(81) やる気
年金を減らされ、心が萎えたところへ、健康保険料の増額である。春には消費税が上がり、本岡はトリプルパンチの支出増にすっかりやる気を削がれていた。
「所得税でとればいいのにな…」
本岡はポツリと呟いた。彼の心には、かねてより一つの思いがあったのだ。どうも国力が萎えているぞ…さ生意気に思った。本岡ひとりで解決できるはずもない途方もなくドでかい発想だったが、本岡は自分の考えは間違っていない…と、確信していた。
本岡の考えは、こうである。国の人口は次第に老齢化しているという。それに伴う年金支給額も増加しているらしい。結果、財源の捻出に新たな国債発行に依存せざるを得ない・・となるようだ。国の今の制度は、年金支給対象の老齢者が働けば年金を減らす! としている。ここが間違ってるんじゃないか・・と本岡は発想したのである。老齢化しているなら、①として、老齢の働ける人には門戸を開けて、大いに働いてもらえる環境を作ればいいじゃないか! という怒りの発想である。②は、年金はその人が働いてきた積立金+長年の労働に対する感謝とお礼じゃないのか? 働いたからといって年金を減額するというのは間違っているという怒りの発想である。さらに③は、それに関連した発想で、大いに働いてもらった税は所得税で納めてもらえばいいじゃないか! という怒りの発想なのだ。こうすれば、国民生活も向上し、国の財源も潤って国力は強くなる…と本岡は確信していた。藩政を改革し、米沢藩の財政をを立て直した江戸期の藩主でして経済人だった上杉鷹山[治憲]を深く敬愛する本岡は、現在の国の現状をいろいろと考えたのだ。そして辿りついたのが、この発想だった。
いつの間にか夕方近くになっていた。本岡は法人税を下げても国力は回復しないぞ…と思う自分がアホに思えた。自分一人の身も処せない自分が、考えることではない…という思いに至ったのである。ひとりのことを考えよう…そこから、すべてが始まるのだと…。本岡にやる気が、ふたたび出ていた。意味なく笑え、悟った思いで湯呑みの茶を啜った本岡だったが、茶は熱すぎ、舌を火傷した。ヒリヒリする舌で、本岡のやる気はまた失せた。
完




