(82) 浄水器物損事件?
いつもは意識せず使っている浄水器から出る微妙な音に彦上は、ふと気づいた。蛇口を捻ると、浄水器が接続されているから濾過された水は当然、浄水器の先端から勢いよく吹き出る。彦上はもっぱら飲料水用として使用していたから、食器とかの洗浄とは区別して使っていた。言い忘れたが、彦上の洗面台の蛇口は2ヶ所あって、片方は洗浄用の普通の水、そしてもう一方が浄水器を接続した飲料用の蛇口となっていた。
浄水器には濾過された水ホースと、もう一方の排水されるホースがある。彦上が微妙な音に気づき、浄水器を注視した。すると、排水ホースの先端からその音がしていることに気づいた。蛇口は締めてあるのだから、水が出る訳がないのだ。それが、排水ホースの先端から時折りブクッ! と泡と僅かな水が出ているのだった。彦上はおやっ? と思った。以前からこうだったんだろうか…と。もし、そうだとすれば、彦上が気づかなかっただけなのだから、取り分けて問題視することはないのである。ただそれが、他に問題があるなら話は別である。浄水器、蛇口、その他の原因を探らねばならないのだ。彦上は犯人を解き明かす辣腕刑事になった気分で洗面台の捜査を開始した。浄水器物損事件? である。
一時間後、ゴチャゴチャと一応、細かなところは調べたが、めぼしい手がかりは見つからなかった。要は、原因不明でお手上げ状態・・ということである。行き詰ったか…と彦上は思った。原因が判明しない以上、仕方がない。彦上は気づかなかった態で意識しないようにしようとした。ところが、である。今度は微細な冷蔵庫の音に気づいてしまった。彦上はふたたび、こんな音、以前したか? と冷蔵庫を眺めながら巡った。そういや、していたぞ…いや、していなかったーと迷いが生じた。事件? は意外な方向へと進展を見せ始めたのだった。
彦上がしばらく冷蔵庫のドアを開け閉めしていると、冷蔵室に隙間が出来ていることを発見した。彦上は収納物を一端、出して入れ直した。すると、ピタリと音はしなくなった。結果、この一件は割合、早く落着したのである。さてそうなると、残るは未解決の浄水器だった。彦上はもう一度、浄水器を注視し、蛇口に接続した浄水器を外した。蛇口の先端からポタポタッ・・と、水が漏れていた。蛇口内のケレップのゴム製パッキン部分が摩耗している…と考えられた。彦上はプライヤー、ウオーターポンプレンチと呼ばれる修理工具を出すと一端、水道の元栓を止め、ケレップを付け替えた。すると、何もなかったかのように浄水器のホースは、先から水を出すことをやめていた。当然といえば当然で、犯人は擦り減ったケレップのゴム製パッキン部分と判明した。なんだ…初めから気づいて付け替えていりゃ事件にはなってなかったのか…と彦上は、あんぐりした。
完




