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(80) 曇天[どんてん]

 小丸おまるが目覚めてトイレの窓から外をながめると、梅雨の中休みでもないのだろうが、空は今にも降りそうで、しぶとく持ちこたえていた。さ~て、どうするか…と、小丸はまよった。というのも、天気がよければ伸びた枝の整枝作業をしよう…と、昨夜からひそかに思い描いていたのである。ところが、今朝のこの空模様である。降るようでもあり、降らずに一日が終わる可能性もあった。こういう中途半端は困るのである。小丸は便秘ぎみの便を出そうと必死にいきみながら、「困るよ、そういうのは…!」と、空を眺めてひとりごちた。

 一時間後、小丸は結局、剪定せんてい用の高枝鋏たかえだばさみを握って作業をしていた。朝も食べず、トイレを出て、作業にかかったのだった。心の奥底には、降る前に…という警戒心があった。最初は朝の冷気が残っていたから気分よく作業は進んだが、九時を過ぎると、し暑さが肌にまとわりつくようになり、事態は一変した。ジトジトと汗が小丸の身体をおおっていったのである。曇天どんてんはコレだから…と、小丸は見えない相手に怒った。

 結局、作業はほどよいところで中入りとなった。腹が減っていることに小丸は気づいたのである。食べるのを忘れるのは増加気味の体重を減らすには丁度いい作業なのだが、さすがに汗はかないと風邪をひいて藪蛇やぶへびだろう…と図太い小丸にも思えたのだった。ただ、小丸の性格上、途中で作業を放っぽらかしておくのは彼の心が許さなかったから、家の中で他のことをやっていても、なぜか心が落ちつかなかった。

 夕方、小丸はふたたび作業をやり始めた。少し気温が下がり湿気がせたのと、曇天のまま降らなかったこともあった。ほとんど終わったとき、ポツリポツリと雨粒が落ち始めた。七時前にはなっていたが、まだ充分、外は明るかった。小丸は、空を眺め、「よくやった!」と、持ち堪えた空と自分をたたえた。


                  完

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