(87) 腐食
梅雨だというのに朝から真夏の暑さに松代は辟易としていた。ふと外を見れば、一匹の蜂が様子見に来ているのか、ベランダ越しに飛び回っていた。足長蜂は毎年、コンチワッ! と訪れるレギュラーで、申し訳ない程度の巣を作り、冬にはいなくなった。検索で調べてみると、冬には死んでしまい、その年の巣は二度と使わないから、威嚇して近づかなければ安全…と書かれていた。そんなことで、松代はそのまま彼等を見ないことにしていた。そして、何も起こらないまま、年は明けていった。今日の蜂は? と松代が注視すると、大型の蜂である。スズメ蜂に思えた。松代が小さい頃、十年蜂と呼んでいた蜂の類だ。これは、刺されどころが悪いと人でも危うい。松代としては御免蒙りたい…と、瞬時に思え、追っ払う意味も込めて台所の換気扇の紐を引っ張った。換気ファンが勢いよく回転し、その音に蜂は危険を感じたのか、どこかへ飛び去ってしまった。やれやれ、これで一件落着…と思え、松代は紐をふたたび引っぱると換気扇を止めた。そのときである。松代は、おやっ? と思った。確か以前は回転が止まったとき、換気扇の外側についている蓋が、パタン! と低い金属音を出して閉じた記憶があった。それが今、外蓋が閉じなかったように思えたのだ。松代はもう一度、換気扇の紐を引っ張った。正常な回転音がし、ファンが回った。松代は回転ファンの部分を注視した。すると、ファンは勢いよく回っていたが、蓋が開いていないではないか。これでは換気扇の意味がないぞ…と、松代は脚立を出し、家の外側から調べることにした。幸い、飛び回っていた蜂は飛び去って以降、姿を見せなかったからその安全は確保されていた。
脚立に登ると、蓋の部分が油でベトベトに汚れていた。三枚ある開閉蓋の一番下の蓋が斜めに外れている。その開閉部を開けると、開閉部の片方が腐食して千切れ、外れたことが判明した。松代は、こりゃ、溶接できる厚さではない…と、まず第一感、思った。続いて、ガムテープでは、すぐに風圧で外れるだろう…と第二感で踏んだ。とすれば、針金で固定するしかないか…と第三感で結論づけた。松代は針金を探した。細い針金が欲しかったが、捨てずに部品取りをして残しておいた箒の針金があった。松代はそれを使って固定した。ベトベトと付着した油は、これも残しておいた摩耗歯ブラシで油洗剤を使って擦り落とした。終わると、フゥ~~っと溜め息を一つ吐いた。さて! と、家の中へ入った松代は換気扇の紐を再々度、引っぱった。換気扇の回転ファンが回り、開閉蓋は、固定した一枚を残し元どおり開いた。数度、紐を引っぱり、開閉蓋の開閉に異常がないことを確認した。そして、これでひとまず修理は終わったか…と、松代は手を洗った。そのとき、ふと、松代の脳裡に腐食した日本の姿が重なった。
完




