。そして、月日は流れ去った。毎年、出展してはいたが、その都度、入賞は見送られ、一度だけ佳作になったことを除けば、すべての結果は思わしくなかった。当然、内竹は有名彫刻家の名声を得ることなく、この世に埋没しようとしていたのである。それでも内竹は、そのトロフィー写真を見続けていた。彼の生活は困窮し、バンの耳とキャベツ、マヨネーズの日々が続いた。それでも、内竹は写真を眺めては、彫刻を継続した。

 ある日、内竹は不意にあることに気づいた。自分が刻んでいる彫刻は三次元物である。なのに、この栄光のトロフィー写真は二次元物だ…と。二次元物は面のみの世界で幅がない。そうだ! なんとかして、幅のない彫刻は出来ないものか…。それは、胴板とかを盛り上げたレリーフ彫刻ではなく、塑像として…。内竹はそれ以降、来る日も来る日も瞑想めいそうふけり続けた。もちろん、一枚の写真を眺めながらであった。

 内竹がひと皮、けたのは、それから数週間、った頃だった。彼は、ついにその方法を見出みいだしたのである。

『自分の彫刻は新たな三次元物を生み出すことだ。決して二次元物は生み出せないのだ。ならば、彫刻を出来るだけ幅をせばめ、二次元物的に表現できないものか…』

 この発想のもと、内竹の思考錯誤の彫刻する日々が続いていった。そしてついに、内竹は新しい彫刻技法を完成させたのである。人類が未だ創造し得ない新たな二次元的三次元の彫刻物を…。

 新たな彫刻開始より一年、内竹の完成をみた彫刻は、ついに芸術大賞を受賞し、晴れてリアルな現物のトロフィーを手にすることが出来た。まさしく、継続は力であった。


                 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ