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(86) 再利用

 篠川は次の日曜、家の小屋の壁面をペンキ塗装し直そうと考えていた。常々、考えていたのだが、雑用と所用に追われ、ばし延ばしになっていたのだ。それが、ようやく実行できる運びになったのである。完全な日曜大工の部類だが、気がかりなことをそのまま放っておくのは篠川の性分に合わなかったから、彼はウキウキ気分でテンションを高めていた。

 この手の補修は過去にも経験済みだったから、自信はあった。失敗もあったが、その都度、工夫したりする経験値は高まった。

 朝から始めた作業は順調にはかどり、昼前には大方は塗装を終えた。さて、昼に…と、刷毛はけを洗おうとしたときだった。裏庭の垣根のくいが篠川の目にうつった。それらの杭は先端が雨に打たれ、少しち始めていた。木製の戸にはクレオソート油を適当な時期に塗っていたから、杭にもついでに塗ってはおいたのだ。ただ、杭の場合、切断面が真上になるから、雨滴が直撃して腐食しやすいのだ。はて? と篠川は思い巡った。すると丁度、上手うまい具合に、からになった塗装のき缶が多数あった。何かに使えるだろう…と踏んで、捨てずに残しておいたものだ。よし! これを杭の先端に被せて、ついでに塗装しよう…と決断し、ただちに実行した。ペンチで空き缶の持ち手になっている針金ハリガネはずし、すべての杭にかぶせた。続いて、被せた空き缶を塗装した。腹は減ってきていたが、ハングリー精神で我慢し、乾いた上を二度塗りした。空き缶は再利用され、第二の務めを果たすこととなった。人間も、かく有りたいものだ…と、篠川は、つくづく思った。

『どうも…』

 篠川がドアを閉め、家の中へもどった途端、空き缶達は小声で、そう言った。そのことを篠川は知らない。


                    完

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